20.奪還するぞ!
うぅ。
今回、いくつか奪還にあたってのストーリーが頭に浮かんでしまい、どれを選ぶか迷ってしまいお時間がかかってしまいました…。
ちょっと、今でもこれで良いのか迷いますが、ヨシとさせてください。
ただ、エドガー案の作戦がギャグっぽくなってしまったのでそれだけは違う。と思います~。
【追記】
★先程、活動報告にSSを書きました。
そちらも宜しくお願い致します
「と、言うわけで。 食堂係りのアイラ嬢と一緒にラキを迎えに行って来ようと思います。 アルバート様は何かエドガー様への言伝はございますか?」
シイタはアイラに隣国へ行こうと誘った翌日、第四騎士団副団長に許可を得て隣国へ渡る事を伝えた。そしてエドガーの事を心配しているであろう、アルバートにも言伝があれば…と思って一通りの説明報告に来たのだが。
机の上で両手を組んで聞いていたアルバートは話しを聞き終えると「ふぅ…」と一つ溜息を吐き出し、前髪を掻き上げる。
「食堂係りのアイラ嬢がラキの思い人であったか…。 それではアイラ嬢には王女に諦めてもらう為にもラキの婚約者として同行して頂こう。彼女の職場には協力が必要だと、こちらから話を付けておく。 それと、私も一緒に行くよ。いつまでもエドガーをあちらに置いておけないからね。 私からも…。 隣国国王へ話がある」
アルバートの顔が戦場でしか見ないような険しい冷えた目をしている。
(えっ? ちょっと一緒に行くの怖いんですけど)
もしかしてこっそり行けば良かったんじゃ…と今更ながら後悔した。そして一緒に行動するなら伝えなければならない事がある。
「あの~。アイラ嬢の前ではラキの思い人が彼女だって事内緒にして下さい」
頬をぽりぽり掻きながら目線を逸らしアルバートへと伝える。
「なんでだ?」
首を傾げて不思議そうに聞いてきた。
「いや、ラキはまだ気持ちを伝えていないみたいなんで…、本人に。 幼馴染なんでタイミングが難しいとか」
「……。そうか」
アルバートは目を伏せ長い睫で影を作る。急に沈んでしまった空気にシイタがおや?と思ったが「出立はすぐだ。明朝には出発する。彼女にも荷造りを早急にするよう伝えてくれ」と言って話を打ち切った。
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翌朝、アルバートが用意してくれた馬車はとても豪華な物だった。
体調が万全でないラキが横になっても大丈夫なよう、中もとても広く座椅子も座り心地が抜群だった。外観は白色で統一され、唯一の色合いは金で出来た装飾。
馬車にはアルバート・シイタ・アイラの三人が乗っている。
もう一台の馬車には医療班が乗っており、周りは騎馬の護衛も付いていた。
(よく考えたら国で最高位の騎士団長様と一緒なんて…。恐れ多くてご尊顔を拝めないわ。シイタさんだってとっても強いし、誰かに今襲われたとしても暴漢のタイミングの悪さを不憫に思ってしまうわね…)
アイラは自分の人生でこれ程すごい人達に囲まれる事は無いだろうと反芻する。
だが、これをフローラが聞いていたら「ラキ団長と一緒に居るのだって相当凄いからね!?」と言われるのは間違いない。
そして何より目の前の金髪碧眼の美丈夫が眩し過ぎて顔を上げられないでいた。
合わせる指をもじもじと絡ませていると、前に座ったアルバートから声が掛けられる。
「アイラ嬢。 ラキとは幼馴染との事だが、今回は婚約者として隣国に渡って貰いたいと思う。申し訳ないが、その様に振る舞ってくれないか?」
その内容に衝撃を受け、弾かれたように顔を上げる。
だが続けられた言葉に納得せざるを得ない。
「現在、ラキはアラドバハルの危機を救ったとして手厚い治療を王宮で受けている。 その事に関して異論はないのだが、どうもあちらは王女と婚姻を結ばせたいと思っているようなんだ。ラキなら腕も確かだが出が平民だからな、どうとでも出来ると思っているんだろう。本来ならエドガーの方が貴族の中でも王家と血縁があるから箔が付くだろうが貴族の婚姻は簡単ではないからな。 ラキは事前に婚約者が居るという設定になっているんだが、押しが強い女性で諦めが悪い。 だが実際に婚約者が迎えに来て連れて帰るのは問題がないだろ? どうせ行くならこれくらいやって引き剥がしたいんだが…。出来そうか?」
演技なんて今まで一度もやったことなんてない。しかも隣国の王族の前で初披露?
