15.
少し間が空いてしまいました。
宜しくお願い致します。
ラキが寄りたいと言っていた目的地は宝飾店だった。
何故、この様なお店に用があるのだろう。
どちらかと言うと彼には縁のなさそうなお店だ。
「ちょっと予約していた物があるんだ。それを受け取ってくるから、アイラは店内見て待っててよ」
了承すると、店員と店の奥に入って行った。
店内にある商品はすべて高価な宝飾品で、とてもじゃないがアイラには手の出せる品物ではなかった。
(店内を見てと言われても怖くて触れないわね…)
アイラはガラスケース越しに煌びやかな宝飾の数々を見て楽しんだ。
「お待たせ。 何か欲しいのはあった?」
「えっ?ないない。 用事は終わったのかしら」
うん。と頷くラキの手を引いて急いで店を後にした。
「ラキィ~。行きたい店がまさかあんな高級店だなんて…。私には一生縁が無い所だったから一人で残されて緊張しちゃったよ」
口を尖らせてバシバシと腕を叩いてみるが、硬い腕にはアイラの攻撃が効いているのか怪しいところだ。
「ごめん、ごめん。 …あのさ、アイラは晩飯どうする? お腹入りそう?」
「えー。急に夜ごはんの話? ん~。多分、入らない。けど、スープくらい食べないと夜中にお腹空きそう。それに野菜がいっぱい余ってたからそれ食べないと悪くなっちゃいそうだし…」
「じゃあさ、今日はもう花取りに行って、唐揚げ引き取って帰ろうか。途中食材買って、アイラの家行こうよ」
「いいよ! そうしよう」
二人っきりで落ち着いた時の方が告白しやすい。周りに人が居たんじゃ好きだなんて言える雰囲気ではないだろう。これは千載一遇のチャンスだ。
ラキと出掛ける事を楽しみにしていたけれど、結局はラキと二人でいる事が楽しみだった。だったらそれが街だろうが家だろうが変わらない。一緒に居られる時間を心待ちにしていたのだから。
その後、訪れたフラワーガーデンでは「彼女のイメージでお花を選んでは?」と提案され、ラキが悩みながら選んでくれた。
出来上がった物はメインがピンクと黄色のガーベラで可愛らしい花束だった。元気で明るいイメージなんだとの事だったが、店員さんが続けた花言葉に二人して赤面する。
ピンクのガーベラには【崇高な愛・思いやり・感謝】
黄色のガーベラには【究極の愛・優しさ・究極美】
愛の花と強調され、それだけでも照れくさいのに本数にまで意味があると続ける。
「9本は【いつまでも一緒に居て欲しい】って意味があるんですよ」
との事だった。ラキも聞かされていなかったらしく妙に慌てる。
ガシガシと頭を掻いて俯き耳まで赤くなっている姿は、先程の悪漢を素早く退治した姿とは別人のようだ。
「この花束、俺買うから。 交換券はまた違う時に使って」
目も合わさないで花束を押し付けてくると支払を済ませてくる。と言ってその場を離れた。
私をイメージして真剣に選んでくれたのは分かっている。
その意味が余りにも思っていた事と違うもんだから恥ずかしくなってしまったのだろう。
思わず聞けた、花言葉や本数の意味に一人で感動してしまう。
まるでラキからの告白の様だ。
本人にはそんなつもりはないだろうが…。
花束に顔を近づけて深呼吸をする。
ガーベラの花たちに後押しをして貰ったような気がした。
****************************
ラキの右手には唐揚げと食材。そして宝飾店の袋
左手はアイラの小さく柔らかい手
アイラの右手はラキの大きくゴツゴツした手
左腕に抱えるはガーベラの花束
二人の頬は夕日に照らされているから赤いのか、違う意味で染まっているのか…
花屋を後にしてから微妙に気恥ずかしい空気が流れている
しかし寄り添って歩く二人の距離は朝出会った時よりは縮まっており、手も互いの指を絡ませしっかり繋いでいた
****************************
「アイラ、荷物ここでいい? 買ってきたの仕舞って、今ある野菜を先に食べちゃおうよ」
「うん。ちょっとお花を花瓶に入れてくるから、ラキはそっちの椅子で座って待ってて」
勝手知ったるアイラの家。
ラキは自分の家のように洗面所へ行き手を洗うとソファで寛ぎ始めた。
そんなに広くはない。
団長が使用する騎士団の宿舎より狭い。
ここはアイラの香りがして落ち着く場所だ。
いつか一緒に暮らせたら。
家に帰って、彼女が出迎えて来てくれたら……。
こんな事を考えてしまうのは久し振りにアイラの手料理が食べれるからだろう。
さすがに昼の量が多かったアイラは夕食は野菜スープのみで済ませた。
ラキには野菜スープとパン、そして残った唐揚げを食べると言うのでそれを出した。
二人で洗い物を済ませると、ソファに並んで座る。
テーブルの上には花瓶に飾られたガーベラの花束と淹れたての紅茶。
やっとゆっくりとした時間が取れる。
お茶を飲み終わったらラキは帰ると言うかも知れない。
その前に気持ちを伝える?
どのタイミングで言うのが正解だろうか?
突然言い出して良いものだろうか?
でも、早く切り出さなければ!!
「ラキ…、あの…」
声を発した途端に、一気に緊張が押し寄せる。
手にしたカップを口に近づけ、紅茶を一気に飲み干した。
「ラキ、こ、紅茶のおかわりいる?」
「大丈夫だよ。 あのさ、これから話す事は重要な事だから本当は駄目なんだけど…。詳しくは話せないけど、聞いて欲しい」
ラキの真剣な表情を見たら頷くしかない。
カップをテーブルの上に置くと体をラキの方へ向けて話を聞く体制を取る。
「さっき、街で見た変な奴いただろ? あれは隣国で出回っている悪い薬を常用してる奴に出る症状なんだ。精神崩壊をおこし、幻覚症状から他人を傷付けたり自身の命さえも奪うような薬。それがこの国にも流れてきた。結果があれだよ。その犯罪者を一掃する為に今度は少し長い期間隣国に行く事になる」
「えっ…」
「や、期間は長くなると思うけど、絶対に帰ってくるから。そんな顔しないでよ」
ラキの顔が曇り、私の頬をそっと撫でる。
今、私はどんな顔をしてラキを見ているのだろうか。
遠征と聞くと毎回気持ちが沈んでしまう。きっと眉根は下がり口元は引き攣っているのだろう。
「隣国って…。この間の遠征と話は繫がってるの? 盗賊捕まえて、解決したんじゃないの?」
質問をする声が震える。
ラキはきゅっと唇を噛み締め、アイラの肩を抱き寄せると自分の胸に閉じ込めた。
「心配かけてごめん。 解決させる為に、行ってくるよ。 絶対に帰ってくる」
いつもと違って絶対に帰ってくるなんて何回も言われると逆に不安になる。
危険なのだろうか? どんな事をするつもりなのだろうか?
仕事の事は機密が多く、団長という立場の人間だから話せないのも分かる。でも知りたいと思った。何でも話して欲しい。しかしそれは自分の我儘だ。ぐっと堪える。
「うん。 信じてる。だから無事に帰って来てね。お願い…」
「約束する」
絞り出すように懇願すると
ぎゅっ、と抱きしめてくれた。
アイラの首元に顔を埋めて、肩を抱きしめる力が一層強くなる。
暫くしても動かないので、どうしたんだろう?と心配になってラキの背中に腕を回す。
するとゆっくりと離れる体。
顔に影が降りてくる。
ラキの顔が近い…と思っていると唇に何かが軽く触れ、すぐに離れた。
一拍置いて、それがラキの唇だと気づく。
目を見開きラキを見ていると、ぐっと腰を引き寄せられ今度は深く唇を塞がれる。
ちゅっ、ちゅく…
何度も角度を変えては重なりあう。
「…んっ、 はぁ…」
部屋には二人の熱い吐息だけが聞こえる。だんだんと息が苦しくなってきた。
「ラ…、キィ。 ん…」
そっと胸元を押すと
ちゅ、とゆっくり唇が離れる。
「…アイラ。 遠征から戻ったら、大切な話がある。帰ったら必ず話すから…聞いて?」
コクコクと口に両手を当てて頷く。
正直、今にも気を失いそうだ。
ラキとキスしてしまった…。
「あ、そうだ。忘れる所だった。 これ、さっき買ったやつ」
私の気持ちを置き去りに、ラキはスラスラとご機嫌で話し出す。
ソファの横から取り出したのは先程寄った宝飾店の袋だった。中から長細い箱を取り出す。
「これ、使って欲しいと思って」
箱の中にあったケースから取り出したのはホワイトゴールドに輝くネックレス。
長方形の板の先にはサファイヤが埋め込まれている。
「…素敵。 本当に? 貰って良いの?」
「うん。毎日付けて欲しい。実はお揃いなんだよねぇ」
ラキはもう一つの箱を開けてチャラっと取り出す。
先に見た物より少し大きめで、チェーンも長めのそれはペアである事が一目で分かる
「俺も遠征先でずっと身に着けてるよ」
じわりと涙が溢れだす。
ラキ。大好き。
私の大切な人。
嫌だ、離れたくない。本当に無理だよ。
どうか、どうか無事に帰ってきて。
「う、嬉しい。…ぐすっ、ラキと、 お揃いだね…」
えへっと笑って見せるが上手に笑えない。
駄目。ラキを心配させちゃう。笑え!
笑顔を作るが上手く出来ない。
口がへの字になり、口角も上がらない。
「へたくそ…」
こつんと額を優しく小突く。
そしておでこにを撫でてキスをする。
「大丈夫。アイラの元に戻るから」
そうしてラキは3日後に旅立って行った。
ラキは花言葉が有ることさえ知らなかったので、自分の気持ちをズバリ言い当てる花屋の店員が恐ろしかったそうです。




