五話 大改造計画
「失礼するわよ」
ノックもせずに、いきなり扉を開けて部屋の中に入る。
中にいた老人……恐らく執事長のバートンは、執務室の椅子に座ったまま驚いた顔で私を見た。
「貴方様は……」
「あら、この家では伯爵夫人に対してそんな態度を取ることがマナーなのかしら?」
「た、大変失礼いたしました!」
私の言葉を聞いたバートンはすぐにその場で立ち上がると、深々と頭を下げた。
「わたくしの方からお迎えができず、奥様直々に足を運ばせてしまうとは……大変申し訳ございません」
「そうね。伯爵は挨拶もせずに仕事へ行ってしまったし、執事長はいないわで、正直驚いたわ。あなたはここでなにをしていたの?」
あの場に顔を出さないくらいだから、よっぽど私のことを嫌っているのかと思っていたけれど……。
どうやら、そういうわけではなさそうね。
でも、それはそれ、これはこれよ。
そもそも私は、仕事で手を抜くことが嫌いな性分なの。
だから、ここは少しばかり噂の悪女らしく……厳しく追及させてもらわないとね。
「申し訳ございません。旦那様の仕事の補佐をしておりました。旦那様は優秀が故に仕事量が多く……王都へ出向かなければならないことも多いため、手が回らない部分は私が補っているのです」
「でも、手を止めることくらいはできたでしょう?」
「それが、その……旦那様より、奥様のお迎えよりも書類仕事を優先するよう申しつかっておりまして……」
「はぁ……。ありがとう、わかったわ」
結局、全ての元凶は旦那様ってわけね。
____クランドール伯爵の領地経営の腕は確かだと思う。
馬車で移動している時に思ったけれど、領民は皆豊かな装いで幸せそうに笑っていた。
けれど、だからといって自分の領域……ましてや屋敷の人間や、屋敷そのものをおざなりにしていては意味がないわ。
そもそも、そもそも、仕事の手が回っていないのなら専門の人間を雇うべきね。
執事長にはこの屋敷の使用人に指示を出すという大事な仕事があるんですもの。
「…………本当に、前途多難だわ」
私が頭を抱えていると、バートンはオロオロとした様子で私に近付いてきた。
ごめんなさいね、具合が悪いわけじゃないのよ。まぁ少し、頭は痛いけれどもね……。
____そう、問題はこの屋敷の中なのだ。
掃除もマナーも書類仕事も、全然上手く回っていない。
それどころか、庭師がいるのに庭が荒れ放題ってどういうことなの?
きっとクランドール伯爵は、一人でなんでも出来てしまうが故に人を頼ったり、指示することが苦手なのでしょうね。
だから使用人達もみんな、自信がなさそうにしている。伯爵が指示を出したり、頼ったりしていないからだわ。
伯爵家にしては使用人の数が圧倒的に少ないのも、その影響かしら。
……けれど、私が来たからには好き勝手やらせてもらうわよ。
さて、まずは書類が散らかっているこの執務室から整理させていただきましょうか。
だって、ここは今日から私の仕事場にもなるんだから……ね。
「バートン、少し手伝ってもらえるかしら? この部屋を掃除したいの。私が指示を出すから、貴方はその通りに動いてちょうだい。これは私がこの家に来てから、初めて頼む大事な仕事よ」
「! かしこまりました」
バートンの瞳に光が宿った。
執事長だもの、仕事を任されてイキイキするのは当然よね。
「やるわよ! 伯爵邸大改造計画!」
私がそう叫ぶと、バートンはビクッと肩を揺らした。
……とりあえず、私の大声に慣れてもらうところからスタートしなきゃいけない……かしらね……。




