表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/106

第一話「邂逅」

青々とした木々。風が吹けば、ざわざわと枝が揺れ、生きているような音を立てる。


 その中に、ひとりの古びた機械がいた。


 人機軍の非戦闘部隊――通称「ガラクタ拾い」。

 その中でも最も旧式の機体、“シン”である。


 


 十年前。人は自らの意識をデータ化し、永遠を手に入れようとした。

 だが、その夢は悪夢に変わった。成人した人々の意識だけが機械に流れ込み、肉体には戻れずに腐り果てた。


 AIたちはその現象を「ウイルス」と判断し、機械に宿った“人の意識”――つまり心を持つ機械たちを排除し始めた。


 以来、世界は「機械軍」と「人機軍」に分かれ、果てのない戦争が続いている。


 


 シンは戦うための機械ではない。

 壊れた仲間の部品を拾い集め、再利用できるものを探す――それが彼の仕事だった。


 かつては“人間”としての生活もあった。だが、今は記憶の断片しか残っていない。


 それでも、どこかに温もりのようなものが残っている気がする。

 ――それを、彼は“心”と呼んでいた。


 


 その日、シンは目的地を見失っていた。古い地図データを頼りに進むうち、いつしかガラクタの欠片もない、打ち捨てられた果樹園と畑が広がる村に迷い込んでいた。


 風が止み、静寂が降りる。


 その時――かすかな音がした。


 


 「……?」


 


 シンのセンサーが微小な熱反応を捉えた。

 草むらの奥、古びた民家の影。

 近づくと、それは――少年だった。


 


 生身の、あたたかい人間。


 


 シンの瞳――いや、心の奥が大きく揺れた。


 十年もの間、誰もが絶滅したと思っていた“人間”。

 その存在が、いま目の前にいる。


 


(まさか……こんな場所に……)


 


 興奮と戸惑いが入り混じる。


 「君は……人間なのか!?」


 


 突然の声に、少年は驚き、逃げるように走り出した。

 草を踏み分け、ミカンの木に登り、息を荒げながら震えている。


 警戒心――当然だ。

 見知らぬ鉄の巨体が言葉を発したのだから。


 


 「待ってくれ、怖がらないで……!」


 


 シンが慌てて声を落としたその時、少年の足が滑った。


 


 「危ない!」


 


 シンは瞬時に破損パーツを展開し、クッション状に広げる。

 少年はそこに落下し、転がった。


 


 一瞬の静けさ。

 俯せになった少年が、恐る恐る目を開ける。


 


 「……助けたの?」


 「もちろんだ」


 


 少年はしばらく黙り込み、やがて小さくつぶやいた。


 「ありがとう……」


 


 その言葉が、シンの胸の奥――人としての“心”の残響を震わせた。

 温かい何かが、確かにそこに灯った気がした。


 


          ◆


 


 夕暮れが果樹園を橙色に染めていた。


 古びた民家。ひび割れた壁、傾いたテーブル。

 だがその中に、久しく失われた“人の気配”があった。


 


 「なぜ、君はこんなところに一人で暮らしているんだ?」


 


 シンの問いに、少年は俯き、机の木目を指でなぞりながら答えた。


 「……気づいたら、ここにいたんだ。

   目を覚ましたのは、たぶん三年前。果樹園の木の下で。


   名前が“ショウ”ってことだけは覚えてた。

   でも……それ以外のことは、何も」


 


 シンの瞳が小さく光を落とす。


 


 「最初は誰かが迎えに来ると思ってた。

  でも誰も来なくて……この家には食べ物も寝る場所もあったから、

  ここで待ってた。


  でも……もう、誰もいないことに耐えられなくて」


 


 孤独――それは人であれ機械であれ、等しく残酷だった。


 


 「……そうか」


 


 シンはゆっくりと頷き、自分のことを語り始めた。


 


 「僕の名前は“シン”。

   僕も、もとは“人間”だった。


   十年前、意識のデータ化計画が暴走し、

   成人した人間の意識だけが、機械に閉じ込められた。


   子どもたちの意識は……消えたと言われている。


   君が生きているなんて、奇跡なんだ」


 


 ショウは静かに聞いていた。

 小さな手をぎゅっと握りしめ、ぽつりとつぶやく。


 


 「……会いたい」


 


 シンが顔を上げる。


 「誰に?」


 


 「わからない。でも……誰か、大切な人に」


 


 その言葉は、夕暮れの静寂に深く沈んだ。


 


 やがてシンは立ち上がり、金属の手を差し出す。


 


 「なら、探しに行こう。

  君のような生身の人間が他にもいるかもしれない。

  人機軍の本部なら、君を守れる。そこまで僕が連れて行く」


 


 ショウは驚き、それから小さく笑い、その手を握り返した。


 


 「……うん。行こう」


 


 冷たいはずの機械の手は、不思議なほど温かかった。


 


 二人の間に、小さな温もりが生まれた瞬間だった。


 


          ◆


 


 ――しかしその頃、遠く離れた空の彼方では。


 


 機械軍の偵察機が、低空を無音で滑っていた。

 廃墟となった果樹園と村を俯瞰し、冷たい通信を送る。


 


 『目標地点ニ異常反応ヲ検出。

   生命体一ツ――ウイルス体、一ツ。確認』


 


 風がざわめき、夜がゆっくりと降りていく。


 


 誰も知らないまま、戦いの始まりはすでに近づいていた。

皆さん初めまして、樛樹 (まつき)といいます。プロローグではご挨拶を忘れていました、すみません、、、これから頑張って時間があるときに書いていこうと思っています。気長にお待ちいただけると嬉しいです、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