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悪役令嬢に転生した私は破滅フラグを回避したいだけなのに、なぜか貴族社会の救世主扱いされています  作者: おーちゃん


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第66話 放課後のゴミ拾い


 私は最近、人生について考えている。いや、重い意味ではない。

 ただ単純に、どうして私は何をしても騒動になるのだろうという疑問についてだ。もう何度も経験してきた。おにぎりは農政改革になった。

 白紙答案は教育革命になった。雑草を抜いたら古代結界が起動した。書類整理をしたら国家規模の粛清が始まった。その度に周囲は大騒ぎになり、私は勝手に英雄扱いされてきた。

 もう嫌だ本当に嫌だ。私はただ静かに生きたいだけなのに。なのに周囲は勝手に深読みし、勝手に感動し、勝手に国家規模へ発展させていく。これは異常としか言いようがない!

 どうしてこんなことになるのか。それはこの世界そのものが異常だからなのか、それとも私が何か特別な力を持っているからなのか。いずれにせよ、もう逃げたいという気持ちでいっぱいだ。

 怖いこの世界の貴族社会、怖い。誰もが私を英雄として扱い、期待をかけ、勝手に物語を作り上げていく。それは感謝されることではなく、むしろ呪いのような存在だと思う。だから私は再び決意した。もう特別なことをしなければいいのだ。もっともっと今までよりも地味に。もっと誰にも気づかれないことを。

 そう。掃除とか。そういった日常的で、大きな価値もないような行動を。そうすれば、誰も期待してこないだろう。

 誰も深読みしないだろう。ただ普通の貴族令嬢として、普通に過ごせるはずだ。


「完璧ね」


 私は小さく頷いた。

 放課後の学園。広大な校舎は夕日に染まり始めている。王侯貴族の子女が通う名門学園だけあって、その敷地は異常に広い。白亜の本校舎、華やかな中庭、温室、訓練場、図書棟。そして、ほとんど誰も来ない裏庭や資材置き場まで存在する。そういった場所なら、目立たずに済むはずだ。人目につかずに、静かに過ごせるはずだ。

 私はその人気の少ない裏エリアへ来ていた。手には火ばさみ。そしてゴミ袋。完璧である。掃除。地味。目立たない。素晴らしい。これ以上に平和的な行動があるだろうか。

 この学園を守る気もなければ、革命を起こす気もない。ただ、ゴミを拾う。それだけだ。


「今度こそ平和に終わるわ」


 私はそっと火ばさみを握りしめた。家の書類整理は失敗した。でも学園の掃除なら問題ないはず。ただゴミを拾うだけ。

 誰も聖女扱いなんてしない。むしろ退屈だと思うかもしれない。そのくらいが丁度良い。私は鼻歌交じりに歩き始めた。

 植え込みの横に落ちていた紙くずを拾う。火ばさみでつかむと、ゴミ袋へ入れる。中庭裏の瓶を回収。花壇近くの包装紙も回収。うん。平和。素晴らしく平和。やっぱり掃除はいい。無心になれる。この平穏さが続けば、もう何も起こらないのだ。

 すると異変が起きた。

 ざわ、と茂みが揺れた。不自然な音だ。風で揺れるような柔らかさではなく、何かの意思を感じさせるような動きだった。


「今のは?」


 私は顔を上げた。夕暮れの薄暗い茂みの向こう。黒い影が動く。一人じゃない。二人。三人。しかも全員黒ずくめ。


「えっと、学生じゃないわね」


 怖い。なにあれ。怖い怖い怖い! 頭の中で警鐘が鳴る。不審者。変質者。犯罪者。破滅フラグ。

 この学園は襲撃される予定なのか。それとも何か秘密の会合をしているのか。いずれにせよ、良い匂いがしない。嫌ぁぁぁぁ!!

 私は硬直した。息すらまともにできない。とんでもない現場を見てしまったのだ。

 向こうもこちらへ気づいたらしい。ぎろり、と視線が向く。瞳は完全に獲物を狙うものだった。まずい。すごくまずい。ここ人気ない場所だし!

 どうしよう! 逃げる? でも足が動かない!

 私は半泣きになりながら、咄嗟に火ばさみを構えた。かち、かち、と震える手で鳴らす。え〜〜〜い、こっちに来ないで!


「ポイ捨ては、許しませんよ?」


 声が若干震えた。しかし、男たちの顔色が変わった。反応は恐怖そのものだった。


「なっ!!」


「ば、馬鹿な!」


「なぜここに!」


 えっと、なんでそんな反応? 黒ずくめの男たちは後退った。しかも全員、異常に青ざめている。顔色は死に絶えたような蒼白さだ。

 何があったのか私は混乱した。怖いのはこっちなんだけど。男たちの反応を見れば、彼らは私に何かを察知したらしい。

 何を? 私は何もしていない。ただ掃除しているだけだ。すると一人が震える声で呟いた。


「火ばさみ?」


 いや普通の掃除道具だけど。


「まさか、断罪の鉤を持ち出しているとは!」


 なんですかそれ。知らない。その言葉に何か歴史的な重みを感じるが、私は完全に無知だ。


「我々の計画を読んでいたのか」


「えっと、違います!」


「公爵令嬢が単身で待ち伏せとはな」


 待って。なんか勘違いしてる。彼らは私が何か知っているものだと思い込んでいるらしい。私は本当に何も知らない。

 ただ、ゴミを拾っていただけだ。なぜそれがこんなことになるのか。この火ばさみが原因か?

 すると男たちが一斉に膝をついた。


「降伏する!」


「命だけは!」


「我々は全部話す!」


「私は何もしません! なんで私を怖がる!」


 えええええ! 私は完全に固まった。何これ。どういう状況。彼らは何を恐れているのか。

 あまりの豹変ぶりに、私の頭は完全に処理不能状態に陥った。すると背後から怒号が響く。

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