第八十八話「猿と変態は使いよう…」
風邪治りました。
丘の爆発後、間髪入れずに麓の辺りから赤黒い粒子が飛び、北門の下半分が抉れた。
「一機だから細いが威力は申し分ねぇ......なっ!?」
前回より細くなった粒子は門とぶつかるや、すぐに反動でバウンドし、軌道が逸れる。
想定外の動きにバルクは動揺し、軌道を追う。
粒子は左斜め上に大きく逸れて北門を切り裂き、砲台を一台破壊した。
「どうなっている!?
狙いはそこではないぞっ!!?」
バルクの叫びも虚しく、
破城砲はツイストしながら街の中で激突するのを最後に停止した。
「申シ訳アリマセン。
バルク様、コノ破城砲ハ本来、三基デ一ツノ構成ノ為......
一基ノミノ使用トナリマスト上手ク制御ガ出来ズ.........」
「もういい!
戦力を削ることは出来なかったが、幸い道はできた。
突撃だ!戦力は依然としてこちらが優勢だ
このまま勝利を捥ぎ取るぞっっ」
耳の痛い話を弾き飛ばし、バルクは叫ぶ。
恐らく機械軍が有利であるこの現状、過去の失敗より次の指示、
あと一歩の勝利を掴むため、バルクは冷静に前進を選んだ。
「今度はなんだ!?
あれは...信号弾か??
爆発も.....火薬庫でもあったようだな.......」
先ほど最後に破城砲が激突した街中から信号弾らしきものが上がり、
直後に同地点から炸裂音のようなものが聞こえる。
次々に起こる予想外の事態に混乱するバルクだったが
戦いには関係なさそうだと気を取り直すのだった。
ーー
一方人機軍は偵察隊の報告後、無謀な突撃はせず、
弾幕の停止を音で確認しながら門の後ろに隠れて待機していたことが幸を奏し、
レーザーこそ破壊されてしまったが犠牲者が出ることはなかった。
「一瞬だけまたあの赤黒い粒子が門を貫いたが、消えたな.....故障か??」
「次弾が来る気配もねぇ!
弾幕も止んだし攻め時じゃねぇか!?」
静まり返った門の奥、敵の動きが止まったと予想した数人が意を決して
突撃しようと駆け出すのをダンが叫んで止める。
「落ち着けぇぇ!!
依然として敵は多い、こちらも防衛を破られているんだっ
ここからは総力戦になる!後方の人機にも応戦準備を伝えろ!!!!」
ダンの声に前線の人機は構えを解く、
そして互いに目を合わせた後、陣形を組み直した。
ーー
ダンの指示は伝令を通して後方部隊にもしっかり届いていた。
ようやく回ってきた出番に初参戦の者たちは意気込み、
一度引いていた者たちや止まっていた者たちも動き出す。
「ったく、やっとかよ」
「暴れてやりましょ?」
「頑張ろう!」
コール、セレナ、シンの三人は指示を聞いてすぐにそれぞれ武器を構える、
その横に二人の人機が並んで来た。
「私たちも行くよ!」
「....次はもっとたくさん敵を倒す......。」
「お?動けるのか??」
リロードを済ませたシェルンとエリナが三人の横に並び、
コールが声をかける。
「.....余裕...別に損傷とかしてない」
「そりゃ何よりだっ」
言葉を返しながらコールが駆け出し、
その他もそれに倣って走り出すのだった。
ーー
「私達も歌おう!」
シンたちが前進するのを目で追いかけていたミアが
メンバーたちに向き直り、声をかける。
「そうね!」
「やってやりましょう?」
「今度は」
「絶対止めない」
「アンコールまでノンストップね!」
大賛成の聖歌隊たちはそれぞれの立ち位置につくと
フリアがマイクを握って口を開く。
「行っくよ〜」
そして前奏が始まる数秒前、ミアたちが気合いを入れ直した時に
ガシャーンッッ!!と南の方からガラスの割れる音がした。
「随分ご機嫌ですね?ミア??」
ガラスが割れる音の中でハッキリ聞こえる恨みに満ちた声、
ミアの背筋が凍り付く
「.....こっ...この声は......!?」
声が聞こえた方を振り返ると、カラフルなガラス(聖堂のステンドグラス)の破片
と共に降り注ぐ、サルとトルミナが居た。
「出たぁぁぁ!?!?」
ガラスたちに先を譲り、最後に落ちてきたトルミナは
両手両足をビタッっと地面につけ到着する。
「宿舎にも...聖堂に行っても居なかった......
