第九十三話「戦力内、外」
「おい逃げろっっ!」
とてつもない速さでロケットを貫こうと迫るベレムナイトを見ながらコールが叫ぶ
しかしボウリーは至って冷静で、何食わぬ口調で返答する。
「逃げろ??バカ言うな」
あと少しで両者が接触するその刹那
ボウリーが乗るロケットの下、
大型ブースターの点火部から
放射状に幾つものオレンジ色の光が射出される
「なんだこれはっっっ!?」
眼前に広がった光にベレムナイトは急いで回避しようとするが接近しすぎたせいで退避場所がない
すると攻撃はそれだけでなく、ブースターの真ん中、一番大きな開口部がオレンジ色の光を溜め、チャージしているのが見えた。
「まずい」
言い終えるか終わらないかの所でチャージされていた光が放たれ、ベレムナイトを地面まで案内する。
「凄まじい攻撃だ.....」
空に流れる幾つもの光を呆然と仰ぎながら
ツヴァイが感嘆の声を漏らしていると、
人機の一人があることに気付いた。
「.....いやあれ、なんかコッチきてね??」
その言葉と状況を理解し切るのに数秒かかった為、流れ落ちる光はすぐ頭上まで迫っていた。
「どわぁぁぁあああ!?!?」
「退避退避〜!!」
北門を中心にオレンジ色の光が降り注ぐ、
その全てを等しく照らすが如く流れ落ちる光に
シンたちが慌てて逃げる中、ボウリーが叫ぶ
「これこそコラプト・グウェイド様の右腕
ボウリー・デーリレートが真骨頂、
『熱線の枝垂れ木シャワー
〜熟れた果実は落下の季節だよ〜』だ!」
「何だそのクソみたいに長いバカみたいな技名はっ」
元は機械軍で現、鉄の残骸に飛び込んでやり過ごしたツヴァイが沢山の残骸を身体にひっつけながら空に向かって怒鳴る。
「そうだ馬鹿野郎!しかも手伝いとか言って一網打尽にヤろうとしてんじゃねぇかっっ!!」
殆どの者と同じように分厚い北門の中に退避したコールも突如始まった実質無差別攻撃に同じく怒鳴った。
「ん?標準はお前たちに合わせてないぞ??」
何が悪いのか本気で分からないという口調で
ボウリーが声をかけるが、その口調が余計にコールの怒りを買う
「拡散してんだよ!」
地面をダンッダンッと踏み鳴らし怒りを飛ばすコールをワガママな子供に呆れるような口調でボウリーが謝罪する
「はぁ....そちらには大した被害は出てないだろ?
0.1カウントだよ 0 . 1 カ・ウ・ン・ト
まあ、こちらの非が全くのゼロでは無いのは確かだからな?
謝っといてやるよ。はい、垂れ頭」
「絶妙にうざいぞあの野郎っっ」
余計な言葉を詰め込んで最終的には謝罪(?)したボウリーだが、その謝罪はただ頭を下に向けたようにしか見えなかった。
「ちょっと喧嘩してないで見なさい!
アイツが落ちたとこ!!」
放っておいたらいつまでも続きそうなやり取りが
セレナの一言で中断され、全員が一番太い光が落ちた場所を見る。すると煙の中でむくりと立ち上がる人影がハッキリと見えた。
「最初こそ驚いてしまったが肩透かしだな
これしきでは全く脅威にはならないぞ?」
ゆっくりと煙の中から出てきたベレムナイトの頭の上、そこには背中の装甲が傘のように展開されている。
「アレで防いだのか....?」
「だとしてもなんで無傷なんだよ.....」
「まあ、機械軍の戦闘部隊には火力が足りないわな
元々潜入が基本仕様だから他の仕掛けもねぇし、
退散だこりゃ」
敵の頑強さに信じられないと呟くコールたちとは反対にあっけらかんとしたボウリーは話終えるなりロケットの全ブースターを展開して北にそのまま進み出した。
「あっ逃げやがった!
待ちやがれっっ」
「大したお構いも出来ずにすいやせんねぇ
あっしはこれで失礼いたしやすよぉ⤴」
モニターに映るボウリーが両手を合わせてペコペコしたかと思えば、すぐにブツンッと映像が切り替わって元の戦場の映像に変わった。
「潔い撤退だ、
まあアレくらいなら大した脅威ではないだろうな
ではそろそろこの戦いを終わらせるとしよう」
街から離れるロケットを一瞥したベレムナイトは
すぐにこちらに顔を向け直し、優雅な動きで構えを取った。
「くっ来るぞ!」
人機軍はその圧倒的強者感に気圧され
士気が崩壊の音を立てる寸前、
背後から頼もしい声がした。
「すまない、動けるまで少し時間がかかった」
不動明王が如くどっしりとした構えと落ち着いた声の正体はダン
胸部装甲に大きな亀裂が入っているが
その立ち姿には安心感しかない
「隊長!?」
「もう大丈夫だ
それにしてもベレムナイト、とんでもない相手だな
......悪いが全員で時間を稼いで貰えないだろうか
準備が整えば何とか奴を倒せるかもしれない」
「努力はするがアイツ相手にそんなに時間は稼げねぇぞ!」
少し考え込んで作戦を立案するダン
しかし勝てる可能性はあれど
その犠牲というリスクに手放しで喜べない提案から
コールの愚痴がこぼれる
「分かっている。
だがこれ以外に方法は無さそうだ
間に合わずに全滅する可能性の方が高いが
総員を上げて時間を稼いで欲しい」
「わぁったよ!
