1.キミといる景色 【アルバート編】
【アルバート編】ですが、アイラキより前に考えたストーリーです。
追加ストーリーにするか、本編として一本書き上げるか…。迷いましたが追加でスタートです。
あ、これは夢だ…。
もう何度もこの夢を繰り返し見ている。
これは幼い頃の大切な思い出…。
「おい。エドガー。知らない人に付いて行ったら駄目だって何回も言ってるだろ?」
「え~。でもさ、あのさ、初めましての人はその前に会ってないんだから、みんな知らない人なんじゃないの?」
「お前は賢いな。 でも付いていくのは駄目だよ。エドガーが離れたら、私が寂しいからね」
「……アル兄が寂しいなら、離れない」
瞳を伏し目がちにし、唇を尖らせると、きゅっと腕にしがみ付いてくる。
「嬉しいよ」と言ってふわふわの綿菓子のような金の髪を撫でる。
白い頬はふっくらと柔らかく桃色にそまり、キラキラと好奇心を隠せない薄く青い瞳は自分と同じ色を携えている。
現国王を伯父に持ち侯爵家の長男であるアルバートと、次男であるエドガー。
護衛も付いているのだが好奇心旺盛なエドガーは自ら危険へと顔を突っ込んでしまう。
ラングドン家の天使は僕が守ってあげないと。
今も街の焼き菓子屋さんに「アル兄と二人で行きたい。一緒に行って二人で選びたい」と泣いて大騒ぎするので買いに行った帰りである。
先程のお店でお菓子を包んで貰っている間に店内で座って待っていたはずのエドガーが、知らない人に付いて外に出て行ってしまった。
ちょうど人垣が出来てしまい、護衛も彼を見失ってしまったのである。
こちらの心配も余所に「ラパスだと思ったら違った~」とニコニコして戻って来た。
ラパスとは家の執事だがこんな所に居るわけがない。
兎に角、気になったことは行動を起こして確かめたい人間。それがエドガーだった。
ニャァ~…
「あれ? アル兄。 どっかで猫の鳴き声がする」
エドガーが耳の後ろに手を当てて音を拾おうと必死になっている。
「あっちから聞こえるんじゃないか? 行ってみるかい?」
聞いては見たけれど、絶対に行くに決まってる。
ニャオ…、ニャーン
「あっちだ!! 猫、見たい! 行こう」
あっち、の段階ですでに走り出しているエドガーを追ってアルバートも走った。
もちろん後ろから護衛の二人も駆けて行く。
エドガーが一本の木の下に到着すると、見上げて頭上を指す。
「アル兄! あれ!!」
見上げれば木の枝にしがみ付いている猫…と女の子。
「おーい! 何やってるの? あ、知らない子だ。話し掛けちゃった」
エドガーが口を押えてチラリとこちらを見てくる。素直で本当に可愛い。
「この場合は話しかけてもいいよ。 大丈夫かい?」
「枝が急にパキッて、怖くて動けない」
彼女が答えると同時に猫が腕からすり抜けて飛び降りた。
わわわっと言ってエドガーが落下地点へ移動しキャッチする。
猫を離すまいと追った彼女が乗っていた枝も体重の傾きに耐えられずバキリッと鳴って折れてしまった。
アルバートは慌てて抱きとめるが、一緒になって後ろへ倒れてしまった。
声を掛けてから一瞬の出来事である。
護衛二人がこちらへ来ようとするが手でそれを制す。
少女はガバリと起き上がると
「ごめんなさい!! 怪我は!?」と慌てて体中をぱたぱた触って来た。
くすぐったいので彼女の手を持つと「大丈夫だよ」と声をかけた。
ふと、目をやると彼女の膝に切り傷があった。
「それ…」
「あぁ。これは登る時に一度ずれ落ちたの。膝で踏ん張ったら切れちゃった」
へへへっと言って笑う。
「えー。 血出ちゃったの? じゃ、うち近いからおいでよ。キレイにして貰えばいいと思う。…ねぇ。 その間、僕はこの猫ちゃんと遊んでも、良い?」
手当てを提案するが、エドガーの気持ちはほぼ猫に向いている…。
「いいの?」
彼女がエドガーではなく、自分が下敷きにしたままのアルバートに聞いてきた。
「うん。 我が家で手当てをしよう。 焼き菓子を買ってきた所だから食べて行くといいよ」
と言って彼女を自分の上から下ろした。
この出会いがきっかけで自分の人生が大きく変わるとは、この時思いもしなかった。
そして、こんなにも出会った時の事を夢にまで見てしまうのは、今彼女は自分の側に居ない。もう何年も…。
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アルカレジ王国の食堂は本日も混雑していた。
騎士団員用の食堂だが、第一騎士団は利用していない。
主に第三と第四が利用しているのだが、まれに第二の騎士も利用する場合がある。
団長室が一緒となった第三騎士団団長のエドガーは兄である第二騎士団団長のアルバートへ食事を手配するのが日課となっている。
いつもならお抱えのシェフに用意して貰うのだが、たまに食堂も利用する場合もある。
その時はエドガー自ら食事を運んでいた。と言うのも大好きな兄の口に入る物を他人に任せて道中何か入れられたら堪ったもんじゃない!!と起こってもいない事を必死で回避していたからである。
この日は珍しく食堂を利用する事にした。
その理由は団員達の間で「食堂のメニューが増えて美味しくなった」と話題にあがる回数が日増しに増えて来たから。
