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悪役令嬢に転生した私は破滅フラグを回避したいだけなのに、なぜか貴族社会の救世主扱いされています  作者: おーちゃん


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第35話 王妃の秘密任務


 王妃陛下との謁見から数日が経過していた。あの日の王妃との謁見以来、私の学園生活は少しばかり変わった。周囲の目が優しくなったのだ。王妃に気に入られた者として扱われるようになったのである。そんな注目を受けることは、本来なら避けたい状況だ。


(今日は目立たず、壁の花として過ごそう)


 そう心に決めて、図書室の奥深くに身を隠し、いつもの通り静かに本を読もうとしていた矢先のことだ。


「リリアナ様! リリアナ様!」


 慌ただしい足音が図書室に響き渡った。学園の侍女が、息を切らせながら私を探していた。


「王宮から急ぎの使いが来ています。お急ぎください」


(はああ? 何ですか、これは)


 侍女が差し出した手紙には、豪奢な蜜蝋で封がされていた。そして上には、見覚えのある紋章が押されている。


(王妃陛下の紋章だ)


 手紙を開くと、力強い筆跡で以下のように記されていた。


『リリアナ・フォン・エルヴェルム。至急、王宮へ。あなたに頼みたい任務があります。――王妃エレオノール』


(任務? いやいやいやいや、私に任務なんて無理に決まっている!!)


 心臓が高鳴る。任務という言葉だけで、すでに頭は混乱状態に陥っていた。王妃に任務を託されるなんて、そんなことあり得ない。きっと何かの誤りに違いない。

 しかし、王妃陛下からの呼び出しを断るなんてことは、どう考えても無理だ。貴族の娘である私が、王妃の命を無視することなど、身分制度が許さない。

 結局、私は再び王宮へ向かうことになった。



 王宮へ到着すると、私は直接、王妃のプライベートサロンへと案内された。白と金色を基調とした優雅な部屋。窓からは王宮の庭園が見える。噴水の水音が静かに聞こえる部屋で、王妃陛下は紅茶を飲みながら、こちらを見つめていた。


「来てくれてありがとう、リリアナ嬢」


 王妃は紅茶のカップを降ろし、柔らかく微笑んだ。王妃の微笑みは、一見穏やかに見えながらも、どこか奥深い計算を秘めているように感じられた。


(怖い。この笑顔、本当に怖い)


 内心、私は震えていた。


「実は、あなたに頼みたいことがあるの」


 王妃は続けた。


「あなたに、王宮の重要な仕事をいくつか任せたいと思っているのです」


(重要? 重要な仕事? 無理です、王妃陛下! 絶対に無理です!!)


 私は内心で叫はびたかったが、表面上は必死に冷静を保った。


「あ、あの私でよろしいのでしょうか?」


 と、遠回しに辞退の意思を示そうとした。王妃は、そんな私の心情など聞く耳持たぬとばかりに、続けた。


「あなたならできるわ。何かしら、あなたには他の者にはない何かがあるのよ」


(いや、私には何もありません。本当に何もないんです。日本では普通の会社員でしたから!! パソコンは少し使えるくらいですよ)


「では、早速ですが」


 王妃は優雅に身を乗り出した。


「まずは、王宮書庫の整理をお願いしたいの。あそこは何十年も整理されていなくてね。最近では、重要な文書がどこにあるのかさえ分からなくなってしまったのよ」


(書庫? なんで私が書庫の整理なんて?)


 内心は混乱していたが、拒否することはできない。普通に考えると王宮には侍女がいるし、彼女らに頼めばいいだろう。それをなぜわざわざ私に頼むのか意図がわからない。断れないから受ける返事をする。


「かしこまりました。努力させていただきます」


 私はかろうじて、返事を口にした。


 数日後、私は王宮書庫の扉の前に立っていた。案内された書庫の部屋は、文字通り、カオスの一言だった。

 古い書物が床から天井まで積み重ねられ、廊下にまで溢れ出ている。蜘蛛の巣があちこちに張られており、埃の量は圧倒的である。誰が見ても、


「ここに一体誰が手をつけるんだ」


 と思うような状態だった。


(うわぁ。これはひどい。本当にひどい。どこから手をつけたらいいのか)


 途方に暮れながら、私は適当に本を一冊手に取った。


「えっと、これはいつの版だろう」


 本をめくると、厚みから何か違和感を覚えた。本の中に、別のもの、別の厚さが隠れているのだ。慎重に本をめくると。


「あれ?」


 本の間から、何枚もの羊皮紙が滑り落ちた。古い羊皮紙には、正式な王宮の印鑑が押されている。文書に記された日付は、十年以上前のものだ。

 私は震える手で、それを拾い上げた。


「こ、これ重要な書類じゃ」


 内容を読むと、それは王国と隣国の外交に関する、かなり重要な協定書だった。


「侍女さん!」


 私は急いで、書庫の外で待機していた侍女を呼んだ。侍女が書類を見ると、顔色が急変した。


「リリアナ様!! それは王宮が五年前から探していた、紛失扱いになっていた《ザルベン協定書》です!!」


(え、本当に? 偶然、それだけ。ただ落ちてただけです)


 発見したという事実は瞬く間に王妃へ報告されてしまった。

 夕方、王妃からの呼び出しがあった。


「さすがね、リリアナ嬢」


 王妃は上機嫌だった。


「たった一日で、王宮が五年も探していた文書を見つけ出すなんて。あなたは本当に、王宮の闇を見抜く力を持っているのね」


(見抜いてません!! ただ本を落としたら、中に入ってただけです!!)


