06元妹も来店した
「クリスタル・ベリーのシュワシュワ感と、プリンの滑らかさがベストマッチ! 魔力が……枯渇していた魔力がみるみる回復する!」
僧侶も一口食べて天を仰いだ。
「神よ……これは天界の食べ物ですか……生クリームの甘さが疲れた体に染み渡る……」
三人は無言になった。カチャカチャとスプーンの音だけが響く。そこにはもう魔王を倒すという殺気はなくあるのは、プリンを一口でも多く味わいたいという執念。
「……ごちそうさまでした」
数分後、お皿まで舐めそうな勢いで完食した勇者一行は満足げな顔で椅子にもたれかかっていた。
「どうでした?」
尋ねると勇者は真剣な顔で立ち上がり、向かって深く頭を下げた。
「完敗だ。……魔王城に強力な兵器があるとは」
「兵器じゃなくてスイーツですよ」
「なぁ、店長さん」
勇者はキラキラした目。糖分補給済みな様子で見た。
「魔王を倒さなくてもまた来ていい?」
「もちろんです。お客様ですから。武器は入り口で預かります」
「やったぁ! じゃあ次はランチ食べに来ようぜ!」
「パフェも食べたい!」
仲間たちも大喜びだ。すると、奥の席からフィルストがゆっくりと歩いてきた。
「……おい、勇者」
「ひっ、ま、魔王!」
勇者たちが身構えるとフィルストは不敵に笑い、伝票をテーブルに叩きつけた。
「食ったなら払え。金がないなら皿洗いでもしていけ」
「え?」
勇者たちは財布の中身を確認し、青ざめた。旅の途中で装備にお金を使いすぎて所持金がほとんどないのだ。
「……やります。皿洗いでも床掃除でも!」
勇者が即答した。
「その代わり、まかない飯を食わせてくれ!」
こうして世界を救うはずの勇者は、魔王城のカフェで期待の新人アルバイトとして採用されることになった。
「いらっしゃいませー! 空いてる席へどうぞ!」
勇者ミクル、バイト中の元気な声が響く。意外と接客が得意だった。爽やかイケメンなので女性客、サキュバスやエルフからの人気も高い。
「ミクル、3番テーブルの片付け終わってない」
「はいっ、ただいま! 僧侶、布巾持ってきてくれ!」
「回復魔法で汚れを落とすのは反則だと言われただろう!」
厨房ではフライパンを振っている。隣では、フィルストがにんまりと笑いながら味見をしていた。
「勇者の連中もなかなか使えるな。これで君の負担が減るなら殺さずに置いておいてやろう」
「まあ、ふふ、ありがとうございます。……でもフィルスト様、つまみ食いはほどほどにしてください」
「いいじゃないか。オーナー、魔王だぞ」
フィルストは頬にキスをして、出来たてのクッキーを口に放り込んだ。外の世界では勇者と魔王の最終決戦はどうなった!?と騒ぎになっているらしいけれど、ここモフモフ亭では今日も甘い香りと笑顔が溢れている。
平和を作るのは剣でも魔法でもない。
美味しいご飯と、甘いスイーツなのだ。
そろそろディナーの仕込みを始めよう。
今日のメニューは地獄の釜茹で激辛麻婆豆腐。
勇者くん、辛いのは大丈夫かな?
カフェは今日もランチタイムの戦場となっていた。
「ミクル君! 三番テーブルにギガント・ハンバーグ追加!」
「ウィッス! すぐ運びま〜す!」
勇者ミクル。現在ホールチーフは目にも止まらぬ速さで配膳をこなしていた。聖剣を振るっていた腕力は重たい鉄板を五枚同時に運ぶのに役立っている賑やかな店内に、明らかに空気の違う二人組が入ってきた。目深にフードを被り、コソコソと周囲を警戒している。
(バレバレ)
厨房の小窓から見ていたからすぐに気づいた猫背で偉そうな態度の男は、元婚約者のジェラール王子。隣で「靴が汚れるぅ」と文句を言っているのは、妹のリスボンだ。
どうやら魔王城に勇者が捕らわれているという噂を聞きつけ、救出という名の手柄横取りに来たらしい。
「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」
あえて気づかないフリをして、接客スマイルで対応した。神対応?
「ふん、ここが噂の店か。店員。一番人気のメニューを持ってこい。毒見してやる」
「私も! 一番高いやつね!」
二人は気づいていないなと厨房に戻り、ニヤリと笑った。
「フィルスト様オーダー入りました。あつあつ鉄板チーズボルケーノ・ハンバーグ。あはは、ふふ!ふふ!」
「火傷しても知らんぞ」
「お待たせしました〜!」
ジュワァァァァァ……!!暴力的なまでの焼ける音と共に、二人の前に鉄板が置かれた。子供の頭ほどもある巨大なハンバーグ。
頂上からは火山の噴火のように濃厚なチーズソースがドロドロと溢れ出し、鉄板の上で焦げて香ばしい匂いを放っている。
「な、なんだこの肉塊は……ひ!」
ジェラール王子がゴクリと喉を鳴らした。彼らの国は今、食糧難で貧しい食事しかしていないはずだから目の前のカロリーの塊に、本能が抗えるわけがない。
「ど、どうせ魔物の肉だろう! 臭いに決まって……パクリ」
王子は文句を言いながらも、我慢できずに一口食べた瞬間。
「ん……な……ッ!!!」
王子の目がカッ!! と見開かれた。噛んだ瞬間、肉の壁が崩壊して中から熱々の肉汁が鉄砲水のように口内を襲撃したのだ。
使用しているのはバッファロー・ブルの熟成肉。噛めば噛むほど旨味が溢れ、濃厚なチーズがそれを優しく包み込む。
「う、美味い……! 肉が甘い! 脂が溶ける!」
「やだ、止まらない! パン! パンをおかわり!」
リスボンもフォークを突き刺し、一心不乱に食べていて毒見の設定など完全に忘れている。
(ふふふくくく、勝った)




