第九十四話「敗残兵の意地」
「最短で雑魚ウィルスを蹴散らし、
シュナウザーを潰す。
最後に残党処理と人間の回収.....
これでいこう」
ベレムナイトは人機軍の動きを見世物でも鑑賞するように顎をさすりながら眺める。
「誰が雑魚だ、
俺らだってそう簡単にはやらねぇぞ!」
右手でスティレットを引き抜き、
左手の十手を敵に突き向けるコールが喚くが
ベレムナイトは見向きもせずにダンの方を真っ直ぐ見つめ続けている。
「はっ、俺らなんて眼中に無いってか?
お前ら何としても時間を稼ぐぞっっ」
「全軍、準備はいいですか!!行きますよ.....」
『突撃ぃぃぃいいい!!!』
ツヴァイの声に続いて騎士団の一人が号令を出す
ベレムナイトを取り囲む人機たちが幾重にも押し寄せる波のように襲いかかるーーが、
「ぐあっ」
「ああっっ」
「うわあああ!!」
ベレムナイトは襲い来る鉄の波を弾いて弾いて弾き返す
攻撃で原型がなくなった鉄くずの波が
押し寄せた時以上の高さに上げられて返っていく
「クソッ!なんて野郎だ
仲間がどんどん殺られてく!!」
後ろで自分の波を待つコールが目の前の処刑現場に焦りを募らせる中、
シンが埋めようの無い敵との力の差を見て弱音が出る。
「一方的すぎる、
このままじゃ時間を稼ぎ切れないっ」
二人と同じくして自分の攻めるタイミングを待つツヴァイも
予想以上の反撃に動揺せざる負えない
「どうすれば.....」
「どうするも何も作戦通りやるしかないでしょ?前に進み続けんのよ!
何もしないで殺られるくらいならせめて掠り傷でも与えてやるわっっ!!」
再び崩れ出す士気に喝を入れるべくセレナが叫び
その声で完全では無いが士気が再び持ち上がる
「そうだな」
「ああ、そうだ」
「やるぞぉぉおお!!」
ベレムナイトを囲む人機たちの所々から雄叫びのような同意と決意が上がり、
波が少し加速した。
ーー
聖堂の一番上に担がれ、運ばれたショウは
聖歌隊を乗せた大型ヘリから垂れる縄梯子をよじ登っていた。
「戦場に戻ろうとしても、この高さから落ちたら助からないわよ?」
できるだけゆっくりと上りながら北門の方をチラチラ見るショウ
その下に続いて縄梯子を上るエーミールが見え見えの考えに釘を差してくる。
「.......そんなの....分かってますよ........」
「分かってないから言ってるんじゃないの。
いい?一人で戻ろうったってここから落ちれば死ぬのよ?
第一戻ったってアナタに何ができるって言うの??」
重苦しく返答するショウをエーミールが諭そうと声をかけるが
その顔は苦虫を嚙み潰したように険しく、
とても本心からの声掛けには見えなかった。
「........ぼくにできることなんて何もないって分かってます」
「じゃあこれが最善だって分かるでしょう??」
エーミールのその険しい顔につけ放す言葉も言えずショウは半ば同意の言葉を漏らした、
しかしその目は固い意志を宿らせ、未だに北をジッと見つめている。
すると彼が待ち望んでいた鳴き声が北から飛んできた。
「アオーーーンッ」
「来た!」
主人を心配する遠吠えが聞こえ、
白い翼で素早くこちらへ飛び寄るアンバーの姿が目に入る
「アナタのペットったら遅かったわね.....ってまさか!?」
最初こそお供が合流したに過ぎないと考えていたエーミールだったが、
鼻息を荒くして体に力の入るショウを見てその考えを悟った。
「ここ!」
「いけない!飛ぶのが早すぎるっっ!!
それじゃワンちゃんが間に合わないわ!!!」
急ぎ梯子をよじ登るエーミールがあと少しでショウの足に届く寸前、
ショウはアンバーに向かって梯子からダイブした。
しかしそこは大した踏ん張りも利かない場所、
三、四メートルほど梯子から離れただけでそのまま自由落下が始まった。
「キューイ手伝って!!」
「キュー!」
相当高い場所で地面に落ちていくショウは意外にも冷静で
空中を後転しながらふわりふわり落下し、
ヘリにプールごと吊られたキューイに叫ぶ
キューイもその言葉に反応してショウが落ちてくる場所へ長い首を滑り台のように設置した。
「キュ....キューーンッ!!」
「おわぁぁぁぁぁ!?!?」
後転の余韻を腰、背中、後頭部とその長い首で段階的に受け止めたキューイが
自身の首滑り台に振り子を追加してアンバーの方へショウをカチ上げた。
「ワフッ!?」
突如放物線を描いて自身を通り越したショウを
アンバーは大慌てで旋回し背中に回収する。
「アンバーお願い、お父さんのところに行きたいんだ!
急いで北門まで戻って!!」
「ワゥ.......ワンワンッ!ワォーーンッッ!!」
ボフッっと背中に大の字で受け止めたショウが直ぐに起き上がってアンバーに願いを叫ぶ
先ほどダンに乞われた願いを思い出して複雑なアンバーだが
ショウのその真剣な眼差しに北を目指さずにはいられなかった。
「ありがとう....アンバー
ごめんなさい、エーミールさん
ぼくは例え何も出来なくても大切な家族を見捨てることなんて出来ません。」
ーー
「どうだ!! ぐはぁっ」
「沈めぇっ、ごぁぁ」
「.........」
大量のさざ波を無言で処理していたベレムナイト
その単純作業をこなす淡白な口調で急にボソリと呟く
「少し飽きてきたな、
今度は私から攻めるぞ?」
それを言い終える頃にはもう、べレムナイトは波の中心に居なかった。
そう、やつらは波の外、最後列の真後ろに立っていた。
「な!?いつの間に!!」
「どうなってるのっっ!!