外から大きな音がしたので来てみれば何ですか......?この有様は??」
高所から落下したため、衝撃のあまり体勢が凄いことになっているその姿は
四足の不気味な妖怪にしか見えず、声も恨めしさが駄々洩れで恐怖の塊だった。
「ヒッ、ヒェ.....」
「次から次へと邪魔者がぁぁ.......
これではいつまで経ってもセッションできません.....
そうでしょぉぉ?.....ショウくぅぅぅん??」
ゆらりと二足歩行に移行したトルミナが
肩にくっついたサルへ愛おしそうに語りかけ、
サルもそれに答えるように絶叫する。
「ファッキンテンポォォォオオオ」
「あ、アレをショウくんと..........?」
うっとりとした表情でサルを愛でるトルミナに
聖歌隊たちは完全にドン引きしていた。
「時間はいくらでもありますが、
邪魔者が居れば進められませんね........
早々に片付けるとしましょう???」
そう言うとトルミナは背中に両手を回して何かを取り出した。
「私たちの邪魔をする者など一刻のうちに蹴散らしましょう
このショウくぅんからの贈り物"挟撃拳"で!!」
彼女が両手に持つは真鍮製の薄い円盤二枚、
ソレを両手に一枚ずつ持ち、左右に目一杯開くとあの言葉を叫んで走り出した。
「ファッキンテンポォォォオオオ!!!!!」
「いやぁぁぁぁ!ごめんなさい!!ごめんなさいぃいぃぃ!!!」
迫りくる妖怪の気迫でミアは謝罪の言葉を連呼するが彼女が止まる気配はない
「ほんっとすみませんっ、すいません!!
しゅいましぇんでしたぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああ!!!!」
何度も深々としたお辞儀を披露したがトルミナは止まらず
ミアは土下座に移行してヘドバンのように頭を振るが勢いは止まらない
とうとう彼女の間合いに入ってしまい、
ミアは終わりを悟って謝罪もぐちゃぐちゃになってしまっていた。
しかし、パニックなミアの横をトルミナは通り過ぎる。
「........ほぇ??」
そのまま一直線に北門へ向かい、全速力で駆け抜け
どんどん前へ進み、遂には前線のダンたちを通り越す
そして打ち鳴らしていたシンバルを止め、構えを取った。
「新手ダ!」
「応戦シロ!!」
門の外にいた大勢の機械たちがトルミナの存在に気付き前進する。
そんな敵の大群を見ても怯まないトルミナは、身体を捻るようにしてシンバルを構え、
こちらに襲いかかろうと迫る機械たちを捉えると、両手に握る獲物を勢いよく投げ放った。
「ギャッ」
「グワッ」
黄金色の円盤は機械の群れ目掛けて飛んでいき命中、
衝突して機械を粉砕し弾き飛ばされる円盤だったが、
唐突にグイッと彼女の元へ引き寄せられる。
よく見ればシンバルの持ち手がゴムのように伸びていた。
トルミナはそれを固く握りしめ、飛んで行ったシンバルを引き戻し、
そしてその勢いのまま遠心力を使ってまた飛ばす。
「ほらショウくぅん?テンポよく行きましょう??」
次弾が二発とも命中し、引き戻しながらトルミナは声を発する。
その肩からショウ(サル)が
「ファッキンテンポォォォオオオ」っと返答(?)していた。
「い、今だ!
トルミナ氏に続けぇぇえ!!」
ツヴァイが指示を飛ばし、ダンもそれに続いて声をあげる
「全軍出撃!
敵をバラバラにしろ!!」
「ウォォォオオオ!!!」
北門から大量の人機が飛び出し機械軍を討つべく走り出す、
機械軍も負けじと突撃を開始した。
猿は前回の第七十一話「セッション」と同様に目を血走らせてバッシャン、バッシャンとシンバルを打ち鳴らしながらファッキンテンポしてます。




