六話 第一歩
____コン、コン、コン。
「失礼します。奥様はこちらにいらっしゃいますか?」
何者かが執務室の扉を叩く音が響いてから、大人しそうな若い女性の声が聞こえてきた。
この声は……私を執務室まで案内してくれた子ね。
「えぇ、いるわ。入っていいわよ」
特に拒否をする理由もない……いえ、むしろ入ってくれた方が好都合なので、入室を促す。
「は、はい! ……って、わぁ!?」
キィ、と扉が開いたかと思うと、目をまん丸にして立ち尽くしている侍女が現れた。
「ふふ、驚いたでしょう?」
「こ、この部屋……本当にあの執務室ですか!? なんか、前はもっと……その、書類が色々落ちていたような……」
「整理整頓は仕事の基本だもの」
彼女が驚くのも無理はない。
なんていったって、この執務室は今さっき生まれ変わったのだから!
***
バートンに声をかけた私は、まず書類を仕分けすることから始めた。
どうして今までこれらを放置していたのか聞いたら、「旦那様がこれで良いと仰るので……」ですって!
本当に、伯爵には呆れてしまうわ。
「いいかしら、良い仕事は良い環境から生まれるの! こんなに散らかった部屋では、いつか大事な書類も無くしてしまうかもしれない……。そうなったら、クランドール伯爵家の品格を保てなくなるわよ!」
「その通りでございます……」
「じゃあ、ただ闇雲に棚に仕舞っても仕方がないから……きっちり整理していきましょう。まずは、そこのソファに積んである書類からね。あと、いらない書類はしっかり処分しましょう。できるわね?」
「えぇ、お任せください。雑務は得意ですから」
……本当はこういう仕事は執事長はなくて、他の者がやるべきなんでしょうけど……。
今は使用人のトップであるバートンと信頼関係を築く……いえ、私が噂通りの悪女でないことを示すことの方が大事だものね。
さぁ、どんどん片付けるわよ!!
***
「……というわけで、これからはこの部屋の掃除もお願いね」
「はい! ……奥様って、すごく片付け上手なんですね……。数時間であんなに乱雑していた書類をここまで綺麗に纏めるなんて……」
「まぁ、貧乏貴族だもの。節約・掃除は基本中の基本よ。一通り自分で出来なければ余計なコストがかかるだけだもの」
「か、かっこいい……!」
侍女、そしてバートンがキラキラとした瞳でこちらを見つめている。
なんだかすごく……単純というか……。
まぁ、でも悪い人達じゃないのよね、多分。旦那様が上手く手綱を握れていないだけで……。
それに、これくらいで感心されたら困るわ。こんなの屋敷大改造の第一歩だもの。
「そういえばあなた、私に用があって来たのよね?」
「あ、そうでした! もうすぐ夕食のお時間とお伝えにきたんです」
「そう……旦那様は今日は帰ってこないのよね?」
「……はい」
私の問いかけに、彼女は申し訳なさそうに俯く。
悪いのは旦那様なんだから、別に気にしなくていいのに。
それに、むしろ丁度良いわ。
「ありがとう、すぐに部屋に戻って支度をするわ。案内してくれるかしら?」
「もちろんでございます!」
「あぁ、それと……バートン、夕食の後にこの屋敷の皆をロビーへ集めてくれる?」
私がニコリと笑ってそう告げると、バートンは目を見開いた。
「かしこまりました。ですが、一体何を……?」
私はふふ、と笑みを溢してから、髪をかきあげながら口を開けた。
「心配しないで。改めて、屋敷のみんなに伝えたいことがあるだけよ」




