表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した私は破滅フラグを回避したいだけなのに、なぜか貴族社会の救世主扱いされています  作者: おーちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/80

24

第24話 公爵家の家族会議


 王妃エレオノールからの謁見の招待状が届いたのは、エルヴェルム公爵家の朝食の席だった。

 光が差し込む食堂。白いテーブルクロスが敷かれた大きな食卓。その上に、銀の封蝋で留められた手紙が置かれた。

 それは、王宮からの公式な招待状だ。

 私はその手紙を見た瞬間、スプーンを落としそうになった。表面には、王妃の紋章が刻まれている。


(王妃様。なんで私なんかに!)


 彼女の心臓は激しく鼓動を始めた。破滅フラグはまた別の形で立ったのか。王妃という、最も複雑な人物の関心を買ってしまったのか。

 しかし、家族の反応は私の想像とはまったく違っていた。


 当主アルベルトは、手紙を一瞥しただけで表情を変えなかった。

 その視線の先に映るのは、確かな思考だった。


「王妃陛下が、リリアナを?」


 低く落ち着いた声。その声質は穏やかに聞こえるが、瞳の奥には鋭い光が宿っていた。


「これは何か意図がある」


 公爵アルベルトは、政治家としての嗅覚を働かせている。


(お父様怒ってる?)


 私が不安に思う中、父アルベルトは静かに言葉を続ける。


「王宮が動いたということだ。面白い」


 その面白いは、決して軽い意味ではない。むしろ、危険を感知した時の、戦士の言葉だ。

 アルベルトは、公爵として、娘を政治利用しようとする動きには敏感だった。権力者が個人に興味を持つのは、その人物を何かのために使うつもりだからだ。


(何やら嫌な予感します)


「リリアナ。王妃陛下への謁見の際は、家族で対応する」


「え、えっ?」


「王宮の政治的な動きには、常に警戒が必要だ。娘一人を送り出すわけにはいかない」


(お父様守ってくれる気満々じゃない?)


 私は少しだけ胸が温かくなった。その温かさは、家族の保護から来ていた。


 母エレノアは、紅茶を優雅に口に運びながら微笑んだ。

 母の笑顔は完璧で、優雅さは疑問の余地がない。笑顔の奥には社交界での計算が隠れている。


「まあ、リリアナ。王妃陛下に呼ばれるなんて、素晴らしいことですわ」


「そ、そ、そうでしょうか?」


「もちろんですわ。あなたの最近の振る舞いは完璧ですもの。王妃陛下が注目されるのも当然ですわ」


(完璧じゃない。全部保身)


 私は心の中で泣いた。

 しかし母エレノアは続ける。


「この機会に、王宮での立場を確固たるものにしなさい。あなたならできますわ」


(できませんわ絶対に!! ちょっと前まで日本にいたのよ)


 母の期待は天井を突き抜けていた。

 エレノアの視点では、私は家族の栄誉であり社交界での切り札なのだ。王妃に認められることは、その評価をさらに高めることになる。


「王妃陛下は、社交界の中心ですわ。陛下のご信頼を得られれば、貴族社会でのあなたの地位も不動のものになりますわ」


 母は、完璧な笑顔でそう言った。

 言葉に含まれるのは、期待であり計算であり愛情だった。


(話がどんどん進んでいるよう)


 兄ルシアンは、パンをかじりながら楽しそうに笑った。

 兄は最初から、この状況を面白いと判断している。


「へぇ〜、王妃陛下がね。これは面白くなってきた」


「面白くないわよ」


「いや、面白いよ。だって、最近の君別人みたいなんだもの」


「気のせいよ」


 ルシアンは肩をすくめた。態度は、完全に観察者だ。


「王太子殿下に信頼され、騎士団長に守られ、ミレイユに懐かれ、王妃陛下に呼ばれる。君、今いちばんの中心にいるよね?」


(そんな中心いらない!!)


 ルシアンの視点では、私は興味深い。彼女の周囲に集まる複数の人物たち、その全てが彼女を特別なものとして扱っている。

 兄は完璧に理解している。だから、面白いのだ。


「妹よ。君は、知らず知らずのうちに、王宮の中心へ歩み始めたんだ。その自覚がないところが、最高に面白い」


(本当に勘弁して)


 兄は完全に観察者として楽しんでいた。

 そして末妹ソフィアは、椅子から飛び上がらんばかりに喜んだ。

 妹はまだ六歳で、社交界の計算も政治的な意図も、一切理解していない。あるのは、ただお姉さんが王妃様に選ばれたという、純粋な喜びだけだ。


「お姉さま、すごい!!

王妃さまに呼ばれるなんて!!」


「そ、ソフィア落ち着いて」


「お姉さまは絶対に世界を救う人だと思ってたの。だから王妃さまも気づいたんだよ」


(救わない!!)


 ソフィアは私の手をぎゅっと握った。手の力は小さいが、確かな信頼に満ちている。


「わたし、お姉さまのこと誇りに思うよ」


 妹の純粋な笑顔に、私は何も言い返せなかった。

 ソフィアからは、私はお姉さんであり誇りであり、憧れなのだ。


(まあ、かわいいけど)


 妹の無邪気な信頼が、私の心を掴んだ。

 家族がそれぞれの反応を見せる中、私はひとり震えていた。


(どうしよう。王妃様に会うなんて。絶対に誤解される。破滅フラグがまた増える)


 脳裏には、王妃という新しい誤解者との対面が浮かんでいた。王妃は何を期待しているのか。王妃は自分を何だと認識しているのか。

 その全てが、私の本当の意図とかけ離れれているはずだ。

 しかし、家族は誰も私の不安に気づかない。

 父は娘を守るという使命に燃えている。母は家族の栄誉という期待で輝いている。兄は妹の運命という物語を楽しんでいる。妹はお姉さんという存在を全力で信頼している。

 そして私だけが、ひとりで絶望していた。


(あああ、困ったなあ)


 最後に父アルベルトが締めくくった。


「リリアナ。王妃陛下との謁見には、我らも同行する」


「えっ家族全員で」


「当然だ。娘を政治の場に送り出すのだ。守るのは家族の役目だ」


 父であり保護者としての宣言だった。

 アルベルトは、私を何かのために使われる駒にはさせない。家族として、公爵家の娘として、リリアナを守る。

 父の決意が、一言に込められていた。

 私は胸が熱くなった。


(お父様、私のことを想って)


 しかし同時に、胃が痛くなるほどの緊張が襲ってきた。


(どうしよう。逃げたいのに逃げられない)


 こうして、エルヴェルム公爵家は家族総出で王宮へ向かうことが決まった。

 私の意思とは関係なく。

 家族の保護の下で、私は新たな誤解の舞台へ歩み始めるのだった。

 家族に守られながら、王妃という最強の誤解する者へと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