アイラは背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。本来なら間髪入れずに断りたい所だが、ラキの奪還がかかっている。すぐにでもラキを取り戻したい。私が恥ずかしいとか、演技なんて出来ないとか悩んでいる場合ではない。
「はい。出来ます」
その答えを聞いてアルバートが強く頷く。
「アイラちゃん。難しく考えなくて良いよ。いつもの様にしてれば何も問題ない」
隣に座ったシイタのその言葉に安堵し、小さく頷く。
怪我をしたラキ。
毒を受けたラキ。
ちゃんとした治療も受けているから大丈夫だと聞くけど、実際自分の目で見ないと納得が出来ない。
早く無事な顔を見たい。と逸る気持ちを抑え、馬車から流れる街並みを見送った。
一行が隣国へ到着するとアルバートはエドガーを呼び出し状況を確認すると言う。
そのまま二人で国王と謁見すると言うので別行動をし、私とシイタさんは今回の目的地であるラキが治療の為に滞在しているという部屋へと案内して貰った。
廊下をしばらく進むとドアが開け放たれた部屋から女性の声がしてくる。
「ラキ様ぁ~。 早く元気になってくださいまし。 私、心配で夜も眠れませんのよ?」
聞こえてきた甘えるような女性の声に足を止める。
口をぱくぱくさせながら隣を見れば、額に汗を浮かべ目を泳がせているシイタがいた。
最悪のタイミングだな。とこぼしたシイタの声は届いていない。
「ひ、姫様。 離れて貰えますか? わっ、ベットに上がらないっ…」
離れて?
ベット?
アイラはその単語だけで頭が真っ白になって中に飛び込んだ。
「ラキ! 何やってんの!?」
すると枕に背を預け上体を起こした寝間着姿のラキの胸元に、ベットに乗り上げた女性がしな垂れかかっていた。
ラキの両手はその女性の肩に乗っている。
なんて破廉恥な!!
アイラはラキを信じていたのに、目の前の光景にワナワナと震える。
「えっ!? アイラ? シイタさんも…」
その驚いたような顔さえも気に入らない。しかし、アイラを認識した途端にラキが王女に気を使う素振りもなく押し離しアイラの元へ来ようとする。その動きを察知し、さっと踵を返すとアイラは一目散に駆け出しその場から立ち去った。
「ちょ、待って」
本調子ではない体に脳がアイラを追い掛けろと命令する。絶対に誤解しているであろう彼女とこのまま離れてしまうのは得策ではない。
ベットから慌てて降りると眩暈に襲われるがそんな事に構っている場合ではない。
軽く頭を振るとすぐさまアイラを追いかけて部屋を後にした。
アイラは慌てて出て来てしまったが、知らない場所だと今更ながらに気が付いた。
(どうしよう…。どっちに行けば出られるの?)しかも城の中で一人でいたら不審者として捕まってしまわないだろうか?急に不安が押し寄せる。
すると、後ろから足音が近づいて来た。咄嗟にラキが追いかけて来た、と焦る。
知らない場所で不安になるけれど、彼には捕まりたくない。今は顔も見たくない。
薄っすらと浮かび上がる涙で視界が徐々に歪んで、道が良く見えなくなってくる。
バクバクと心臓が鳴り響く。
もっと、もっと早く動け、私の足!!
