16.デート、ですよね?(ラキ Side)
まさにお出かけ日和とはこの事だ!!
天気も良ければ陽気もいい。アイラの家へと向かう足取りも軽い。
「おはよー。俺」
張り切って声を掛ければ「俺なんて知り合いはいません」なんて冷たいお返事…。
「ハイハイ。ラキですよ」
ドアを開けて出て来たのは白のワンピース姿のアイラ。
やっば!! 天使降臨…。
このドアは天国と繋がってたの? ぽかんとしてると「じゃ、行こうか」と天使が…、じゃなくてアイラが言うから手を差し出した。
今日一日、この可愛い子を俺が独占出来ます。
繋いだ手を見つめ、二人で「宜しく」と頭を下げ部屋を後にする。
アイラの行きたい所を確認すると広場に来ている旅芸人を見たいと言った。
子供の頃は二人の住んでいる地方にも旅芸人が時々来ていた。
娯楽の一つで家族で行ったり、アイラとも遊びに行ったものだ。
広場に着くとすでにパフォーマンスが始まっていたが、正直大人になった俺には簡単に出来る内容が多かった。それはアイラも感じたらしく「なんだか大人になったら純粋な気持ちで見れなくなっちゃったな。 だって一番側に居る人の人間離れが凄すぎて…」なんて視線を寄越して俺に言う。
おい、俺は普通の人間だからな?
早々と切り上げて、隣に並ぶ露店へと移動する。
俺としてはこっちの方が楽しみだ。
一番手前の投げ矢から二人で挑戦する事にした。
アイラがやる気に満ち溢れているので欲しい景品が決まったのか聞くと
「ええ。 ラキさん、見てて下さいよ。一発で決めて見せます」と肩を回したり、首を鳴らしたりして手練れぶっている。
その仕草が可愛くて両手で顔を覆った。
有難う。神様、出会えた幸せに感謝致します。
店主が勢いよく板を回す
大きな深呼吸をしてアイラが投げる。
「ふん!」なんて気合を入れて投げたのに手からすっぽ抜けて弧を描いて床に刺さった。さらに時間差で矢は静かに倒れた…。
ブフッ
何あれ!? 嘘だろ? あの力みであの結果って…、冗談でしょ?
もう一本も床に刺さって終わった。
どこ狙ってんだよ。ブフッ。ツボに入ったわ。二週間は思い出し笑いイケる。
脹れっ面をするアイラの頬を指で軽く挟むと「プゥッ」と空気が漏れた。
アハハと笑うが、…やばい。 この尖らせた唇にこのままキスしたい…。
邪な気持ちが膨れ上がる前に、フラワーガーデンの交換券目掛けて矢を放った。
次の輪投げの店に移動すると、かなり離れた位置に棒が立っている。
この距離は詐欺に近いな…。
しかも景品はアイラが昼食で行きたいと話していた食堂の交換券だった。
始めから取らせる気が無い店主に遠慮はいらない。
一発で決めると周りで見ていた人達から歓声が上がった。
やり過ぎた…。
せっかくのアイラとの外出でギャラリーを引き連れて歩くわけにも行かない。
結局、露店も早めの切り上げとなってしまった。
食堂へは手を繋いで二人で会話を楽しむようにゆっくりと向かう。
アイラに今日中に遠征に行く話をしなければいけない。
だが、この楽しい雰囲気に水を差すのも気まずい。
3日後には遠征が決まっていた。毎回言い出すタイミングを逃し、もう今日しかないと焦った。
「ラキィ~。二人とも大盛りなんだけど、私が食べきれなかったらラキ食べれる?」
アイラがチャレンジしたいなんて言うくらいの大盛りなら余裕だろうと思ったが、想像以上に大盛りだった…。これにチャレンジしたいアイラって無謀じゃないの?
結局残ってしまったが、持ち帰りにしてくれると言う。
親切なお店だったので帰りに寄った時に土産として持って帰るから、と先払いして唐揚げを揚げておいて貰う事にした。
花屋へ向かう前に俺の用事に付き合って貰う。
この間アルバート様にネックレスの件を聞いて、街の宝飾店にペアネックレスをお願いしていた。それが出来上がっているので取りに行きたかったのだ。
隣国とは昔は戦もあった関係で余り交流がない。
俺自身もアルバート様に聞かなければサファイアの入ったネックレスが婚約の証なんて事は知らなかった。
きっとアイラも知らない。
俺の完全なる下心…。
仕事で使うだけなら別にペアじゃなくてもエドガー様のように一人用でもおかしくはないだろう(いや、あの兄弟ならペアって可能性もあるか…も?)
