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第九十七話「竜の涙」


澄んだ湖の浅瀬、水竜に囲まれながらショウは水に浸かっていた。


「う、う〜ん.....」


少し前まで眉間にしわを寄せ苦痛に悶えていたショウだったが、

竜たちの介抱でゆっくりとその瞼が開き、意識を取り戻す。


「あれ.....?みんな.....どうしたの...?」


ショウは思考が朧気で状況が理解できず、少し首を動かし自分を眺める仲間たちに問いかけた

シンやコールたちは嬉しさと心配の余り、水に浸かる勢いで覗き込んでくる。


「ショウ!」


「大丈夫かっ!?」


「ぼくは......」


少し痛む側頭部や言いようのない脱力感で

ショウは自分の身に何が起こったのかを何となく悟り始め、

そしてその考えはシンの言葉を聞き、正しかったのだと直ぐに証明された。


「急に意識を失って倒れたんだ

アンバーがここに連れてきて、水竜たちが助けてくれたんだよ」


「そっか.....ありがとう、アンバー。

そしてキューイとそのお父さん、お母さんも」


「キューッ!キューッ!」


ようやく頭痛が治まり、脱力感も消えたショウは

心底嬉しそうに擦り寄ってくるキューイのすぐ真横の水面に

キラリと光る何かが浮いてくるのを見つけた。


よく見ればそれはダイアモンドのような綺麗な見た目の大粒の涙だった。


「何だろう.....これ?」


ショウが擦り寄るキューイを撫でながらその宝石のような涙石を片手間にヒョイッと拾い上げると

キューイは擦り寄るのをやめ、何か言いたげにじっとそれを見つめていた。


「これ、キューイのなの??」


「キュー?

キューッ!」


ショウは手のひらいっぱいの大きさの涙石を見せると

キューイは少し首を傾げたかと思えばすぐに元気よく頷いた。


「そっか、じゃあ返すね?」


「キュー、キュー、キュー!!!」


片手で持っていた涙石を両手の平で丁寧に包み

ショウはキューイに差し出すが、キューイは慌てて首をブンブン振り、

鼻先を使ってショウの両手を優しく押し返した。


「え?くれるの?」


「キュー!!」


ショウがキューイの考えを読み取り聞くとキューイは元気よくその通りだと鳴いた。


「ありがとう....大切にするね?」


「キュキュー!」


ショウは両手収まる涙石を胸に抱きながらお礼を述べる

キューイも嬉しさでショウの周りをスイスイと水面を泳ぐ。


微笑ましいやり取りに場が和むが

その時突然遠くの山、真っ白い雪に染められた大山から笛のような音が微かに聞こえた。


「なんの音だろう......?」


聞き覚えのない音に殆どの者が頭を?でいっぱいにする。


しかし一匹だけその音に呼応する竜がいた。


「キューー!!」


「お母さん竜?」


優しく、だがどこか力強い鳴き声で鳴く母竜、

その澄んだ声を笛の音が響く白い山に届かせようと長い首を目いっぱい伸ばして鳴く

すると今度は母竜の周りの水が彼女の背中に集まり水色の翼に形を変えた。


「背中に翼が!?」


「まさか、こんなことが......」


コールたちやマーカスまでもがその光景に驚き、ただ呆然と固まっている。


母竜はその水の翼を羽ばたかせ湖から宙へと浮く、

優しく羽ばたきながらキューイに首を擦り付けた彼女は父竜を真っ直ぐ見つめてお辞儀をし、

笛の音が聞こえた山の方へ、その澄んだ声で鳴きながら高く高く飛び立って行くのだった。


ーー


湖から街へ戻ったショウたちは

ダンに言われた通り、聖堂の地下にある精密機械が並べられた部屋に戻って来ていた。


「聖堂の中にこんな施設が.....」


「うん、お父さんが言うには生身の人間を見つけるために使用してたみたい

あの時は吸い込まれるようにビデオメッセージだけを見てたんだけど、

まさかこれ全部が探索用の機械だなんてね......」


聖堂にもかかわらず大理石ではなく合金が埋め尽くす無機質な部屋に

シンが当然の反応をし、ショウはこの部屋について知っていることを話す。


「お父さんはこの設備を使ってお母さんの居場所.....