皆やるぞっ、戦える奴は集まれ
アイツを囲める人数のチームに別れて波状攻撃だ
なるべくお互いを理解してるやつで班を作れ」
ダンの真剣な頼みに殆ど決めかけていた覚悟を決め切り、コールが全体に指示を飛ばす
「いいか?仲間がやられても動揺するな、気にするな、心配するな、その時点でお前は無駄死にする
ただアイツと戦い死ぬまで時間を稼ぎ続けろ、いいなっっ!!」
コールの指示に続いてツヴァイも指示を出す
だがその指示は余りにも無情であり平時ならとても受け入れられないもの
しかしこの時その言葉を聞いた全ての戦う者は
ただただ、
『おお!!』
と声を揃えて叫ぶのみだった。
「まだ足掻くか
ふむ、時間稼ぎに付き合ってその切り札を正面から跳ね返すのも一興だが、
相手はあのシュナウザー
最大限の警戒度で挑む必要があるな......」
こちらの作戦を分析してブツブツと考え込むべレムナイト、
目を伏せて思考に集中するその隙にダンが叫ぶ
「マーカス!聖歌隊とショウを連れて離脱しろっ
それにそこの水竜もプールごとフックで吊るして連れていけ!!」
「了解」
戦場の上空にホバリングするヘリに指示を入れ
愛息子を逃がすように命令し、
攻撃に加われない聖歌隊や味方を巻き込みかねない竜に戦力外通告を出す。
「そんな、いやだよお父さん!!」
当然ながらショウは反対し、
聖歌隊やキューイも通告に納得できなかった。
「私たちだってまだ戦えるよ!」「キュー!」
「聖歌隊の君たちは戦闘に関して全くの素人だろう?
そして水竜よ、確かに君の攻撃は強力だが巻き込まれれば我々も不味い」
「うぅ....それはそうだけど」「キュー.....」
「適材適所だ。逃げた後、最後の砦である君たちでショウを守ってくれ
それと.....聖歌隊の社長、無理やりでもいい。
ショウを頼む」
完璧に納得しきらない彼女ら、それでもある程度は説得できたと考え
ダンは続けてエーミールにも頭を下げ頼んだ。
「........。
わかったわ、頼まれてあげる」
見たこともないヨガポーズからスッと立ち上がったエーミールは
ショウをヒョイッと担いで聖街の建物の屋根を走って飛んで移動していく
「あっ!ちょっと待ってくださいエーミールさん!!
エーミールさんっっ!!!
たすけて、あんばぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あれよあれよと運ばれたショウは聖堂の頂上、
街で一番高い場所まで連れて行かれた。
「わふっ!?」
あっという間に連れて行かれたショウを取り戻そうと
急いで羽ばたこうとしたアンバーだったが、ダンに呼び止められる
「君にも頼んでおこう。
ショウの白き友よ、
どうかいつまでもショウを守ってやってくれ」
「わぅぅぅ......??」
優しく頼みかけるダンの口調と無理やり運ばれ間延びするショウの叫びに
アンバーは困惑しながらもゆっくりとヘリの方へ向き、戦場から背を向け静かに羽ばたいた。
「ありがとう.......
さて、奴が悩んでいるうちにチャージを進めたかったが
どうやらこちらも時間をかけ過ぎてしまったみたいだな。」
離れ行く息子を名残惜しそうに眺めながらその友たちに感謝を呟くダン
まだ終わっていない戦いに意識を戻し、いくら考えても無駄な後悔を漏らしながらチャージを始める
一方、深い思考の中に入ってもなお襲う隙を与えないべレムナイト
その伏せていた目が真っすぐ前を見つめる
「ふむ.....
最短で雑魚ウィルスを蹴散らし
シュナウザーを潰す。
最後に逃げた残党処理と人間の回収.....
これでいこう」
伏せていた目を上げれば
チームを作って等間隔に並び自身を取り囲んでくる人機たち
輪の外で少し離れ力を溜めるダン、大型ヘリが南に向かって飛んでいく
それぞれを見世物でも鑑賞するように顎をさすりながら眺めるベレムナイトは、
態度よりずっと用心深く考え込んで立ち回りを決めていた。




