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悪役令嬢に転生した私は破滅フラグを回避したいだけなのに、なぜか貴族社会の救世主扱いされています  作者: おーちゃん


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第22話 王妃の興味


 王太子アレクシスが学園でリリアナは信頼できる人物だと公式宣言したという報告は、王宮に瞬く間に広がった。

 王宮の侍女たちが廊下でささやく。


「殿下があそこまで言うなんて前代未聞よ」


「本当に。あのリリアナ様が氷の公爵令嬢ではなかったなんて」


「むしろ聖女ではって噂も聞きますわ」


 侍従たちが控室で首を傾げる。


「王太子殿下が?」


「公式な宣言らしいです。学園全体での」


「政治的な意味合いがあるのか、それとも個人的な好意か」


 文官たちが会議室で書類を交わす。


「リリアナ・フォン・エルヴェルム公爵令嬢について、詳細な調査報告をお願いします」


「承知いたしました。恐らく王太子殿下の婚約者としての適性判定に関わるものかと」


 王宮の隅々までが、この一つのニュースで揺れていた。


 王宮の奥深い場所にある王妃の居間。白を基調とした優雅なサロン。壁には高級なタペストリーが掛けられ、窓からは王宮の庭園が見える。

 王妃エレオノール・ルーヴェンは、そこで優雅に紅茶を飲んでいた。

 年齢は四十代後半だが、その容貌は二十代のように美しく整えられている。宮廷魔法の力もあるだろうが、それ以上に彼女の気品が、すべての不完全さを補っていた。

 侍女がそっと近づいた。


「王妃陛下。王太子殿下より報告が参りました」


「何かしら?」


 王妃は紅茶を唇に運びながら、侍女の報告を聞いた。


「本日、学園でのご挨拶の折に、王太子殿下がリリアナ・フォン・エルヴェルム嬢について信頼できる人物だと公式宣言されたそうです」


 王妃は紅茶を置いた。扇子を止め、ゆっくりと目を細める。


「リリアナ・フォン・エルヴェルム?」


 その名前は、王妃の耳には決して新しくない。アレクシスが名指しで信頼を宣言するほどの人物だとは知らなかった。

 王妃は目を細めたまま、侍女に言う。


「その子について、詳しく調べなさい。できるだけ早くね」


「かしこまりました、王妃陛下」


 侍女が一礼して退出した後、王妃は再び紅茶を手に取った。彼女の脳裏では、既に計算が始まっていた。


 その夜、侍女たちが集めた情報が王妃のもとに届いた。


「王太子殿下が名指しで信頼を宣言し、よほどの人物」


「騎士団長ガルドが忠誠を誓っており、人望がある」


「宮廷魔導士セレスが擁護しているほどに才能がある」


「学園での善行の噂が絶えないのは、民心を得ている」


「エルヴェルム公爵家の嫡出娘であり、政治的価値が高い」


 王妃はこれらの情報を、自分なりに分析した。そして、彼女は一つの結論に至った。


「使えるわね」


 それは、政治家としての、王妃としての判断だった。

 リリアナが何もしていないという事実は、王妃の視点には入らない。她が見ているのは結果だけだからだ。

 王太子が信頼するなら、その信頼に値する理由があるはずだ。だから、彼女は使える駒なのだ。

 王妃はそう判断した。

 王妃は侍女に言った。


「リリアナ嬢との謁見の場を設けなさい。できるだけ早く」


「こ、こんなに急ぎで、王妃陛下?」


 侍女は驚いた。王妃が個人的に誰かと会見を設定するなど、滅多にない出来事だ。


「ええ」


 王妃は扇子を優雅に動かした。


「あの子が本物かどうか、確かめる必要があるわ」


 王妃の狙いは複雑だった。

 王太子の婚約者としての適性を見極めること。貴族社会の救世主として利用できるか判断すること。公爵家との関係強化。民心の掌握。

 それらすべてが、一人の少女の背後に隠れている。

 その少女本人には、一切の自覚がないまま。

 王妃はさらに情報を集めさせた。


「リリアナ様はミレイユ嬢を階段から救ったそうです」


「騎士団長の命も救ったとか」


「学園での振る舞いが完璧で、使用人にも優しい」


「貴族の子息たちからの信頼も厚いようです」


「最近は王太子殿下とも親しいと」


 その全てが、王妃の耳に入った。そして、彼女はますます確信を深めていった。


「完璧ね」


 王妃は満足げに微笑んだ。


「あの子は王妃教育に耐えられる器量がある」


 王妃の視点では、リリアナは磨けば光る素材なのだ。

 だから、彼女は使えると判断したのだ。

 王妃は最後にこう言った。


「リリアナ嬢を今週中に呼び出しなさい。王宮での謁見をお願いするのよ」


 侍女は頭を下げた。


「かしこまりました、王妃陛下」


 王妃は扇子を閉じた。

 彼女の目には、既に自分の計画が完成している。


「アレクシスの見る目は正しいわ」


 王妃は静かに呟いた。


「でも、あの子の本当の価値を引き出すには、私の指導が必要だ」


 王妃は自分の力を信じていた。


 彼女は、無数の貴族を完成させてきた。王妃として、政治家として、彼女の手腕は確かなのだ。

 だから、リリアナも完成させられると信じていた。


「リリアナ・フォン・エルヴェルム。あなたがどれほどの宝か、確かめてあげる」


 その瞬間、リリアナの運命は大きく動き始めた。


 その同じ時刻、リリアナは自分の部屋で布団に包まれていた。

 彼女の手には、その日届いた王宮からの招待状が握られている。


『リリアナ・フォン・エルヴェルム嬢へ。王妃陛下のご所望により、近日中に王宮での謁見をお願いいたしたく存じます』


(なんか王宮から呼び出しが来たんだけど。これ絶対ろくなことにならない)


 リリアナは布団の中で震えていた。

 アレクシスの信頼宣言は、彼女には完全に逆効果だったのだ。

 破滅フラグを回避しようとして、別のフラグを立ててしまった。

 そして、その別のフラグが、いま開花しようとしているのだ。

 王妃という、最も複雑で最も強大な人物の興味を引き寄せてしまった。


「どうしよう」


 リリアナは呟いた。


(王妃陛下に何を求められるんだろう)


 彼女には知る由もない。王妃が何を誤解しているか。王妃が彼女を何だと判断したか。

 それが分からないほど、事態はより一層複雑になるのだ。

 王妃という新しい誤解者の登場によって、リリアナの新たな幕を開けた。

 そして、リリアナの誤解されまくり人生は、さらなる高みへと駆け上がっていくのだった。

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