見つかりたくない。
こんなどす黒い感情が渦巻いてる時にラキの顔を見たら何を言うか…。
急いで角を曲がり空いている部屋を探そうとする。
一つ目のドアは鍵がかかっている。
二つ目のドアは扉が開いた。
急いで中へと体をすべり込ませると、光は殆どなくカーテンから漏れる明かりだけが頼りの薄暗い部屋だった。中からは人の気配はしない。ドアをそっと閉める。
(どこか身を隠せる場所は…)
吐き出す呼吸なんて廊下に聞こえるわけない。
けど、走って上がってしまっている息がラキに聞こえないよう願って口元を押さえ肩が上下に揺れる。
早く行って、ラキ!!今は会いたくない。
ギュッと目を瞑る。
隠れる場所を探っているとガチャリとドアが開く音がした。
アイラはびくっと体を震わせて腰が抜けたようにしゃがみ込む。それでも奥へ逃げようと四つん這いになって進むが肩を引かれて仰向けに転がされた。
「ひゃぁっ…」
反射的にぎゅっと目を閉じた。
ついでゆっくりと開くと、アイラの上に覆い被さるラキの顔があった。
「…アイラ…」
「どいて…」
「嫌だ。絶対に離さない。会いたかった。アイラ…」
私だって会いたかった。なのに、あれは何?
聞いても良いのだろうか? 自分の最悪の想像に傷付き涙が浮かぶ。
「…、っ…」
唇を噛んで涙をこらえる。
目の淵に盛り上がった涙が零れないよう眉間に皺を寄せ、ぐっと耐える。
するとアイラの顔の横に腕を置き、もう片方の腕で優しく抱きしめられた。
「アイラ。一人で塞ぎ込まないでくれ。ちゃんと不安や不満があるなら聞かせて。 悩んでいるなら言って欲しい。 アイラに避けられるのは、…つらい」
ラキの弱々しい声に心に溜まった思いが溢れだす。
ラキに抱きしめられ肩ごしに天井を見る瞳からは次々と涙が流れ出ていた。
そっとラキの胸に手を添えて、押し返す。
「ラキ。苦しい」
「…あ、ごめん」
嘘だよ。体は苦しくない。
苦しいのは私の心だよ
少しだけ二人の間に距離が出来た。
視線を逸らしてラキを見ないようにする。
「ラキ。みんな心配してる」
「うん」
「国に帰ろう」
「うん」
「ラキ、幼馴染はもう終わりにしよう」
「う…、 ん?」
「今までが間違った距離だった。第四騎士団団長ラキ様と私の立場は余りにも離れてる。ラキは私なんかが一緒にいられるような人じゃ…、ないんだよ」
これはずっと思っていた。だけど口にしたら今の関係が壊れてしまうんではないかと言葉に出来ないでいた…。それを今言うなんて…。
本当はこんな話をするつもりなんてなかった。けれど自分は傷つている。
そして今、口にした言葉は八つ当たりでもあるし本音でもある。
「ちょっと、アイラ、何言ってんの?」
ぐいっと顎を捕えられ、強引に視線を合わせられる。
「……、 そんなに泣いてるのに、俺と離れるなんて出来るの?」
大きな瞳からは止めどなくぼろぼろと涙が落ちて顔を濡らしていた。
「……、離れ、ら、 うっ、うぅ~」
そっと涙を拭われる。そして、そのままそっと手を滑らせ頬を撫でる。その手にアイラは自分の手を重ねた。
もう自分も我慢の限界だった。これ以上強がるのは無理だ。
「………、やだぁ、ラキィ…」
「何が嫌?」
落ち着かせるように、ちゅっ、ちゅと頭にラキの唇が降ってくる。
聞いても良いだろうか?
絞り出すようにラキへと言葉をぶつける。
「王女様とベットの上で寄り添ってた。立場の違いもあるから、向こうから言われたら断れないんでしょ!?」
先程の光景が頭をチラつく。
もう思いが止められない。ラキの背中へと腕を回して引き寄せしがみ付く。
喉が塞ぎ込んで話したいのに声が詰まって出てこない。
「わ、私を、置いてかないで…、おぅ、王女様と結婚なんか、しない、でぇ…」
途端に抱きしめる力が強くなる。
「アイラのばか。 俺はずっと断ってるし、エドガー様もアルカレジの国王に相談してくれてるから大丈夫だ。絶対に結婚はない」
「本当?」
「本当だ。 …それに俺も聞きたい事あんだけど」といって上体を起こすと今度はラキの方から質問をする。
「シイタさんと居たけど、二人きりでここまで旅して来たの?」
声に怒りを感じる。急にどうしたのだろう?
「え? 二人じゃないよ? アルバート様も一緒だし、お医者様や護衛の方も一緒」
「アルバート様…?」
その名に考え込んでしまったラキを訝しげに見上げる。
「それなら、すぐにでも帰れるな」
「?」
そう話すと再びアイラをぎゅっと抱きしめた。
首元に顔を埋められ、くすぐったい。
「アイラ。 来てくれて嬉しい。何度でも言うよ。 会いたかった」
「私も…、ずっと会いたかった」
きゅっとラキの服にしがみ付く…。
そして今更ながら気が付いたが、ラキは寝間着姿だった。
熱があるのであろう、通常より高めの体温が薄手の布一枚で直接伝わってくる。
「…ラキ。 熱がある。体調が悪いのに、無理をさせてごめんなさい」
「大丈夫。アイラの顔みたら元気になったよ」
そんな場合ではないが彼の固い筋肉を嫌でも感じ取ってしまい、急に恥ずかしくなってぶわりと上がった熱が頬と耳を染めていく。
「あと、不安に思ってたこと、聞いてくれて有難う」
「アイラこそ、話してくれて有難うな。すれ違わなくて良かった」
そして少しの沈黙の後
「アイラ…」
熱い瞳でラキが見つめてくる。
顎を掴まれ、角度を少し上にずらされると顔が近づいてきた…。後少しで互いの唇が触れ合ってしまう。というところで
「お~い。ラキ? アイラちゃん?どこ~」
廊下からシイタが二人を探す声がして、互いにビクリと反応して離れる。
どこか気まずい空気を纏い、互いに視線をぎこちなく合わせるとラキがふっと笑い「あ~。 戻るか?」と言って右手を引いて起こしてくれた。そして手を握ったまま逆の手で背中やスカートに付いた埃を叩き落としてくれる。
「アイラ、一緒に帰ろう」
「うん」
二人でドアを開けて部屋を後にした。
その後はまさに【氷月の騎士】の異名を持つアルバートの活躍により一気に話が進んだ。
まずは今回の件の責任を隣国に取らせる旨を伝え、初回の遠征から今回まですべての費用の請求。アルカレジで起こった薬依存者への救済と処置費用など、要は迷惑費用プラス上乗せ料金を支払いなさい。じゃないと軍を率いて攻めるぞ?と突き付けたのである。ついでにラキには婚約者がいるのでこれ以上、王女を近づけるようなら非常識な悪女としての評判を近隣諸国に知らしめるとも伝えた。
その淡々と語る冷え冷えとした表情にアラドバハルの国王は頷く事しか出来なかったという。
こうしてラキ奪還は無事終了したのであった。
【部屋に残されたシイタ】
「急に現れて! 何なのよ、あの女!!」
「ラキの大切にしている婚約者です」
「はぁ!? なんでここに居るのよ!」
「怪我をして戻れないと言うので迎えに来たまでですよ」
「はぁ!? ……ってか、あんた誰よ!?」
「………」
コッワ。
※結局、婚約者設定お披露目ぜず(+_+)
すみません〜。
【アルバートが迎えに来て】
呼び出しに応じてエドガーが賓客室へ走ってゆくと、そこには兄であるアルバートが立っていた。
飾ってある絵でも見ていたのであろう。
久し振りに会えた喜びにそのまま駆け寄り抱きつく。
「アル兄!!」
アルバートは子供にするように優しく頭を撫でる。
見上げれば目が合う。
「アル兄も嬉しそう!」
それを一緒の部屋で待機していた部下が見て
(どの辺が、どんな風に嬉しそうでしたかね??? 何か表情、変わってましたかね?)と思うのであった。