イリスっていう人がメッセージを送ってきた位置を探すようにって言ったんだ」


「そのイリスってのが本当のことを言っているのか?

ひょっとすると罠かもしれねぇぞ?? うぉっやべっ!?」


コールはショウの話に疑問を投げながら幾つかある機械の一つをペシペシ叩いていたが

その箱型の機械が急にバラバラに弾け飛び慌てて部品を回収する。


「罠ではない......と、思う...

お父さん、すっごく真剣な感じだった....

何か心当たりがあったのかも」


確信があるわけではないが父の言葉を信じたいショウ

冷静な回答をしているように見えるショウだが父という言葉を発する時、

その全身に力が入り身体は強張っていた。


「まあ、少なくとも罠ではないと思うわ?

あの隊長が言うくらいだもの、それに....」


俯いて肩を震わせるショウを見かねてかコメットが同意見だと声をかける

彼女は最後の言葉を少し止めて背中に居るセレナをチラリと見る

するとセレナが不思議そうに話の続きを促す。


「それに?」


「親は子供に意味のない危険な旅はさせないわ?」


両腰に手を当て胸を張るコメットが自信満々に宣言するが

コールが納得いかずにボソリと呟いた。


「(お前は何があっても同伴じゃなきゃさせねぇだろ....)」


「何か言った?」


「いやいや、何でもねぇ!!」


カチンと怒りの顔が正面に切り替わってコメットがコールを睨みつけるが

コールは目を合わせないようにしながら

折角集めた部品を地面に投げ捨て一生懸命に手を横に振った。


「ありがとうございます、コメットさん

そうですよね。お父さんが何の確信もなく頼むはず無いです」


ショウはコメットのおかげか身体の強張りが落ち着き

明るい顔でいそいそと並べられた機械を起動してメッセージの発信元を割り出し始めた。


「ショウ、俺たちになにか手伝えることはあるか?

つってもこんなボロボロじゃ大したことは出来ねぇが.....」


コールは再び散らばった部品を集めながら

千切れて肘から先のない右アームや配線むき出しの脚部を見せながら自信なさげに聞く


「コールもありがとね、でもここは大丈夫。

それよりも他の生存者の捜索と、工房で修理用のパーツ集めをお願い

ぼくもここが終わったらすぐに工房に向かって皆を直すよ!」


「そうか、そいつはありがてぇ

パーツ集めはとりあえず俺一人で十分だ

生存者の捜索を三人で頼む。

見つかった動けそうなやつを何人か工房に寄越してくれ」


カタカタと打ち込みながら探索用の機械を使いこなすショウが

切りの良い所で右手でグーサインを出し笑顔で返す。

コールもその笑顔に安心し、シンたちに指示を出してグーサインを返した。


「分かった」


シンもショウの笑顔に安心して了解し、コールと共に部屋から出ていく

しかしコメットに背負われたセレナだけは

心配そうにショウを見ながら返事をして暗い顔で部屋を後にした。


「.......ショウ、行ってくるわ」


「うん、お願いね!」


シンたちが一階へと出る階段を上がっていき

スライドドアが閉じて部屋に静寂が訪れた。


「........うぅ.....うぅ.....うっ........」


装置が並ぶステンレス製の冷たい台、

探索用機械のコンソールに手を置くショウは

それまで堪えていた感情の栓が開いて、

立っている力も抜けてズルズルと床にへたり込んだ


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


金属が一面を囲い込む一人だけの空間で

ショウはようやく出会えた肉親を喪った悲しみを

ただひたすらに絶叫に乗せて放出する。


散々泣いて、叫んで、怒鳴って、喚いた末、ショウはようやく落ち着いた。


「うぅ.....グスッ.....お父さん、ぼくやるよ

この世界の絶望をぼくがこの手で終わらせてみせる」


涙を拭ったショウの表情はそれまでとは違い、

勇ましさに満ちた立派な青年の顔に変わっていた。


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