第二話「強襲」
夜の村に、低く唸るような音が響いていた。
風でもなく、虫でもない――金属の羽音。
廃墟と化した家々の上空を、三つの黒い影が滑るように飛ぶ。
光沢のない黒色のドローン型偵察機。そのレンズが紅く光を放った。
『偵察部隊α、目標地点付近ニ到達。コレヨリ偵察ヲ開始ス』
『了解。速ヤカニ任務ヲ遂行セヨ』
電子音の交信が夜気を切り裂く。
機体は無音のまま下降し、熱源を探るように村の廃屋をスキャンしていく。
『目標地点ニ異常反応ヲ検出。生命体一ツ――ウイルス体、一ツ。確認』
『ウイルス体ハ排除、生命体ハ生カシテ捕獲セヨ。任務開始』
三体のドローンが散開した瞬間、空気がぴんと張り詰めた。
機械の冷たい目が、確かに“そこ”を見つけていた。
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一方その頃。
村の外れ、果樹園を抜けた古い小屋の前で、シンとショウが旅の準備をしていた。
「本部までは……おそらく数百キロ。道中には廃都市がある」
「危ないところ?」
「危険だが――君を守る。必ず」
ショウは少し笑って頷いた。
夜明け前の空は、まだ青とも黒ともつかない色をしている。
どこか遠くで、風が草を鳴らした。
その時、シンの視覚センサーが一瞬だけ警告を放つ。
――高エネルギー反応、接近。
――距離、八百メートル。
「……ショウ、下がれ。上空に反応がある」
「え?」
言葉が終わるより早く、上空で光が閃いた。
閃光弾が爆ぜ、白い光が夜を裂く。
次の瞬間、衝撃波が地面を揺らした。
「シンっ!」
ショウが叫ぶ。
シンは咄嗟にその身体で少年を庇い、壁の陰へ転がり込む。
「くっ……ドローンだ。偵察機が三体――!」
金属の羽音が迫り、赤いセンサーがこちらを捉える。
ひとつ、二つ、三つ――完全に包囲されている。
「ショウ、隠れていろ!」
「でも――!」
「いいから、早く!」
シンは破損した農業ロボットのアームを拾い上げる。
冷たい鋼鉄が、戦いの意志を帯びて震えた。
ドローンの一体が旋回し、青白い光線を放つ。
壁が焼け、爆発音が響く。
シンは素早く身を低くし、アームを投げつけた。
金属が衝突し、ドローンの一体が制御を失って地面に叩きつけられる。
爆発。火花。破片が空中を舞う。
「一体撃墜――!」
シンが叫ぶ。
だが残る二体が旋回し、同時に照準を合わせてきた。
光線が交差し、地面が焦げる。
その中で、ショウの小さな影が動いた。
「シン、危ない!」
少年の声に振り向いた瞬間、上空のドローンが狙いを変える。
赤い光線が一直線にショウへ――。
「やめろッ!」
シンが飛び出す。
レーザーが金属の腕を焼き、焦げた煙が上がる。
それでも、彼はショウを抱きかかえ、地面に転がりながら庇った。
「シン! 腕が――!」
「大丈夫だ……問題ない」
その声は震えていた。
しかし、彼の瞳はしっかりと少年を見つめていた。
「ショウ、走れ。このままじゃ包囲される!」
「でもシンは!」
「いいから行け!」
シンが再び立ち上がる。
片腕の機能はすでに停止している。
それでも残った力でドローンに突進し、金属の脚で蹴り上げる。
爆発音。二体目が墜ちる。
だが最後の一体が通信を送るのが聞こえた。
『対象ノ捕獲ニ失敗。抵抗確認。増援ヲ要請ス――』
「くそっ、増援が来る前に離れるぞ!」
シンはショウの手を掴み、果樹園の奥へと駆け出す。
木々の間を抜け、燃え上がる村を背にして走る二人。
夜風が焦げた匂いを運んでくる。
ショウは振り返った。
あの家――果樹園――全てが炎に包まれていた。
「……さようなら。ぼくの家」
その小さな声が、風に溶けて消えた。
シンは何も言わず、その肩を抱き寄せる。
(必ず――守る。この子だけは、絶対に)
遠くで、警告灯が赤く点滅する。
夜は、再び静寂を取り戻した。
だがその闇の向こうでは、確かに“戦い”が動き出していた。