トレイを二つ持って台に置いて並ぶ。
騎士団の食堂は頼んだ物をトレイに乗せて台の上をスライドさせて移動する。
本日の献立表をちらりと見ると、ジンジャーポークの添え物の隣にニンジンとジャガイモの付け合せがあった。
「おじさん、一皿ニンジン抜きにしてぇ~」
と献立表を見たまま適当に言うと奥から女性の声で
「こらっ、エドガー。ニンジンも食べなきゃ駄目よ」と叱られた。
その聞き覚えのある声に目を見開く。
そしてゆっくりと発言者を確認すると、口をぽかんと開いた。
エドガーがぼけっとしていると、すぐさま隣にいた第二の騎士が「貴様! エドガー様になんて口の利き方を!!」といって怒鳴った。
すると一瞬にして剣を抜いたエドガーが
「お前こそ、誰に向かって物言ってんだよ!」と怒鳴り返して首の皮すれすれに剣を当てている。
「ちょ! こら! エドガーったら何してんの!!」
慌てて厨房から出て二人の元へ女性が駆けつけた。
「だって、こいつアナに酷い事言うから。殺っちゃおうかなって」と言ってニコリとすると剣を納めた。
「いやいやいや。天使の微笑みでニコリじゃないわ!」
やられた騎士の隣に回って首が切れていないか確認をする。
「本当にすみません」
身長の差から、下から見上げるように謝れば相手の頬が染まる。
チャキッ
剣に手を掛け「やっぱ殺るか」と呟くエドガーに、ヒィーと言って相手は逃げて行った。
「もう。エドガーっ」
少し膨れっ面をしてエドガーを睨む、彼女こそがアルバートとエドガーの幼馴染。
リリアナ・マルチェ。19歳。あの猫がきっかけで仲良くなった平民の子だった。
長い黒髪は三つ編みにして丸く纏め、布巾で髪が落ちないよう隠している。
髪と同じく黒の瞳は大きく気が強そうに見える。黒髪黒目の彼女は肌の白さが際立ち品の良さが醸し出されていた。
そんな彼女はエドガーの事は一つ年下なので実の弟のように可愛がっているのだった。
「アナ。料理はもう出来てるんでしょ? じゃ、ちょっとアル兄に運ぶの手伝って」
そう言うと、さっさと厨房の中に向かって「彼女を借りる」と告げ二食分を用意して貰う。
エドガーに言われて【否】が言える人間は厨房の中には存在しないので、一食分をリリアナが手に取り二人でアルバートの元へと向かうのであった。
ちなみに、結局ニンジンはリリアナに入れられる…。
「アナァ~。 いつ戻って来たの?」
小首を傾げるポーズもあざと可愛いすぎる。
相変わらず、私の幼馴染が天使過ぎてつらい…。
「先週だよ。シェフに空きが出るって聞いて旅から戻ったの。二人には内緒にして驚かせたかったんだけど、第二のお坊ちゃん達は余り食堂を利用しないって言うから想定外だったよ~」
料理の勉強をしたいと言って三年前に修業に出て、色々な国を巡って食について学んだ。
断腸の思いで二人と別れてから、此度やっと戻って来たのである。
ラングドン侯爵家から護衛として女性二名が同行していたのだが、彼女達に協力して貰って兄弟には内緒で食堂のシェフの座に空きが出ないか、ずっと調べて貰っていたのである。
私には夢がある。
平民である自分がいつまでも二人と一緒に居る事は出来ない。なら、ラングドン家の料理人になればいいじゃない。と思い立ったのだ。
いつかラングドン侯爵を継ぐアルバート。ずっとそこで雇用して貰えたら末永く一緒に居られるのでは?と考えたのだ。
その為の料理の旅だった。
「また。これから宜しくね」
「もちろんさ。アナ。おかえり」
二人で話していると団長室へと付いた。
リリアナが持っていたトレイをエドガーが受け取る。リリアナはドアをノックすると自分を隠してドアを開ける。
「アル兄! ご飯、お待たせ~。 そしてぇー、こちらも! 長らくお待たせ~」
一歩エドガーがずれると、隣からバァっと両手を開いてリリアナが登場した。
「えっ!? リリ…?」
「そうでぇ~す。リリアナ、帰還しましたぁ」
ふざけて登場してみたが、大きく目を見開く碧眼の両目、サラサラと襟足までの金髪。
最後に会った時よりもより精悍な男性となっていて、男らしくなったアルバードにドキリと胸が鳴る。
リリアナの動揺に気付く素振りもなく、アルバートはガタッと椅子を鳴らし急いで机を避けるとリリアナへと駆け付けた。
彼女の手を掴むと自分の方へと引き寄せ抱きしめる。
「本当に? 本当にリリかい? 夢じゃなく?」
彼女の肩に顔を埋め大きく息を吸う。
リリアナはアルバートの背中をぽんぽんと叩くと
「本当だよ。 思ったより長くなっちゃって…。心配かけてごめんね」と優しく声を掛ける。
この兄弟がリリアナを呼ぶ時は幼い頃のまま。どこか子供っぽい。
出会った時にリリアナと名乗ると、アルバートが少女をリリと呼んだ。
それを聞いて面白がってエドガーがアナと言ったのだ。二人で合わせてリリアナだ。と…。それが大人になってからも定着している。
少し幼い感じがするので久し振りに聞くと照れくさい。
「ねぇ。アナが作った料理が冷めるから食べながら話そうよ」
エドガーが食事をテーブルの方へと運んだ。
「ん? リリの分は?」
「あぁ、私は先に頂いてるの。それにすぐ戻らなきゃ」
「そうか。じゃ、リリは私の隣に」
他にもソファがあるのに、アルバートのすぐ隣を示される。狭くない?
