表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した私は破滅フラグを回避したいだけなのに、なぜか貴族社会の救世主扱いされています  作者: おーちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/80

39

第39話 ガルドの過保護が限界突破する日


 騎士団長ガルドは、最近になって奇妙な習慣をつけていた。毎朝、夜明け前に目を覚ます。

 辺りがまだ暗い時間帯に、ひっそりと騎士団の営舎を抜け出す。

そして学園へ向かう。目的は学園の周囲を隅から隅まで巡回することだ。


「異常なし」


 朝日が昇る直前、ガルドは学園の北門から東門、南門、西門へと歩く。茂みの影を確認し、裏門の鍵をチェックし、物陰に何か隠れていないか調べ、さらには学園の屋根の上まで目を光らせる。

 それはまるで、戦場での陣地確保のような真剣さだった。部下の若い騎士が、呆れたような声で話しかけた。


「団長、本当に申し上げますが、学園の警備は私たち騎士団の本来の仕事ではなく」


「リリアナ様が通う場所だ」


 ガルドは即答で言った。表情は揺るがない。


「念のためだ」


「念のための範囲が広すぎるんです」


 部下は頭を抱えた。毎日毎日、この調子では身体がもたない。しかし、ガルドはもう聞いていないようだった。

 ある日、学園の廊下である事件が起きた。ガルドが学園を巡回している最中、廊下の床の上にハンカチが落ちていたのだ。それ自体は些細なことだ。

 しかしそのハンカチには、微かにリリアナの香りがしたのだ。

 ガルドは立ち止まった。そっと、そのハンカチを拾い上げる。白い布地に、小さな刺繍がある。


「これは」


 ガルドの瞳が輝いた。無言で、ハンカチを見つめる視線の先には、愛おしさすら感じられた。


「だ、だ、団長、何を」


 部下の騎士が、震える声で話しかけた。


「だ、団長、それ、リリアナ様に返さなくてもいいんですか?」


 ガルドは動かなかった。数秒の沈黙。


「洗って返す」


「え」


「少しくらい汗がついているかもしれん。洗って返すのが礼儀だ」


 洗う必要はないだろうと、部下は心の中で呟いたが、それを口に出す勇気はなかった。

 ガルドはハンカチを慎重に両手で持ち、そっと胸ポケットにしまった。ガルドの動作には、宝物を大切に扱う人の儀式が感じられた。


 学園の門前でのこと。ガルドが毎朝の巡回を終え、帰ろうとした時だった。馬に乗った高貴な青年が、門へ向かって進んできた。

 王太子アレクシスである。


「ガルド。なぜ毎朝ここにいるのか」


 アレクシスは馬から降りながら聞いた。アレクシスの表情には、明らかに疑問と警戒が混在していた。


「リリアナ様の安全確認だ」


 ガルドは、当たり前のように答えた。


「それは私の役目だ」


「いや、俺の役目だ」


 二人の視線が、鋭くぶつかった。周囲の生徒たちは身を縮ませた。


「こ、怖い」


「リリアナ様を巡る争いですか?」


「なんか、運命の三角関係みたいな雰囲気が」


 騎士たちが囁く中、アレクシスはしばらくガルドを睨んだ後、


「過保護は良くない」


 と、一言だけ言い残して去っていった。ガルドは、後ろ姿を見送りながら呟いた。


「あいつに言われたくない」



 休日のこと。私が学園から町へ買い物に出かけると聞いた時、

ガルドは当然のような顔で言った。


「護衛としてついていく」


「えっそんな、大げさな」


 私は戸惑った。町は安全だ。魔物も出ない。


(強盗も少ないのにな)


「大げさではない」


 ガルドは一歩も引かなかった。そうして、私とミレイユ、そしてガルドの三人で町へ向かった。

 町は平和そのものだったにも関わらず、ガルドの警戒レベルだけが異常だった。

 通りの人々をチェック。周囲の建物の配置を確認。非常時の逃げ道を把握。武器の所持確認。


(まるで敵陣深く侵攻する時のような緊張感である)


「あ、ガルド様。お菓子の店に寄ってもいいですか?」


 ミレイユが指差した先には、かわいらしい店舗があった。


(まさか店内も確認しないよね?)


