04支援を考えてやらんこともないぞ、からの即落ち2コマ
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
ホール担当はエプロンをつけたハーピーの女の子たち。空を飛んで料理を運ぶので効率がいい。記念すべき第一号のお客様は人間の冒険者グループ。彼らはメニューを見てギョッとした顔をした。
「えっ……コカトリスの卵のオムライス? コカトリスって石化の視線を持つ魔物だろ? 卵なんて食えるのか?」
「毒があるんじゃ……」
彼らが躊躇するのも無理はない。コカトリスの卵はダチョウの卵より一回り大きく、殻は毒々しい紫色をしている。だが、厨房にて不敵に笑う。
「ふふふ、見てたらわかる」
巨大なフライパンを熱し、バターを溶かした。コカトリスの卵は割ると中身は綺麗なオレンジ色。しかも、普通の卵の十倍は濃厚。
ジュワァァァ……!
卵液を一気に流し込むと芳醇なバターの香りと、濃厚な卵の匂いが店内に広がった。
菜箸で素早くかき混ぜ、半熟の状態でチキンライスの上に乗せる。
そして包丁で中央に切れ込みを入れると──とろぉり。
半熟卵が雪崩のように広がり、赤いライスを黄金色に染め上げた。仕上げに、特製デミグラスソースと隠し味に魔界キノコの出汁入りをかける。
「お待たせしました。コカトリスのふわとろオムライスです」
冒険者たちの目の前に湯気を立てる巨大オムライスが置かれゴクリ、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。
「……い、いただきます」
リーダー格の男が、恐る恐るスプーンを入れる。卵はふわふわでスプーンが吸い込まれるようだ。ライスと一緒に掬い上げ、口に運ぶ瞬間、男の動きが止まった。
「…………っ!!」
「お、おい? 大丈夫か? 石化してないか?」
仲間が心配する中、男はカッと目を見開き、叫んだ。
「うっっっまーーーーい!!!」
男はスプーンを高速で動かし始めた。
「なんだこれ! 卵がめちゃくちゃ濃厚! ふわっふわで口の中で溶ける! ソースも酸味とコクが絶妙でスプーンが止まらねぇ!」
他のメンバーも慌てて食べ始める。
「うわっ、マジだ! こんな美味いオムライス食ったことねぇ!」
「魔物の卵ってこんなに美味かったのかよ!」
あっという間に完食し、全員がおかわりを注文した様子を見ていた他の客たちも次々とオムライスを注文し始めた。
「ふふ、計画通り」
厨房でガッツポーズをする横で、味見係のフィルストが口元にソースをつけたまま頷いた。
「マクレラ、君は天才か。このオムライスなら毎日でも食べられる」
モフモフ亭の噂は、瞬く間に国境を越えた。数週間後、一台の豪華な馬車が店にやってきて降りてきたのは、隣国のグルメ貴族として有名な恰幅のいい男、バロン男爵。
「フン。ここが噂の店か。魔物が給仕をし、魔物を食わせるなど野蛮極まりない」
男爵はハンカチで鼻を押さえながら入店した。嫌な予感がする。こういう手合いは面倒くさい。帰ってもらっても問題ないけど。
「おい店主! 一番高い料理を持ってこい! 舌を満足させられたら、この国への支援を考えてやらんこともないぞ」
男爵はふんぞり返って言うので、周りのお客さんが不快そうに眉をひそめる。営業妨害極まりない。ニコリと笑って注文を受けた。
「かしこまりました。では、当店自慢のマンドラゴラのホクホクフライはいかがでしょう?」
「マンドラゴラ!? 引き抜くと悲鳴を上げ、聞いた者を死に至らしめるという呪いの植物の!?」
「ええ。でもご安心を。悲鳴の処理は完璧ですので」
厨房に戻り、土のついた奇妙な根菜を取り出した。人の顔のような形をしていて、今にも叫びだしそうだ。
「キーーーッ!!(抜くなバカヤロー!!)」
マンドラゴラが甲高い声を上げた瞬間、素早く口にあたる部分に特製の口輪、魔封じの札付きを嵌めた。
「静かに。美味しくしてあげるからね」
マンドラゴラは「んぐぐ……」と唸るだけになった。実はマンドラゴラ、加熱すると悲鳴成分が旨味成分に変わる。
それをスティック状にカットし、衣をつけて高温の油へ投入しパチパチという心地よい音と共に、香ばしい匂いが立ち込める。
「お待たせしました。マンドラゴラのフライ、特製ハーブソルト添えです」
男爵の前にキツネ色に揚がったフライが並べられた。見た目はただのフライドポテト。
「……フン。見た目は悪くないが所詮は魔界の根菜だろう」
男爵は疑り深く一本つまみ、口に入れた。
カリッ。サクッ。
いい音が響く。
「む?」
男爵の眉がピクリと動いた。外はカリカリ、中はホクホク。ジャガイモよりも甘みが強く、サツマイモよりもねっとりとしていて濃厚。ハーブソルトの塩気が甘みを極限まで引き立てている。
「……もう一本」
男爵の手が勝手に動いた。二本、三本。止まらない。額に汗を浮かべ、夢中でフライを口に運ぶ。
「な、なんだこれは……! ただの芋ではない! 大地の恵みが凝縮されたような深い甘み! 油と出会うことで背徳的なまでの旨味に昇華されている!」
男爵は我を忘れて叫んだ。
「ビールだ! 誰かこの男に、キンキンに冷えたビールを持ってきてくれぇぇ!!」
店内がドッと沸いたら男爵はハッと我に返り、顔を真っ赤にした。
「こ、この、こんな野蛮な料理に……ああ! くっ、悔しいが……美味い! 認めざるを得ん!」
男爵は完敗を認めた。