リリアナは少し考えて利き手じゃない方に座った。なんとなくその方が近づける気がしたから。
二人は硬くならないように絶妙な火加減で焼いた肉にソースをたっぷり付けて口に運ぶと美味しいと絶賛してくれた。彼らに喜んでもらえたら本望だ。
「リリ。今はどこに住んでるんだ?」
「朝当番の時は早いし、夜当番の時は遅いから城内の一室を借りてるの」
「……。何だって!?従業員用の? あれは男性用じゃないか?」
「まぁ、そうだけど。部屋にすべて完備してるから出歩かないし…」
「駄目だ。今日からうちに住みなさい。荷物は後日、私とエドガーで運ぶから。いいね?」
アルバートは口元を布巾で拭うと否は認めないと言うように睨み付ける。
「わ、 わかったわ。 …あ、おじ様やおば様にもご挨拶しなきゃ!」
「二人とも、とても喜ぶよ」
話しは尽きないが、それは今晩帰ってから。と言う事で話は纏まった。
別れは惜しいが、それも数時間。帰りにアルバートがリリアナを迎えいに行くので、エドガーは先に屋敷へ連絡と部屋の準備を頼みに行く事となった。
「まぁ、まぁ、まぁ~。リリアナ!! すっかり綺麗なお嬢さんになって! 会えるのを心待ちにしていたのよ?」
リリアナは兄弟の母親と抱き合った。
頬にキスを落とされる。
女の子が居ない家庭なので、小さい頃から娘のように可愛がってくれていた。
よくお泊りをさせて貰っていたのだが、小さい頃は、一緒に寝てくれた事もある。
「リリアナ。 この三年の旅の話も聞かせておくれ。それと、君の手料理も食べさせて貰いたいな」
現ラングドン侯爵様はとても渋くて格好良い。
アルバートは父親似だ。年を重ね一層大人のナイスミドルな色気を醸し出しているあたり、アルバートも将来素敵に年を重ねるのであろう。ちなみにエドガーの天使っぷりは母親似だ。
その晩はリリアナの歓迎会が遅くまで行われ、もう一つの実家に帰って来たような気分だった。
「じゃ、そろそろ遅くなって来たから。アルバート。リリアナを部屋に案内してあげてちょうだい」
勝手知ったる他人の家。
アルバートに付いていけば、子供の頃から使用していた部屋へ通された。
そこはアルバートの部屋の隣。中の扉で二つの部屋が繋がっている。
小さい頃は眠れない夜はアルバートの部屋に枕を持って行ったものだ。
「またこの部屋を利用させて貰えるのね。嬉しいわ」
内装が少しシックな大人の女性向けに変わっていた。きょろきょろと見回しているとアルバートが「この部屋は今後もずっとリリの部屋だよ」と教えてくれる。
『ずっとリリの部屋』と言う、側に居る権利をくれたような言葉に胸がポカポカと温まる。
ちょっとなら良い? 嫌がったり、困ったりしたら離れれば良いよね?
自分の中でルールを決めて実行に移す。
「アルバート。ただいま…」
彼の腰に腕を回して抱き付いた。三年ぶりにアルバートの体温を感じる。
そこは世界で一番安心出来る場所。 しかし世界で一番手に入らない人…。
自分はずっと彼が好きだった。憧れていた。
格好良いだけじゃない。強いだけじゃない。誰よりも周りに気を使って優しい人。
すると、そっと背中に腕が回る。
自分のそれとは違い、彼が腕を回せばすっぽりと収まってしまう。
「リリ…。 リリアナ。 君が帰ってくるのを待っていたよ」
アルバートの抱きしめる力が強まる。
どれだけ、そうしていたのか…。
二人は長く抱き合っていたが、名残惜しくもそっと離れる。
「…。じゃ、また明日」
「おやすみなさい…」
アルバートもリリでは少し幼いと感じ、何回かリリアナと呼び捨てにする練習してます。
まだ成功率低め…。




