05勇者たちも即落ち2コマ
「店主! ハーブソルトを分けてくれ! あと、フライの持ち帰り用を十人前だ!」
こうして、口うるさい美食家も魔界飯の虜となったのだった。
モフモフ亭は今日も大盛況だ。
人間も魔物も、同じテーブルで美味しい料理を囲み、笑顔で話をしている。
その足元では、スライムやケルベロスが、おこぼれを期待して尻尾を振っていた。
「……平和だな」
営業終了後にフィルスト様が、残ったマンドラゴラフライをつまみながら呟いた。
「美味しいって顔を見るのが一番の幸せです」
エプロンを外し、隣に座ったらフィルスト様が肩に腕を回す。
「マクレラ。本当にすごいな。魔物だけでなく人間の心まで、料理で手懐けてしまうなんて」
「ふふ、手懐けたなんて人聞きが悪いですよ。美味しいものをみんなで食べたかっただけです」
そう。魔物も人間も美味しいものを前にすればみんな素直になる。食欲こそが、世界平和への一番の近道なのかもしれない。
「明日の日替わりは何にしようかな。クラーケンのゲソを使った海鮮焼きそばなんてどうでしょう」
「採用だ。その前に」
フィルスト様が顔を覗き込んだ。魔王の赤い瞳が優しく揺れている。
「褒美がまだだろう」
「毎日味見で一番いいところを食べてるじゃないですか」
「それとは別腹だ」
唇にキスをし甘くて、少しだけハーブソルトの味がした。窓の外では満月が綺麗に輝いていて、明日もきっと忙しくて騒がしくて最高に美味しい一日になるだろう。
経営は順調そのもの。ランチタイムのクラーケンの海鮮焼きそばも大好評で、お昼のピークを過ぎた店内にはまったりとした空気が流れている。
「ふぅ、一段落」
厨房で額の汗を拭ったホールの隅では、看板犬のケルベロス、3つの頭を持つ犬がそれぞれの頭で別々のお客さんに撫でられてご満悦だ。
「そろそろアレの時間じゃないか」
カウンター席に座っていたフィルストが、ワクワクした顔でこちらを見て、魔王様は最近、午後三時のティータイムを何よりの楽しみにしている。
「準備できてますよ。今日は新作」
冷蔵庫から取り出したのはキラキラと輝くガラスの器たち。今回の主役は魔王城の裏山に住むエンシェント・ドラゴン。超巨大な竜から分けてもらった超貴重なドラゴンミルク。
「盛り付け開始」
氷の精霊アイス・ウィスプに手伝ってもらい、キンキンに冷えた器にぷるぷるのプリンを乗せた。カフェの扉がドォォォォンと派手な音を立てて蹴破られた。
「見つけたぞ魔王フィルスト」
土煙の中に入ってきたのは、煌びやかな鎧を着た金髪の青年。後ろには杖を持った魔法使いの少女と大盾を持った僧侶の男。いわゆる勇者パーティー。
「覚悟しろ。世界の平和のため今日こそ貴様を討ち取る」
勇者が聖剣を抜き放ち、店内に殺気が走るとお客さんの魔物たちが「なんだなんだ?」「喧嘩か?」とザワつき始めた。
フィルストが不機嫌そうに眉をひそめる。
「……騒々しい。今大事なおやつの時間だ。帰れ」
「なっ、おやつ!? 命がけでここまで……!」
勇者が斬りかかろうとした瞬間、厨房から大声で叫んだ。
「お客様ーっ!! 店内での抜刀は禁止! 武器をしまって席にお座りください」
「は?」
勇者がポカンと口を開けて見た。
「え、ん?人間? なんで魔王城に人間がいるんだ? 捕まっているのか?」
「いいえ、店長です。……そんなことより、あなたたち、お腹空いてるんじゃないですか?」
彼らの顔色を見たら頬はこけ、目の下にはクマ。装備はボロボロ。魔王城までの険しい道のりで、まともな食事をしていないのは明白だ。
ぐぅぅ~~~……勇者のお腹が聖剣の輝きよりも大きな音を鳴らし、店内が静まり返る。勇者の顔が茹でダコのように赤くなった。
「ち、違う! これは武者震い」
「はいはい。とりあえず座ってください。当店自慢のスイーツをサービスしますから」
半ば強引に勇者一行をテーブル席へ誘導した。
「お待たせしました。ドラゴンミルクの至高プリン・ア・ラ・モード」
ドンッ、とテーブルに置かれたのは宝石箱のようなデザートプレート。中央に鎮座するのは赤ちゃんのほっぺのように白くて滑らかなドラゴンミルクプリン。
周りを彩るのはクリスタル・ベリー、噛むと炭酸のように弾ける木の実。スライムゼリー、ライム味でさっぱり。雲綿あめ、空に浮かぶ羊の毛……に見立てた砂糖菓子。山盛りのホイップクリーム。
「な、なんだこれは……」
魔法使いの少女が目を輝かせた。
「すっごく可愛い……ふええ! 本当に食べていいの?」
「毒が入ってるんじゃない?」
疑う僧侶を無視して勇者はスプーンを手に取った。
「ええいままよ! 毒だろうが何だろうがもう空腹で死にそうなんだ」
勇者はプリンをひとさじ掬い、口へと放り込んだ瞬間勇者の目からボロボロと涙がこぼれ落ちた。
「勇者よどうした! やはり毒か!?」
僧侶が慌てて回復魔法を構える。
「……ちがう」
勇者は震える声で呟いた。
「う……うめぇぇぇぇぇッ!うおおお!!」
勇者は叫んだ。
「なんだこの濃厚さはー! 牛のミルクとは次元が違う! 口に入れた瞬間にミルクの甘みと香りが爆発して、鼻から抜けていく! な・の・に!後味は雪解け水のようにスッキリしている!」
「え、え、えっ、わ、私も! んぐ!ん~っ! おいしぃ~!」
魔法使いの少女も頬を押さえて悶絶した。




