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第67話
「リリアナ様ぁぁぁ!!」
地響きみたいな声。振り返ると、ガルド率いる騎士団がものすごい勢いで駆け込んできた。剣を抜いてる。怖い。こっちも怖いがガルドらも怖いぞ。
「ご無事ですか?」
「ガルド?」
ガルドは私の前へ立ち、庇うように周囲を睨みつけた。威圧感に黒ずくめたちがさらに震える。
騎士団長ガルドの存在そのものが、彼らにとっては絶望的な力なのだろう。人数でも多いし。
「全員拘束しろ」
「はっ!」
騎士たちが一斉に動いた。男たちは抵抗しない。というか完全に戦意喪失していた。彼らはすでに降伏の意思を示していたから、騎士たちも簡単に拘束できた。
「まさか学園爆破計画が露見していたとは」
「えええええええ爆破?」
今なんて? 爆破と聞こえたような? 私、そんな危険人物に遭遇してたのか。血の気が引いた。
危なかった!! もし何か違う行動をしていたら、私はどうなっていただろう。その可能性を考えると、背筋が冷たくなる。死んでいても不思議はないか。
するとガルドが真剣な顔でこちらを振り返る。
「リリアナ様」
「は、はい」
「単身でテロを阻止されるとは、素晴らしい」
「違います! 阻止してません!」
「しかも敵を威圧し、自白まで引き出すとは、さすがです」
「掃除してただけです!」
私の説明を理解して。ガルドは聞いていない。瞳が完全に尊敬モードだった。やめて。その目やめて。私は本当に何もしていないのだぞ!
すると今度は別方向から足音が響く。今度は誰ですか。
「リリアナ!」
アレクシスだった。王太子自ら駆けつけてきたらしい。珍しく息が乱れている。焦った様子から、彼がどれほど心配していたかが伝わってくる。
「無事か!」
「はい。無傷です」
アレクシスは私の肩を掴み、安堵したように息を吐いた。
「よかった」
距離が近い。すごく近い。私の心臓が高鳴る。周囲がざわつく。私のことを心配して駆けつけたのかな。
「見ろよ、王太子殿下が心配している」
「あんなに取り乱しているなんて」
「公爵令嬢だけ見ているわ」
やめて。余計な誤解増やさないで。周囲の人間たちが何か勝手に物語を作り上げていく。想像力の豊かさに、私は呆れるしかない。
するとアレクシスは真剣な眼差しで言った。
「君は学園の救世主だ」
「救世主ではないです!」
「危険を察知し、一人で敵と対峙するなど」
「ゴミ拾いしてただけです!」
まさかアレクシスから救世主と呼ばれるとは想像もしなかった。理由を言っても誰も信じてくれない。
ガルドなんて完全に感動していた。瞳には星が輝いていたような気さえする。
「流石はリリアナ様です。判断力、勇気、決断力。すべてが完璧です」
「だから違うってば。私は騎士団の騎士じゃないよ!」
「王太子殿下」
ガルドが低い声を出した。声には何か不穏な空気が流れていた。
「距離が近すぎます」
アレクシスが眉を上げる。表情には、何かのライバル心のようなものが浮かんでいた。
「悪いか?」
「ガルドこそ、普段からリリアナへ近づきすぎだろう」
「護衛です」
「私は婚約者候補だ」
空気がぴりっとした。待って。なんで張り合ってるの。ガルドの目が真剣すぎる。ガルドの目の奥に秘められたものが、何か深刻な感情であることは明らかだ。
「それでも近い」
「君に言われたくない」
怖い怖い怖い。二人の圧がすごい。周囲の騎士たちまで、そわそわしている。身動きが取れない状態だ。私は慌てて二人の間へ入った。
「やめてください!」
二人が同時にこちらを見る。圧が強い視線に、私は完全に萎縮してしまった。
「私はただ掃除していただけなんです!」
「だが結果的に学園を救った」
「違います!」
「リリアナ様は謙虚すぎる謙虚さもまた、君の魅力の一つだ」
「違うのぉぉぉ!! 怖かったのだからね」
私の叫びは虚しく響いた。
◆
その後、私は正式に学園の守護聖女として表彰された。嫌だ。本当に嫌だ。せっかく平和に過ごそうとしたのに、むしろ状況は悪化した。しかも新聞には、
「公爵令嬢、単身でテロ阻止」
「王太子と騎士団長、共に守護を宣言」
「王太子と騎士団長との三角関係の行方は」
などと書かれていた。やめて。なんで恋愛記事みたいになってるの。まるで私が何か大事を成し遂げたかのような表現だ。でも私は本当に何もしていない。ただゴミを拾っていただけなのに。
私は頭を抱えた。掃除も失敗。ゴミ拾いすら危険。もう何をすれば平和に生きられるのかわからない。今度は何をしたら、この騒動が落ち着くのか。もう予測すら立たない。
いったい私のシナリオ、どうなってるの?
この問いに答えてくれる者は、この学園には誰もいないのだろう。