べレムナイトが......たくさん!?!?」
気づいた時にはもう手遅れ
波の外側をぐるっと一周、何体もの糸のように細いべレムナイトが取り囲んでいた。
『これだけ纏まっていればすぐ終わるだろう』
か細いべレムナイトたちが一斉に話す
そのそれぞれの前にこれまた糸のように細い武器が現れた。
『無駄な足搔き、ご苦労だった。』
目の前に現れた細い武器を手に取りギュっと掴むとそれら武器は
剣、槍、刀、こん棒、ハンマーなどなど様々な形に姿を変える
多彩な凶器を携えたべレムナイトたちが波へと一気に襲い掛かる。
「クソッ 逃げ場がねぇっっ」
「どうすりゃいいのよ!」
「........ここまでか.....」
その一方的さを、戦場を映すカメラは見逃せなかった。
真っ黒な大波が小さく繰り返していた波を一瞬にして塗り替えていく
一機一機の質も高い凶悪な波
近くにいたシンのブレードは砕かれ、コールの十手はひしゃげ、
スティレットは奪われたかと思えば腰のトランクを串刺しにして爆発、二人は吹き飛ばされる
セレナは尻尾を捕まれジャイアントスイング、
振り回す機が手を離す瞬間に別の機が刀で根元から切断
セレナを救おうと駆け出すコメットの前に別のベレムナイトが迫る
大上段から振り下ろされる大剣を咄嗟に防ごうと六本の槍をクロスさせて構えるが、ひとつ残らずへし折られ、体勢が崩れた腹部に蹴りがめり込んで壁に埋まった。
『後はお前だけだな、シュナウザー』
静まり返った波から目を離しべレムナイトはダンに視線を戻した
早すぎる再びの対峙にダンも悔しさを叫ばずにはいられない。
「クソッあと少しというところでっっ!!」
「残念だったな
まあ、ウイルスにしては頑張った方じゃないか?
どれだけ足掻いたところで結果は決まっていたがな」
べレムナイトは細く分裂していたその体を元に戻しながら総評を述べる
とそこに空から誰かの声が飛ぶ
「お父さぁぁぁぁぁんッッッ!!!」
「ショウなぜ戻ってきた!?」
とっくに逃がしたはずの息子の声にハッとしたダンも空を見上げて驚く
一方、人間とウイルスの中に情が見えることにべレムナイトは何故か焦りを感じていた。
「ウイルスを父と仰ぐとは......
貴重な人間に悪影響を与える菌、
やはり速やかに削除しなくては」
「クッ!すまない....ショウ......」
「ッッッッ!!!!」
頭を鷲掴みにされ目を閉じるダン、ショウがダンのところに着くまではまだ遠い
べレムナイトは正体の分からない焦りを解消させるべく右腕の手刀に力を込めた
『うおおおおおおお!!!!』
「なんだ?」
どこからともなく聞こえた大勢の叫び、
その発生源を気にして手の力を緩めたべレムナイトに
ガシッガシッガシッガシガシガシガシッッ!!
と背後から大量の人機がしがみ付いて動きを封じた。
「この場のウイルスは全てねじ伏せたはず
まさか増援か!?!?」
予想外の隠し種にべレムナイトが怯む
その絶好のチャンスを託すべく人機たちがダンに叫んだ
「ダン隊長!今です!!」
「俺たちが抑えてる間にっ」
自分に問いかけてくる声に目を開けるダン
その目に映った人機たちに、もう無いはずの瞳孔が開く
「お前たちはかつての戦いで戦線を離脱した隊員たち!!」
凶悪な敵をその欠けた機体で必死に拘束する沢山の人機
それはかつて共に戦場を駆け回った仲間たちだった
「隊長.....覚えていて下さったんですね」
「この私がお前たちを忘れるわけ無いだろう?」
「......あぁ、この為に俺たちは前線から逃げ、
生き延びてきたわけか......」
未だ色濃く死が纏わりつく戦場のど真ん中、
束の間の再会は当人たちに最後の喜びを感じさせ
満足して自身の命運をかつての上司に託させる。
「準備は出来ましたか隊長!」
「どデカいのかますんでしょう?
なら俺たち諸共殺っちまって下さい」
シェルターに避難していた全ての人機がべレムナイトに次々としがみ付く
べレムナイトは先程どのように分裂して対処しようとするが
大量の人機が分身をさせまいと次々にしがみ付いて来るので身動きが取れない。
「お前たち.....」
「ここまで逃げて逃げて逃げ続けて、
挙句こんな俺らの為に命張って仲間が散っていった」
「もう戦えない俺たちを......こんな俺たちをあいつらは最後まで守ってくれた」
「例え敗残兵でも意地がある」
「頼む隊長!
俺たちごとコイツを破壊してくれぇぇぇ!!!」
人数は多くとも破損した機体たち、
必死に抑え込むがべレムナイトも抵抗して徐々に動き始めた。
『この雑菌どもがぁぁぁぁぁぁっ』
「すまない.....恩に着るっっ!」
身を挺して敵を抑える仲間たちに敬意を表して頭を下げ
ダンはちょうど溜まり切った力を右腕に込める。
『フルチャージ:デストロイ・ダブルインパクト』
「私を.....舐めるなァァァァ!!」
フルスイングされたダンの右拳が
強烈なエネルギーとともに
絶叫するべレムナイトの胸と激突した。