 心の中で悲鳴を上げながら、私は礼をした。


 王宮書庫の件から一週間後。


「次は、お隣の王国から来た外交使節団の接待をお願いするわ」


(いやいやいや!! 外交? 外交ですか? 外交なんて、複雑で、難しくて、絶対に私には無理です!!)


 パニック状態のまま、私は外交使節団の前に立たされることになった。

 使節団は五名。そのうち、首席使節官はかなり年配の厳しい顔つきをした男性だった。


(外交って、バードル高い!)


「よ、ようこそ。王国へ。いらっしゃいました」


 緊張で、言葉が完全におかしくなっていた。持っていた紅茶のティーカップも、手の震えでカタンカタンと音を立てていた。もう、こぼしてしまうのは時間の問題だった。

 何とか時間が過ぎればいいなという時だ。使節団の一人の年配の男性が、視察用に持っていた重要な外交文書をうっかり落とした。


「あ!」


 咄嗟に私は、身体が勝手に反応した。手を伸ばし、落ちた文書をキャッチする。見事なまでに、文書は私の手の中に収まった。

 使節団は一瞬、静まり返った。

 その次の瞬間。


「おお!! 反射神経が素晴らしい!」


 年配の男性が大きな声で叫んだ。


「こういった反応速度は、訓練されたものだ。貴国の外交官は実に優秀だな」


 他の使節団も同意した。


「本当だ。これは尊敬に値する」


「我が国の友好国として、貴国との関係をより深めたいと申し上げたい」


(違う!! ただの反射神経です!! 訓練されたものではなく、ただの条件反射です!!)


 心の中で叫んでいたが、外交の場の雰囲気は完全に盛り上がっていた。使節団は機嫌よく、サロンでの接待を続けた。


(外交って、反射神経が珍しいのか!)


 そしてこの一件は、またも王妃の耳に届いた。


「外交の才能まであるとは。あなたは本当に恐ろしい子ね」


 王妃は、私の前で微笑んだ。


(恐ろしいのは、この誤解の広がり方よ!! 何で私がこんなに高く評価されるの!! 誤解です)


 外交の件は無事に終わり、さらに依頼が。


「最後に、魔道具の監査をお願いしたいの」


 王妃の言葉に、私の心は完全に止まった。


(いやいやいやいやいや!! 魔道具ですか。魔道具なんて、下手に触ったら爆発するじゃないですか!!)


 しかし、すでに私に拒否する権利はない。王宮の魔道具管理室へ案内された。そこには、最新の魔道具から、歴史的価値のある古い魔道具まで、数百個が並べられていた。


「リリアナ様は、この中から不具合を持つ魔道具を見つけていただきたいのです」


 責任者の魔道具職人が説明した。


「当室でも、見た目では判別できない不具合が多く発生しており」


(何で私に? 見た目でも判別できないなら、私なんかにできるわけないじゃん!!)


 当たり前に言いたいこともあるが、震えながら、私は適当に魔道具の一つに触れた。するとどうだろう。


「ピピッ! ピピッ!」


 魔道具が突然光り、内部に隠れていた不具合を自動で表示し始めたのだ。


「ええっ?」


 魔道具職人が、驚きの声を上げた。


「リリアナ様。その魔道具は、特殊な魔力の相性判定機能を持っているのです!!」


 職人が続けて説明する。


「その機能は、扱い手の魔力と相性が合わない場合にのみ、内部の不具合を自動で表示する仕組みなのです!!」


「つまり、リリアナ様は、魔道具と完璧な相性を持っているということ!」


「同時に、不具合検出のための適正な魔力を持っているということです!!」


(違う!! ただの偶然です!! 何で魔力の相性とか言ってるんですか!!)


 しかし、すでに遅かった。この情報も、王妃へ報告されてしまった。


(王妃の評価が爆上がりするのかな)


 晩になった、王妃は王宮の重要な会議室へ、私を呼び出した。そこには、王妃の側近たちも集まっていた。


「リリアナ嬢」


 王妃は、王座に近い席から、私を見つめた。


「あなたは、王宮に必要な人材よ。本当に」


(必要じゃない!! 帰りたい!! それか、誰かこの状況を説明してください!! なぜ私にこんはことができるのかを)


「今後も、特別な任務をお願いするわ。王国のために、あなたの力を存分に発揮してちょうだい」


(特別とか、やめてぇぇぇ!!)


 王妃は優雅に立ち上がり、私に近づいた。


「あなたの才能は、本当に特別。誰にも真似できない」


(才能じゃない!! 全部偶然!!)


「王妃陛下、ありがとうございます」


 私は、心の中で泣きながら、深く頭を下げた。


(どうしてこうなるのよ。全部誤解じゃない。偶然じゃない。これでまたも誤解されて私の評価が上がる)


 王妃の手が、優しく私の頭に置かれた。


「これからも、王国のために働いて。約束よ」


(約束なんてできません。本当に)


 しかし、もう逃げ場はない。頼まれてしまった。

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