「確認してから」


 ガルドは先に入った。店内を一周し、従業員を観察し、非常口の位置を確認してから、初めて私を招き入れた。


(するんかい!)


「どうぞ」


 私は、もう何も言う気力がなかった。


 町を歩いていると、一軒の喫茶店が目に入った。


「あ、ここ有名らしいですよ」


 ミレイユが言い、三人は中へ入ることにした。その時だった。窓際の席で、長身の青年がゆったりとコーヒーを飲んでいたのだ。


(セレスが?)


「やあ、リリアナ嬢。偶然だね」


 セレスは優雅に立ち上がり、挨拶した。


(この人、いつもここにいる気がする)


 ガルドの警戒心が一気に高まった。


「なぜここにいる」


「コーヒーを飲みに来ただけだよ。それに」


 セレスはガルドをじっと見た。何かを見透かすような光がある。


「君、最近、過保護が過ぎないかい?」


「関係ない」


「学園巡回、ハンカチ収集、王太子殿下との縄張り争い」


 ガルドの耳が、赤くなった。セレスの分析タイムの始まりだった。

 セレスはコーヒーを一口飲み、淡々と続けた。


「ガルド。君の行動は忠誠では説明できない。もっと個人的な感情があるはずだ」


「個人的?」


「そう。例えば恋とかね」


「こっ!!」


 ガルドは固まった。顔中が真っ赤になった。周囲にいた他の客たちが、騎士団長の反応に驚いて振り返った。ミレイユが横から元気よく叫ぶ。


「ガルド様、恋ですよ!! 恋!!」


「ミレイユ、声が大きい」


 ガルドは頭を抱えた。


「ああそうなのか?」


 ガルド本人が、自分の気持ちについて真剣に悩み始めた。セレスは知識あるような笑みを浮かべていた。


「ガルド。君はリリアナ嬢を守りたいと思っている。それは立派だ」


「ああ」


 ガルドは、ようやく顔を上げた。


「だが、過保護すぎると逆効果だよ。リリアナ嬢が困る」


「なっ」


 ガルドの心に突き刺さった。


「困っているのか?」


 ガルドはセレスを睨む。


「事実だよ。それに」


 セレスは微笑む。


「君がリリアナ嬢を守るなら、僕は観察するだけだ」


「観察?」


「リリアナ嬢の行動は興味深いからね」


「やめろ」


「君が守るなら、僕が出る幕はないだろう。安心して」


 二人の間に再び火花が散ったテーブルの上のコーヒーカップが揺れた。私は震えながら紅茶を飲んだ。せっかくの楽しい喫茶店での時間はバトルに口論になった。なんとなくセレスが現れた時に感じていた。


(なんで喫茶店で戦いが始まるのよ)


 ミレイユは、にこにこしながら言った。


「ガルド様。リリアナ様のこと、本当に大切なんですね」


「大切」


 ガルドは胸に手を当てた。初めて自分の気持ちと向き合う者の輝きがある。


「確かにリリアナ様が傷つくのは耐えられん」


 セレスは頷いた。


「それが恋だよ、ガルド」


「恋なのか」


 ガルド本人が、初めて恋という言葉を受け入れた瞬間だった。


「セレス、変なこと言わないでね」


「でもガルドは恋しているかも」


「そうなのガルド?」


「わ、わかりません」


(まさか護衛だけでなく、ガルドとの恋愛シナリオなのか)


 買い物、喫茶店に行った帰り道。私は、ガルドの次の言葉で唖然とした。


「リリアナ様。次からは街に出る際、事前に俺に知らせてほしい」


「えっ?」


「護衛の準備をする」


「そ、そんな毎回ですか?」


 セレスは笑っていた。


「ガルド、恋を自覚したら、ますます重くなるタイプだね」


「黙れ」


 ミレイユは嬉しそうに言った。


「ガルド様、がんばってください!!」


 私は心の中で大声で叫んだ。


(がんばらなくていい。過保護が加速するだけ!!)


 こうして、ガルドの過保護は、新たな段階へ突入したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