表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した私は破滅フラグを回避したいだけなのに、なぜか貴族社会の救世主扱いされています  作者: おーちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/80

64

第64話 お父様の書類、整理しておきました事件


 私は最近、学んだことがある。それは余計なことをすると大体ろくでもない結果になる、ということだ。

 雑草を抜けば古代結界が起動し、学園で平均点を狙えば教育改革になる。しかも最近はヴィクトリアまで妙な方向へ懐いてしまった。怖い。人間関係が怖い。もう何もしたくない。静かに生きたい。お菓子食べて寝たい。

 そんなことを考えながら、私は公爵邸の廊下を歩いていた。

 午後三時。外は曇り空で、廊下の窓からさしこむ光も薄い。召使たちの足音は足が進む先へ遠ざかり、私のこの館での孤独感は深まるばかりだ。

 すると。


「……」


 父の書斎の前で、私は立ち止まった。扉が半開きになっている。中では使用人たちが困ったように顔を見合わせていた。視線の先には、積み重ねられた書類の山。まるで紙で作られた塔のようだ。


「旦那様、こちらの書類は」


「後だ」


 低い声が返る。疲れと苛立ちが混在した、危険な音色だ。


「しかし、本日中の決裁が必要なものも」


「置いておけ」


 うわあ。これは。かなり機嫌悪い。私はそっと中を覗いた。机の上には書類の山。床にも山。ソファにも山。なんなら窓際にも積まれている。書棚から書類が雪崩のように落ちかけている箇所もある。ひどい。前世ブラック企業の年度末を思い出す光景だった。この状況は、私が見てきた書類地獄の中でも最高峰である。

 父アルベルト・フォン・エルヴェルムは、険しい顔をしている。眉間の皺が深い。眉毛は剣のようにぴんと張られ、視線は書類に突き刺さっている。

 絶対疲れてる。もはや人間のしなやかさが失われ、石像のようにかたくなってしまっている。

 まずい。このままだとイライラが家全体へ飛び火する。そしてその流れで私まで巻き込まれる。破滅フラグだ。嫌だ。絶対に嫌だ。

 私は真顔になった。ここは処理するしかない。幸い、前世の私は事務職経験がる。Excel。Word。PDF。会議資料。稟議書。経費精算。戦場は潜り抜けてきた。紙の山程度、怖くない。


「よし」


 私は静かに袖をまくった。



 数時間後。私は完全に本気モードになっていた。


「この赤い印の書類は財務系。こちらは王宮関連。黒は重要度の高い軍事機密。緑は領地運営に関する農業と産業の統計」


 ぱらぱら。さっさっ。私は高速で分類していく。前世スキル、炸裂である。指の動きはリズミカルに、そして正確に。書類を見ただけでその内容を把握し、最適なカテゴリーへと仕分けていく。執事セバスティアンも思わず息を呑むほどの速度だ。

 そもそも書類整理とは、ルールさえ作れば単純作業だ。関連項目をまとめる。緊急度で分ける。不要な重複は捨てる。重要なものは一覧化。それだけ。難しく考えるから大変に見えるだけであって、本質は実に単純なのだ。

 私は机の周囲へ色別のバインダーを並べていった。細かい字で見出しも記入する。青は外交。赤は財務。黒は軍部。緑は領地運営。紫は研究関連。黄色は許認可関連。完璧だ。これなら父がどの案件から着手すべきかも一目瞭然である。


「お嬢様」


 使用人エマがぽかんとしている。口は半開きで、瞳には驚きの光が宿っている。


「すごいです」


「普通よ」


「紙が消えていきます!」


「整理してるだけだから!」


 私は淡々と手を動かした。次々と書類を捌いていく。その手つきは迷いがなく、まるで指揮者がオーケストラを操るかのような優雅ささえある。

 すると一枚の紙が目に入る。なんだこれ。数字が二重になってる。しかも字体が微妙に違う。あとから誰かが数字を重ね書きしたような痕跡が残っている。怪しい。私は眉をひそめた。

 前世でもこういうの見たことある。雑な偽装資料だ。決算書の数字を改ざんしたり、支出を隠蔽したりする際のテクニック。偽造の手口は様々だが、このような二重加算は初心者的な手法である。

 しかも同じような紙が何枚も混ざっている。複数の書類に同じパターンが見られる。これは個別の不注意ではなく、組織的な改ざんの証拠だ。


「あー」


 なるほど。嫌がらせ書類か。というより、陰謀の一部か。私は即座に判断した。


「これはいらないわね」


 ぽい。ゴミ箱へ投げた。その身ぐるみまで捨ててしまった。するとセバスティアンが一瞬固まった。顔色が見る見るうちに青白くなっていく。


「お嬢様」


「何?」


「今、何を?」


「不要書類を捨てただけだけど」


 執事は沈黙している。針が落ちる音さえ聞こえそうなほどの静けさだ。どうしたのか、なんで、なんで、セバスティアンは珍しく目を見開いていた。瞳に映るのは、信じられないものを見た感じである。


「まさか」


「?」


「旦那様を脅迫するための偽装帳簿を、一目で見抜かれたのですか」


「へ?」


 脅迫? 何それ。知らない。私は知らないぞ! 待ってくれ、そんな重要な書類なら先に教えて!


「字体が不自然だったから」


「字体」


「あと数字の並びも変。同じ場所に何度も加算されてる。こんなの会計書類としては成立してない」


 私がそう言うと、セバスティアンは完全に黙り込んだ。怖い。なんでそんな顔するの。すると。


「なるほど」


 低い声が響いた。父だった。いつの間にか扉の前に立っている。怖い。全然気配なかった。ああああああ〜〜終わったかも! またやらかしたか。

 父アルベルト公爵はゆっくりゴミ箱を見る。そこには私が捨てた書類。彼はそれを一枚拾い上げ、じっくりと眺める。父の眼光は刃物のように鋭い。

 そして。


「何事もなかったかのように処分するとは」


「いや、必要ないと思ったので。ごめんなさい」


「リリアナ」


 父の目が真剣すぎる。嫌な予感がするぞ。


「お前は既に、私を超えているのか」


「超えてません!」


 即答した。本当に心から否定した。しかし父は聞いていない。深い思考に沈んでいるようだ。表情は、何か重大な真実に到達したかのようである。


「この罠は巧妙だった」


「罠?」


「黒幕側がこちらへ送り込んだ二重帳簿だ。おそらくは私の決裁を得て、資料を重要な証拠として保管させる予定だったのだろう」


 怖い。さらっと怖いこと言わないで。


「普通なら証拠として保管してしまう。それこそが罠。こちらを陥れるための細工だった。虚偽の資料に基づいて国家判断をさせ、最終的には私の失政を引き出す。実に周到だ」


「えええええ〜」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