でも俺自身、アイラとペアの物をしたかった。
隣国での意味は告げない。
店へ向かう途中、女性の悲鳴が上がった。
咄嗟にアイラを建物の中へ隠す。
「アイラ、ここを動くな。中に居ろよ?」
騒ぎの方へ駆けつけると男がナイフを持って女性に突きたてようとしている所だった。
すぐさま意識を奪って取り押さえる。
例の薬中毒者だろう。
こんな街中でも見かけるようになるとは…。
蔓延っぷりに辟易とする。
男を取り押さえている最中に誰かが呼びに行った自警団が駆け付けてきた。
丁度良い、引き渡して抜けようと思うと自警団団員の「ラキ団長!?」と言う声に周りが反応する。
すると子供が歓喜の声を上げ、足にしがみ付いてきた。
まずい。人だかりが出来てしまった。
「いやいや、皆さん、有難うございます。騒ぎにしちゃってすみませんね」
急いで自警団団員に引継を済ませるとアイラが待っている場所へと急いだ。
遠征の話をするには実際に見た後だし説明はしやすい。
後はタイミングだけだな。
案の定、アイラは怯えていた。
一人にさせてしまって申し訳ないと思う。
アイラは不安な瞳を揺らし、居なくなったら嫌だよ…と言う。
自分の腕の中に閉じ込め、頭にキスを落す。
最近、我慢がきかない…。
アイラを愛おしく思うと彼女に触れたくなってしまう。
「さ、行こうか」
こんな建物の隅で、二人で抱き合っていたら理性が持たない。
気持ちを切り替えて宝飾店へと向かった。
アイラを店内に残し、出来上がった物を見せて貰う。
宝飾など縁がないので正直どんなもんが良いのかわからない。だから一番シンプルな形を選んで作って貰った。
受け取ると、これもどのタイミングで渡せば良いのかと迷った。
喜んでくれると良いのだが…。
とりあえず、二人きりになれる場所で遠征の話とネックレスを渡そう。と決める。
ぐるぐると慣れない事を考えた結果
「アイラの家に行こう」となった。
訪れた花屋では彼女に花を選んでは?
と言うので元気いっぱいで可愛らしいアイラにぴったりなガーベラと言う花を選んだ。花の名前なんて知らないけど、可愛らしいピンクと元気な黄色がピッタリだと思った。のだが…。
【愛の花】だとか【いつまでも一緒に居て欲しい】とか…。
怖いくらいに当たってて、花屋の店主を警戒した。
この人…、心の中を覗ける特殊な人間とか?
めっちゃ怖い!!!
