第九十五話「撃退」
「私を.....舐めるなァァァァ!!」
べレムナイトがダンの繰り出す重い衝撃とエネルギーを胸部に受け
怒声とともに光へ包まれる。
凄まじい衝撃が二人の間から生まれ、
その影響でアンバーはまともに飛んでいられず
やむなく戦場から少し離れた路地に滑り込んだ。
「お父さーーーん!」
振り落とされ無いよう踏ん張りながら父に向かって右手を伸ばすショウだが、ダンには全く届かず
路地に入る直前にはもう父の姿が砂の混じる竜巻で見えなくなっていた。
「仲間たちの犠牲、
決して無駄にしてなるものか!
沈めぇ!ベレムナイトォォォオオオ!!!」
ダンは撃ち込んだ右拳を瞬時に引き、入れ替わるように左拳を撃ち込む
再び強いエネルギーが胸部に放たれ二人を始点とした爆風が巻き起こる。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ウォォォォォォォォ」
ーー
爆風が止み、戦場は少しの間静寂に包まれていた。
北門は半壊し、その脇の瓦礫が積まれている箇所からコールがボコンッと顔を出す。
「ガハッ、まだ生きてる!
皆はどうなった!? クソッ....どけこの瓦礫!!」
まるで浜辺での戯れか砂漠での処刑かのような
綺麗な埋まり方をもがいて脱したコールは右アームがちぎれ、
脚部も装甲が剥がれて鉄骨と配線が剥き出しになっている
「ハァ....ハァ....どこだ?みんな??
くそっ皆やられちまったのか!?
シン!お前簡単にやられてんじゃねぇぞ!!
返事しろ、シンッ!シンッッ!!」
「コール.....重い」
一番近くで共に被害を受けたシンを呼ぶコールの足元から満身創痍の小声が聞こえる、
声のする足元を見ると地面だと思っていたそれは瓦礫に挟まれたうつ伏せのシンだった。
「うぉっっ!? お前....やっぱ生きてやがったかっっ!
他のみんなはっ?」
「分からない....」
飛び退いたコールが直ぐにシンを掘り起こす
補助のお陰で何とか這い出たシンは左膝から下が千切れてバチバチとショートしていた。
「セレナ!セレナ!!何処なのセレナ!!!
こんな瓦礫、おどりゃぁぁぁあああ」
セレナを見失って動揺したコメットが半壊した北門を瓦礫と勘違いし、
根元からひっくり返してその下を捜索しようと暴れているのを
ツヴァイが声を掛けて止める。
「コメットさん、お嬢さんは何とか無事です」
「マ....マ.....?」
ツヴァイに抱きかかえられたセレナは精巧な偽肌に無数の血の出ない切り傷ができ、
自慢の尻尾が根元からなくなっていた。
「そこのあなた、よくやったわ。
ああ...セレナ、もう大丈夫よ。ほら私の背中に」
コメットはツヴァイから丁寧にセレナを受け取ると
六本すべての腕で優しく包み込んで背負った。
「動けるものはいるか!
いたら返事をしろ」
「ここだ.....」
「何とか生きてます.....」
セレナをコメットに引き渡したツヴァイが周囲に呼びかけ
瓦礫の所々から生存報告が上がる。
「みんな無事みてぇだな」
「うん....全員では無いけどね......」
シンに肩を貸しながらツヴァイたちに合流するコールが
仲間の無事に安堵するが、犠牲者もいることにシンは素直に喜べなかった。
「そうですね......ところで隊長はっ」
ツヴァイがダンの姿を探すべく周囲を見渡そうとした時、
一番聞きたくない者の声が聞こえてきてしまった。
「ぐっぐぉぉぉおおおっ!!」
(なんという技だ、だがここで引く訳にはっっ!!)
「なっ、アイツまだ生きてるのか!?!?」
北門の内側、かつて広場になっていたその場所には巨大なクレーターが作られ、
そこにべレムナイトが上半身だけになって這いつくばっていた。
「トドメを...刺さなくては......
残党を....消さなければ......
人間を.....確保...しなければ.......」
ベレムナイトが、
クレーターから出るべく軋む機体を動かしていると、
空から影が彼を覆い、一瞬にしてベレムナイトは空高く飛び上がっていた。
「私は何故上空に.....」
「ベレムナイト様、回収に参りました!」
瀕死のベレムナイトが両肩をガッチリホールドする鉤爪を辿って
真上を見るとそこにはアレス・ギアのアエネが鉄翼を羽ばたかせて飛んでいた。
「待て....誰がそんなことを要請した.....!
今すぐ降ろせっ、残りのウィルスを排除する......!!」
ようやく思考がハッキリしてきたべレムナイトが
どんどんと戦場から離れていくことに気付いて抗議する。
「その損傷では不可能です!
どうされたのですかっ!
以前のベレムナイト様であればそんな無謀な提案は絶対になされないはずっっ!!」
アエネの発言にベレムナイトがハッとする
そうなのだ、以前の自分であればこんな無謀なことはせず、
すぐに撤退して態勢を立て直していた。
「……すまない、取り乱していたようだ。
アエネ、速やかに帰投せよ。」
撤退を指示するベレムナイトの声は
何故か怒りのようなものが混じっているようだった。
「承知しました。
.....その....この街への侵攻はどうしますか?」
「ああ、ウイルスどもは虫の息だ
すぐに部隊を投入してっ」
『これ以上の作戦続行は許可できない』
アエネに作戦続行を問われたべレムナイトが一秒でも早くここへ攻め込もうと提案しかけたが
二人とは違う声音の声が飛んできて拒否された。
「またか、あと少しで人間を回収できるんだぞっっ!」
『バルクの失態でこちらの被害も相当なものだ、
このまま作戦続行し、更なる抵抗がある可能性をお前は完全に否定できるのか?』
「奴らにこれ以上抵抗する術はない!」
『フッ、その有様で良くもそんなことが言えるな?
お前の油断が招いた結果がその姿だ
これ以上無駄に戦力を消費するのはやめろ
アエネアス、直ぐに帰投し今回の戦闘データを分析して人機どもを蹴散らす戦力の増強に取り掛かれ』
またしても自身の作戦を台無しにされるのかとべレムナイトが怒りを露わにするが
無線の奥の人物は微動だにせず一貫して意見を変えない、
そして早々にべレムナイトの相手から切り上げてアエネに指示を出して無線を切った。
「......はい」
「クソッ!!」
(なぜだ?なぜこんなにも違和感を感じる??
一旦落ち着け。
どうせ私は修復などで戦線復帰には少し掛かる、悔しいがこの機会にひとつ調べてみなくては....)
気まずそうに拠点に戻るアエネの下で怒りを何とか鎮めるべレムナイトは
以前から感じていた違和感を徹底的に調べようと心に決めるのであった。
ーー
「うぅ.....」
「ワンッ」
ショウが目を開けるとアンバーがふかふかの毛に包み
さらに瓦礫が当たらないよう翼で守ってくれていた。
「....あれ?アンバー??」
「ワンワンッ!」
「そうだお父さんはっっ!?」
ハッキリしてきた意識でここにいる目的を思い出したショウは
ダンを探すためにアンバーの背中から降りて路地を抜け広場に出る。
そこにまともな形として残っていたのは上半身、
いや、胸から上だけとなったダンが巨大なクレーターの端で倒れていた。
胸から下はほとんど原型を留めておらず、コアは割れて粉々に
その周りの装甲も背中側へ開いてひしゃげている
辛うじて残る部位もバチバチとアークが発生していた。
「.......ショウ.....」
その声は今にも消えそうで
彼が絶対に助からないことを物語っていた。




