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悪役令嬢に転生した私は破滅フラグを回避したいだけなのに、なぜか貴族社会の救世主扱いされています  作者: おーちゃん


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第23話 学園での誤解祭り・後編


 学園の講堂には、王宮貴族の子弟たちがずらりと並んでいた。

 木造の堂々とした建築。天井は高く、音響効果を考慮した設計だ。椅子は階段状に配置され、全ての生徒が壇上を見下ろせるようになっている。

 今日は王太子アレクシスが学園の治安と規律についての挨拶をする日。王宮から王太子が直接学園へ足を運ぶというのは、滅多にない出来事だ。

 私はできるだけ目立たないように、後方の席に座っていた。視線は下げ、息を殺している。


(今日は静かに終わりますように。お願いだから、何も起きないで)


 しかし、私の祈りは、いつも通り届かない。

 それは私の周囲に集まる人間たちの期待が大きすぎるからだ。


 壇上に立ったアレクシスは、堂々とした声で話し始めた。

 彼の立ち姿は完璧で、その威厳は講堂の隅々まで行き渡っている。


「学園の皆。日々の学びに励んでいることを嬉しく思う」


 アレクシスの声はよく通り、講堂の空気が一瞬で引き締まった。

 使用人たちが静けさを作り、生徒たちが息を殺す。

 私は小さく息を吐いた。


(よかった普通の挨拶で終わりそう)


 それは甘い予測だった。事態は予想をはるかに超えていく。


「そして」


 アレクシスは、講堂の後方に視線を向けた。瞳は、確実に一人の少女を捉えている。


「リリアナ・フォン・エルヴェルム」


 講堂がざわついた。


(えっ? 私?)


 全ての視線が、私に集中した。


「リリアナ様?」


「王太子殿下が名指し?」


「何が始まるの?」


 周囲の生徒たちが、期待と不安に満ちた表情で、私を見つめる。

 私は椅子から転げ落ちそうになった。


(なんで私の名前呼ぶの。やめて、やめて、やめて!)


 心臓は、激しく鼓動を始めた。

 アレクシスは、壇上から堂々と宣言した。

 声には、王族としての絶対的な権威が込められている。


「私は、リリアナを信頼できる人物だと断言する」


 講堂が一瞬で静まり返り、次の瞬間、爆発した。


「ええええええええええ!」


「王太子殿下が信頼を!」


「リリアナ様ってそんなにすごいの!」


「聖女どころかもう王妃候補確定では!」


 アレクシスの言葉は、学園全体を揺るがした。

 王太子が信頼できると言った。その一言は、私に対する全ての疑念を消し去ってしまった。


(ちょ、ちょっと待って! なんでそんなこと言うの。私、何もしてないよ)


 私は頭を抱えた。


 さらにアレクシスはそこで止まらない。

 彼の言葉は、ますます加速していく。


「リリアナは、学園でも王宮でも、誠実で、思慮深く、他者を助ける心を持っている」


(持ってない! 全部保身!!)


「彼女の行動は、この学園の模範となるものだ」


(模範じゃない。ただ目立ちたくないだけなのに)


「使用人たちへの接し方。ミレイユへの援助。騎士団長からの信頼。これら全てが、彼女の人格の素晴らしさを物語っている」


 講堂の空気は、完全に私讚美へと一色に染まっていく。


「ゆえに、私はここに宣言する。リリアナは信頼に値する人物だ。彼女に対する不当な噂や偏見は、今日をもって終わりとする。彼女を敬い、支持するものは、私の信頼の下にある」


 推薦ではなく保証だった。

 講堂が再びざわついた。


「殿下がそこまで言うなんて」


「リリアナ様、やっぱり聖女」


「いや、もう救世主では」


「王妃候補決定」


(救世主じゃない! ただの一般人です)


 私の心の叫びは、講堂の騒音に完全に埋もれた。

 さらに追い打ちが来る。

 騎士団長ガルドが壇上の横に歩み出た。

 ガルドは胸に手を当て、厳粛な表情で宣言した。


「殿下のお言葉に、近衛騎士団長として同意いたします。リリアナ様は命を救ってくださった方です。その誠実な心と勇敢な行動は、疑いようがありません」


(違うって! 私が死にたくなかっただけよ)


 そして、セレスも微笑む。

 セレスの表情は遊び心に満ちているが、その言葉は重い。


「僕も賛成だ。リリアナ嬢は裏表のない誠実な人物だよ。その証拠に、彼女の行動は全て周囲に益をもたらしている」


(裏表しかないよ。裏は保身、表は低姿勢だけど)


 講堂は完全にリリアナ信仰の空気に包まれてしまった。

 もはや反対の声は存在しない。王太子、騎士団長、宮廷魔導士。学園でも最高峰の地位を持つ三人が、全員で私を支持したのだ。


 私は椅子に沈み込んだ。


(終わった)


 彼らの言葉は、絶望に満ちていた。


(破滅フラグ、逆に強化されてないか?)


 本来のルートでは、私は悪役令嬢として嫌われ、王太子によって公開で断罪される。

 現在の状況は全く違う。

 王太子は、私を信頼できる人物として公的に認定してしまったのだ。

 これは、断罪どころか賛美だ。


「リリアナ様、素敵」


「殿下の信頼を得るなんて」


「王妃になる未来しか見えない」


 周囲の生徒たちの声が、私の耳に入ってくる。


(やめてぇぇぇ! そんな未来望んでない。婚約者だけでも十分面倒なのに)


 私の心の叫びは、誰にも届かない。

 代わりに、一つの真実に気づく。


(私、もう逃げられない)


 破滅フラグは消えた。代わりに立てられたのは、選ばれし者、聖女様、救世主というフラグだ。

 それは、破滅より複雑で、より逃げられない運命だ。


 アレクシスの宣言は、学園中に瞬く間に広まった。

 夜までに、王宮にも知れ渡ったはずだ。

 私の評価は、天井を突き抜けた。

 私は今や聖女様、救世主だけでなく、王太子が信頼する人物という、最高の肩書きを獲得してしまった。

 そっと頭を抱えた。


(どうしてこうなるのよ)


 破滅フラグ回避のために必死に低姿勢を保ってきた。

 その結果、獲得したのは破滅ではなく神話だ。

 こうして、誤解と混乱に満ちた講演は幕を閉じた。

 私の誤解されまくり人生は、ここからさらに進むのかな。

 王太子の信頼。ガルドの忠誠。セレスの興味。ミレイユの憧れ。使用人たちの信仰。家族の愛情。

 全てが同時に、私に集中している。

 その重さに、どう応えるのか。


(私、何とか生き残れそうだが、面倒だな)

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