11.
☆ラキ目線です
「あ、ラキはまだお仕事残ってた? だったら駄目か」
「………はい。駄目です」
右手で顔を覆うと勢いよく下を向く。
ちょっと待ってくださいよ、アイラさん。
お泊りの話、引っ込めるの早くありませんか? 俺の純情弄びですか? とんだ悪女ですな。そんな子に育てた覚えはないんですがね。
それに、なんなの?その「私、変な事言った?」みたいなキョトン顔…。
おぉ、恐ろしい。 ………ほど、 かわいい…。
「アイラ~。 夜遅く! 男に! 泊まってく?とか軽々しく言うな!!」
おでこをコツンと軽く叩く。
夜は怖い話と甘い空気は危険ですから!
「えっ? 男って…、ラキだよ?」
額を撫でながらこちらを見上げ突拍子もない事を言う。
今度はこちらがポカンとなる番だ…。
え? 何、この子。 今まで俺の事なんだと思ってるの? 兄、通り越してお母さんとでも思ってる?
「だって。ラキは絶対に強引な事しないでしょ? 信頼してるもん」
信頼してる…。
アハハ…と苦笑いしか出ない。強引な事なんて絶対にしないよ!! 多分…。
だけど、俺だってアイラにいろんな事したいと常日頃思っているわけで。
そんな信頼、さっさと捨てろ!
「そうだな。仕事がまだ残ってるから、やっぱ送ったらすぐに戻るよ」
俺が寝るまで側に居てやるなんて言ったから悪い。怖い思いしただろうから安心させる為にも一緒に居てやりたかったんだが、良く考えたらこんな時間に家に上がるのは非常識だろう。いや、飲み会の帰りは勝手に上がりましたが、アレはソレとして置いといて…。
だが、このままアイラに男として意識されないのも悔しい。ってか悲しいだろ。
なんて、もんもんと悩んでいるとクッと組んだ腕を引かれた。
「ラキ。最近お仕事忙しい?」
伏し目がちに唇を尖らせ拗ねたように聞いてくる。
路上には二人の足音しか響いていない。
今言う? でもせっかく仲直りしたばかりだから俺の仕事の話で暗い気持ちにさせたくなかった。
「ん~。 まぁね。 調べなきゃいけない事がたくさんあってね。大丈夫だよ」
ほら、俺は事務処理より体動かす方が得意だからと笑って流し、
「そうだ! アイラ、次の休みはいつだよ?」と話題を切り替える。
「3日後だけど」
指を三本立てて、俺の腹に突き刺してきた。わざと大げさにグフォっと言ってやると声をたてて笑った。
そのままその手を握り「じゃ、その日に俺も休暇取る」と答えるとアイラは一歩進んで俺の前に立ち、進行を妨げた。
「えっ! だって今、忙しいって」
「これからもっと忙しくなるし、俺は最近頑張った。休んでも良いと思う。とにかく、その日はどっか出かけようぜ?」
きゃぁ~!! やったぁ!!
と言って、俺の両腕事抱きしめて来た。
だから、アイラさん…。
腕事抱きしめられると俺が抱きしめられないのよぉ…。
「じゃぁ、私行きたい所考えても良い? ラキと見て周りたい所がたくさんあるから一日で済むか…。ちょっと計画立てる」
再び腕を組むと、先程よりもアイラの歩調が軽やかになる。
「ははっ。一日で周れない程あるの? じゃぁ、出来るだけたくさん詰め込んでよ」
うん。と微笑む嬉しそうな彼女の表情を忘れない。
今、この時間のすべてが俺の宝物だ。今までも、これからも。
アイラと居る時間のすべてが。
二人でたわいも無い話をしているとアイラの家の前まで到着してしまった。
正直言って名残惜しい。
「……。アイラ。今日は手首が痛むかも知れないから。しっかり冷やして寝るんだぞ?」
自身の腕に乗せていた手を取り、手首を擦る。
指をそっと内側に這わせたらくすぐったそうに手を引っ込めた。
それを許さないとばかりに追いかけて再び手を掴む。そして口元に持って行き、アイラのライトグリーンの瞳を覗き込む。
見せつけるようにゆっくり、跡が残る手首へと口づけを落し、ちろりと舐めた。
「アイラ。俺の事もそんなに信用するんじゃない。 安心しきってると…」
そっと彼女の前髪を横に寄せ、ちゅっと音を立てて唇を落す。
「こんな事や…」
右手をそっと頬に充てると、親指の腹で柔らかさを確かめるように撫でる。
そして両手で頬を覆うとアイラの首を斜めに傾け、頬にもキスをした。
「こんな事を、するかも知れないだろ?」
熱を持った眼差しでアイラを見れば、頬に手を当てて瞳を潤ませていた。
きっと明るい陽射しの下で見たならば首まで赤くなってる事だろう。
「アイラは忘れてるかも知れないけどな、お前の兄はアルト・ミルファーただ一人。彼しかいないからな? 俺は兄貴じゃない。 わかったか?」
「はぁ…い」
「じゃ、鍵をしっかりかけて。おやすみ」
「お、やす…みぃ」
バタン。ガチャリ。
言われた通りに施錠する。部屋の明かりも付けず、口元を押さえるとドアに寄り掛かりずるずるとしゃがみ込んだ。
口を押えてないと大きな声で騒いでしまいそう。
「あんな、ラキ、知らない。 見たことない…」
甘い雰囲気に酔ってしまいそう。
大人の男性だった。
熱っぽい瞳から目が離せなかった。
総括して、ラキが色っぽくてぇ…。
やらしいー!
◎△※%×#☆――――!!!
その日は怖い事があったにも関わらず、思い出す事は一切なかった。
これがラキの作戦なら大成功だ。
だって夢の中までラキでいっぱいだったもの。すっかり良い日に変わった。
【たわいもない話の内容】
「あの…。 エドガー様はアルバート様にべったりなのは、いつも?」
「あぁ、最初は驚くけど慣れるとセットで居ない方が心配になるよ」
ラキはカラッと何でもない事のように言うが年齢を考えると別の心配をした方が良さそうなんだけど…。
「兄弟仲良くてさ、会議の時にアルバート様が肩からかけてた上着の後ろから、エドガー様が潜り込んで、袖に腕通してさ、 ふっ、 アルバート様の顎掴んで考えてる風にして…、ブフフッ、 アルバートさ、ま、無表情だから…」
ブハハハハッ!!
笑うのを堪えてたが我慢出来ない。とばかりにラキが吹き出した。
「アルバート様は【氷月の騎士】なんていわれるけど、エドガー様には甘々なんだよ」
氷月の騎士
【氷のように冷たく、月のように美しい】と言う意味らしいが
「全く氷なんかじゃない。愛ある温かい人だよ」
危ない事以外は大概怒らない。と続ける。
優しい顔をして語るラキは、アルバート様が大好きなんだな。と感じた。




