第三話「味方」
森の中を、シンはショウを抱えて駆け抜けていた。
闇は濃く、木々の枝が機体の装甲をかすめるたびに、金属の軋む音が響く。
後方では、赤い光がちらついていた。
――機械軍の追撃ドローン。
数は多い。少なくとも五体。
「くそ……どこまで嗅ぎつけてくる」
シンは木の陰に身を滑り込ませた。
ショウの体温が、冷たい金属の腕を通して伝わってくる。
「シン……大丈夫……?」
「問題ない。静かにしていろ」
胸部パネルを開き、赤いスイッチを押す。
外装が微かに発光し、やがて空気に溶けるように輪郭が消えた。
――ステルスモード。
一時的だが、半径一メートル以内で光学・熱源の両方から姿を隠す。
「……これで、少しは撒ける」
木の陰から覗く赤いセンサー光が、森の奥を横切る。
風が止まり、夜が息をひそめた。
ショウは不安そうにシンの腕を掴んだ。
「ねえ、シン……ぼくたち、これからどうするの?」
「……まずは人機軍ガラクタ隊の拠点に戻る。そこなら仲間がいる」
「仲間……」
「君を守れる場所だ」
シンはわずかに声を落とし、遠くを見据える。(間に合えばいいが……)
その時だった。
背後の闇から、金属の羽音が再び迫る。
「っ……もう見つかったのか! このガラクタがっ!!」
ステルスの効果が切れた。
警告灯が赤く点滅し、空気が熱を帯びる。
「ショウ、伏せろ!!」
光線が地面を焼き、爆風が二人を飲み込む。
シンはとっさにショウを抱きしめ、身を伏せた。
土煙。火花。爆音。
絶体絶命――そう思った、その瞬間。
「――ホームラーンッ!!!」
金属がぶつかる鈍い音。
続いて轟音とともに、一体のドローンが森の奥へ吹き飛んだ。
シンが顔を上げると、そこに立っていたのは、巨大なアームを振り抜いた一体の機械。
その後ろには――見慣れた顔。ガラクタ隊の仲間たちだった。
「……シン! お前、生きてたのか!!」
「お前たち……なぜここに!?」
「朝から連絡が途絶えてたからな、捜索に出たんだよ」
「そんで近くで戦闘音がしてなぁ、急いで来てみりゃ……――お前、派手にやってんなぁ!」
その後ろから、さらに重装の機体が数体現れる。
――人機軍の戦闘部隊。
「なぜ戦闘部隊がここに?」
シンが問うと、戦闘部隊の一人が答えた。
「偶然だ。哨戒任務の途中で合流した」
言葉の直後、森の奥で金属音が響いた。
八体の敵機械軍が、一斉に突撃してきたのだ。
「来るぞっ!!」
人機軍の兵が構えを取り、銃火が閃く。
金属と金属がぶつかり、爆炎が森を焼く。
その混乱の中――一人の機械が、堂々と前に出た。
「吹き飛べぇっっ!!!」
真紅に輝く巨大なアームが唸りを上げ、敵ドローンを粉砕する。
吹き飛ばされた機体が木に激突し、爆発。
その姿を見て、シンは息を呑んだ。
「つ、強すぎる……!」
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わずか数分で、敵は全滅していた。
炎の残光が森を照らし、戦場に静寂が戻る。
「助かった……本当に、ありがとう」
シンが深く頭を下げた。
ショウもぺこりと頭を下げる。
「……ありがとう」
ガラクタ隊の仲間たちはその姿を見て目を丸くした。
「お、おい……生身の人間か!? まさか……!」
ざわめきの中、ゆっくりと近づく影があった。
漆黒の外装に真紅のラインが施された、鋭い光を宿す戦闘機体。
「……なるほど。生身の人間とはな」
低く、しかしどこか懐かしい声だった。
シンが顔を上げる。
「あなたが戦闘部隊の指揮官か?」
「ああ。第七戦闘群隊長、“ダン”だ」
――ダン。その名を聞いた瞬間、シンの演算核が微かに揺れた。
(ダン……どこかで……)
ショウが一歩前に出て頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございました」
ダンはその姿を見て、ほんの一瞬だけ動きを止めた。
だが何も言わず、静かに頷く。
「ここは危険だ。今は拠点に戻るのが先決だろう」
「……わかりました。案内します」
炎に包まれた森を背に、一行は歩き出す。
夜明けの光が木々の隙間から差し込み、かすかな希望を照らす。
――だが、誰も気づかなかった。
ダンのアーム外装に、小さな黒い機械が張り付いていることに。
それは、先ほど殴り飛ばしたドローンの残骸。
内部で、赤いランプが静かに点滅していた。
『――位置情報、送信中……』
新たな脅威が、静かに動き始めていた




