二十六話 ドレス
「夜会……ですか?」
「あぁ。結婚してから招待状の数が異常に増えてな。遂に懇意にしている公爵家からも招待状が届いてしまったものだから、流石に顔を出さなければ……と」
ある日の朝食の途中。旦那様が、思い出したように私にそう告げてきた。
「……確かに、結婚式も挙げていなければ、社交界にも一切顔を出していませんものね」
「あぁ。それに、どうやら俺達の結婚は……想像以上に話題になってしまっているらしい」
それはそうでしょうね、と思う。
王国一の美貌と噂される若き伯爵様と、家の財産を食い潰して禄に社交界に顔を出さない悪女。そんな縁もゆかりも無いはずの二人が突然結婚したというのだから、噂好きの貴族が気になるのは当たり前だ。
……旦那様が不在にしていた一週間、私も何度か招待状を目にしてはいたのだけれど……。子爵令嬢時代から社交の場には足を運んでいなかった……というかそんな時間がなかったから、つい癖でスルーしてしまっていたのよね。そういったものは父に任せていたし……。
それに、結婚当初は旦那様もエスコートしてくださるような雰囲気ではなかったから……。そう思うと、今こうして一緒に朝食を摂っているのが信じられないくらいだわ。
「確かに、これからのことを考えると……人脈を広げておいた方が良さそうですわね。ですが、旦那様はつい先日体調不良から回復されたばかりでしょう?」
「そんなもの、すっかり治った。ルチナのおかげでな」
そう言って旦那様が、甘い瞳で私を見つめてくる。いけないわ、このままだと旦那様の空気に呑まれてしまう……!!
「旦那様がそう言うのでしたら……ぜひ出席させていただきますわ。エスコートは任せてもよろしいですか?」
「あぁ、もちろんだ。俺はルチナの、お、夫……なのだから」
旦那様はそう話しながら、少しだけ耳を赤く染めた。……どうして、今更そんなことで恥ずかしがっていらっしゃるのかしら……。というか、こんなにわかりやすい態度だったのについ最近まで気付かなかった私って、鈍いのかしら?
なんだか、そう考えたら少しショックだわ……。
「……そうと決まれば、ドレスの準備をしなくてはなりませんね」
「そのことなんだが……良ければ、俺に任せてくれないだろうか? 君に似合いそうなドレスがあるんだ。特注にはなるが……俺に、用意させてほしい」
「あら、旦那様はドレスのデザインができるのですか?」
「いや、そういうわけではないんだが……その、君が嫌じゃなければ、また……青のドレスを身に纏ってほしくて、だな」
頬を染めてフイ、と目を逸らしながら、旦那様が言葉を続ける。
「……俺の瞳の色と言ってくれた青色のドレスを纏っている君を……会場中に、見せびらかしたいんだ。彼女こそ、俺の妻なのだと。……ダメ、だろうか」
「…………わかりました……」
まさかそんなことを言われるとは思わず、単調な返事しか出来なかった。
でも、旦那様はそれだけで十分だったようで……。嬉しそうに「そうか!」と声をあげて、嬉しそうにスープを口に含んだ。
……熱が下がってからというものの、旦那様は随分と、その、熱烈になったと……思う。初対面の時からは想像できなかったくらい、甘い言葉。なんだか気恥ずかしくなって、私まで照れてしまいそうになるわ。
……まぁ、それでも……私が恋をすることは、二度とないのだけれども。
そういえば……夜会にはどんな方々が参加されるのかしら。……まさかあの方も出席なさっていて、会場で鉢合わせてしまうなんてことがあったら……。
…………なんて、流石に悪い想像のしすぎよね。