でも、俺の気持ちを表したこの花束を交換券でなんか渡したくなかった。
「この花束、俺買うから」
遠征から帰ったら絶対に気持ちを伝えよう。
その時はまたここで花束買おうかな…。
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アイラの部屋に行くと彼女の香りがいっぱいする。
この空間はいつでも癒しをくれる。
花瓶に水を入れる音、まな板で野菜を切る音、鍋からグツグツと煮込む音…。
いつか一緒に暮らせたら。
自分はまだアイラに好きだと思いは告げられない。
今度の遠征は計画的にも難しいと思った。潜入の為、現場での人数が少ない。自分が上手く動かなければ仲間にも危険が及ぶ。それを危惧していた。
命の危険が無いとは言い切れない。
気持ちを伝えて、アイラを待たせたままで自分に何かあったら…。
アイラを縛り付けた状態で自分が居なくなってしまったら…。
それを思うと戻って来てから彼女に気持ちを伝えようと言う結論に至った。
夕食を済ませ、アイラがお茶を淹れてくれる。
このタイミングしかない。と思い遠征の話を切り出す。
街で見た中毒者の話、その薬がこれ以上この国に入ってくる阻止をする為に向かう事。そして少し長い滞在になってしまう事も。
「絶対に帰ってくる」
自分の願望も混ざっている。
どんな状況になっても絶対にアイラの元へ戻る。
だが話を終えるとアイラは今にも泣きそうな、それを我慢するような表情になる。
ごめん、 本当にごめん。
そんな顔を俺がさせてる。
「うん。 信じてる。だから無事に帰って来てね。お願い…」
絞り出すように紡ぐ言葉に胸が締め付けられる。
アイラの首元に顔を埋めて力強く抱きしめた。
俺だって離れたくない。でもあんな薬中毒者が街に増えたらアイラを一人でなんて外に出せない。彼女には自然に生活できる環境を作ってやりたい。
街を守る為、なんて言ってるけどいつだって俺の中心はアイラで…。
そっとアイラの腕が背中に回る。
その瞬間、理性が負けてアイラへの愛おしさが溢れた。
体を離し、アイラの唇の位置を確認する。
軽く重ね合わせると彼女の目が驚きで見開き俺を見つめてきた。
可愛い…。
愛おしい。
俺のアイラ。
もう止められなかった。
ぐっと腰を引き寄せると先程より強く唇を押し当てる。
逃がさない。
何度も角度を変えては唇を重ねる。
「…んっ、 はぁ…」
空気を求めて薄く開いた唇に舌を入れた。
柔らかい唇を夢中になって貪ると
「ラ…、キィ。 ん…」
苦しいのか胸元を押され、はっとする。
もう駄目だ…。これ以上は怖がらせてしまう。
それに、これ以上は自分の理性も保てない。
「…アイラ。 遠征から戻ったら、大切な話がある。帰ったら必ず話すから…聞いて?」
両手を口元に当ててコクコクと頷く彼女は小動物のようで可愛いらしい。
本当は一分一秒たりとも離れていたくない。
気持ちを切り替えてネックレスを取り出す。
「これ、使って欲しいと思って」
後ろを向いて貰ってネックレスをかけようと前を覗き込む…。
すると胸元の開いた白のワンピースが視界に飛び込んできた。
やばい。白い肌と綺麗な鎖骨から目が離せない。項にかかる後れ毛も……。
二人っきりのこの部屋は危険だ。
慌てて残り少ない理性を掻き集め
「お揃いなんだ」
とか
「遠征先でずっと身に着けているよ」
などと恥ずかしい事を言ってしまった。
引かれたかな?
と顔を見れば、大きな瞳からじわりと涙が溢れる
一生懸命作り笑いをしようとして失敗するアイラに「へたくそ…」などと悪態をついてしまったが込み上げる愛おしさが止められない。
アイラのおでこにキスをして
「大丈夫。アイラの元に戻るから」と誓いを立てる。
絶対に君の元へ戻る。
【ラキ、お土産の唐揚げを持って行く】
夜勤のお供に【腹ペコ食堂】で購入した唐揚げを片手に職場へと入る。
これ皆さんでどうぞと言って机の上に置くと、我先にと唐揚げに群がった。
「あれ? 今日はアイラちゃんと会ってたんじゃないの?」
唐揚げを片手にシイタさんが聞いてきた。
「えぇ。 露店で遊んでたら【腹ペコ食堂】のから揚げタルタル大盛りセットの交換券当てたんで。店主に申し訳ないから料金分の唐揚げを買って来たんです」
「わぉ、律儀。夜の唐揚げは罪深いけど、めちゃくちゃ嬉しいよ。有難う」
ラキが露店で遊んだら店は赤字だな、なんて笑いながら頬張っている。
「で? デートはどうだったのさ」
ニヤニヤした顔のシイタさんにラキは耳まで赤くなる。
何を思い出しているんでしょうねぇ。お兄さんは気になりますよ。と揶揄う。
「えっ?デート? いや、出掛けただけですよ」
「は? それって…。 デート、ですよね?」
※ここで、まさかのサブタイトル登場です。
「二人で遊びに行くのはしょっちゅうですよ!? デートって言ったら恋人同士で出かけるアレじゃないんですか?」
デートってなんだろう?
ちょっとピュア過ぎる騎士団長が心配になった夜でした。
☆この後、街で自警団に引き渡した男の話になり結局ラキは休日なのに仕事をしていました。




