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第18話 番外編 クラウディア視点
クラウディア・ベルンシュタインは、朝からため息をついていた。
自分の部屋の鏡の前。完璧な身だしなみで身を包みながら、彼女は拳を握りしめた。
だって最近のリリアナ様、なんか評判いいんだもの。優しいとか変わったとかそんなの、信じられませんと思う。
リリアナが優しくなったという噂。それは、クラウディアにとって何より不愉快だった。
なぜなら、彼女はずっと貴族の中で最高の令嬢という立場を保ってきたのに、その地位が揺らぎつつあるからだ。
「今日こそは」
クラウディアは鏡の中の自分を見つめた。
完璧に巻かれたブロンド髪。上質な素材のドレス。精密な化粧。全てが完璧に整えられている。
「今日のお茶会で、わたくしが本物の淑女だと証明してみせますわ!」
自信満々で、彼女は学園へ向かった。
ただし、その自信が全く根拠のないものであることに、本人はまだ気づいていないのだった。
◆
学園の大広間。いつものようにお茶会が開催されていた。
クラウディアが入ると、まず目に入ったのはリリアナの姿だ。壁際で静かに紅茶を飲んでいる。
なんでそんな端っこにいるのよ。もっと中央で威圧してきなさいよ。挑発しづらいじゃないのと、クラウディアは内心で不満を感じながらも、表面上は完璧な笑顔を作った。
深呼吸をして、優雅に歩を進める。
「まあ、ごきげんよう、リリアナ様ぁ」
完璧な挑発のスマイル。丁寧な言葉づかい。貴族令嬢として申し分のない態度。
クラウディアは確信していた。これでリリアナは怒るか、あるいは冷笑するか、何らかの反応を示すだろうと。
「ごきげんよう、クラウディア様。わたくし、これから用事がございますので失礼いたしますわ」
リリアナは笑顔で立ち上がった。
ちょ、ちょっと待って! まだ何も言ってませんわよと、クラウディアの頭は真っ白になった。
リリアナは本当に立ち去ろうとしている。会話もせず。挑発への返答もせず。ただ、優雅に身を引いているだけだ。
逃げるなんて卑怯ですわと、思わず大声を出してしまった。
「リ、リリアナ様ぁ!!わたくし、まだ話が」
「申し訳ありませんわ、本当に急ぎの用事がございますの」
にっこり微笑んで、すっと去っていくリリアナ。
その後ろ姿は、完全に相手にされていないことを示していた。
な、な、な、な、なんなのよその余裕! わたくしの挑発を無視しているのかと、クラウディアの体は震えた。
そして、地獄はここからだった。
すぐに周囲の令嬢たちがざわめき始めたのだ。
「リリアナ様、素敵」
「挑発に乗らないなんて、大人だわ」
「クラウディア様の方が幼稚に見える」
「そうね。品性の差がはっきり出たわ」
「えっえっ!!」
クラウディアは耳を疑った。
自分こそが優雅で品があり、他の令嬢たちより上であると思っていたのに、なぜか幼稚という評価を受けてしまった。
わたくしの方が悪者みたいじゃないのと、涙が滲む。
違います。わたくしはただ、リリアナ様と対等に話したかっただけなのに、しかし周囲の令嬢たちは容赦ない。
「クラウディア様大声は下品ですわ」
「リリアナ様の方がよほど淑女らしいです」
「本当に。クラウディア様は無理してる感じがします」
「な、な、なぜっ?」
クラウディアの心は、完全に折れてしまった。
◆
その夜。クラウディアは自分の部屋で、泣いていた。
「リリアナ様わたくしのこと、嫌いなんですのね」
涙がぽろりと落ちる。
昔はわたくしが話しかければ、ちゃんと冷たい笑顔で返してくださったのに。
それはそれで問題だが、クラウディアにとっては対等に扱われていた証拠だった。相手にされているということは、少なくとも敵として認識されているということだ。
今はまるで相手にされていないみたいと、涙がぽろぽろと落ちる。
「わたくし嫌われてしまったんですのね」
クラウディアは完全に誤解していた。
リリアナはただ関わりたくないだけだ。別に嫌いなわけではなく、単に面倒と判断しているだけなのだ。
だからリリアナ様はわたくしを無視なさったんですのねは、完全な誤解である。
◆
だが、落ち込んだのは一時のこと。
クラウディアは次の朝、再び立ち上がった。
「いいえ! わたくし、負けませんわ!!」
涙を拭い、鏡の前でもう一度自分を見つめた。
リリアナ様が変わったのならわたくしも変わってみせますと、目はキラキラと輝いていた。新しい決意に満ちていた。
次こそはリリアナ様に対等なライバルとして認められてみせますと、決める。
クラウディアは知らない。リリアナが勝負など考えていないということを。
また、リリアナがクラウディアと関わりたくないと思っているということを。
彼女は、一人で盛り上がる。一人で決意する。一人で次のステップへと向かう。
◆
その日の夕方。
クラウディアはついにリリアナに駆け寄った。相手が図書室を出てきたタイミングを見計らって。
「リリアナ様ぁ!! 明日のお茶会、わたくしとご一緒してくださいますわよね!!」
「えっ?」
リリアナは困惑した表情を浮かべた。
「これからもライバルとして、対等に競い合いましょうね!!」
なんでそうなるのかと、リリアナは内心で呟いた。
クラウディアは満面の笑みで、赤くなった目で言った。
「わたくし、あなたに負けませんわ!! これからもよろしくお願いいたします!!」
その言葉は、純粋な競争心から来たものだった。
リリアナにとっては、単なるトラブルの種に過ぎなかった。
いや、勝負してないんだけどと思っていて、リリアナはそっと目をそらした。
この子、嫌いじゃないけど関わると面倒だと思っていた。
こうして、クラウディアの空回りは今日も元気に続くのだった。
ただし断罪イベントでは、彼女もまた何かしらの役割を果たすことになるだろう。
それが、彼女自身の意図しない形で。




