二十四話 この気持ちをなんと呼ぶ
※アーノルド視点
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ぼんやりとした意識の中で、ゆっくりと瞼を持ち上げる。熱で腫れているのだろうか、いつもよりも少し瞼が重く感じた。窓の外はすっかり暗くなっている。俺は一体どのくらい眠っていたのだろう。
熱を出したのなんて、十歳の頃ぶりだろうか。だが、独特な頭の怠さは幾分かマシになっていた。身体を起こそうとしたところで、ふと右手がじっとりと汗ばんでいることに気付く。目線を手の方にやると、そこには自分よりも一回り華奢で白い手があった。ルチナの手だ。俺が寝ている間もずっと優しく手を握ってくれていたらしい。額に乗せられたタオルも、何度か好感された形跡があった。きっと、ずっと看病してくれていたのだろう。
ぼーっとした頭で礼を言おうと顔を上げた時、ルチナが椅子にもたれかかってぐったりとしていることに気が付いた。一瞬自分の熱がうつってしまったのではないかと焦ったが、よく見るととても穏やかな顔で目を瞑っている。聞き耳を立てると、すぅ、すぅという規則正しい呼吸が聴こえてきた。どうやら、疲れて眠ってしまっているだけのようだ。
ほっとしたのと同時に、ルチナから貰った『おまじない』のことを思い出す。熱で浮かされている状態でも、あれは心底どきりとした。ここまで症状が良くなったのも、ひとえにルチナの看病と『おまじない』とやらの効果かもしれない。
だが、気になるのはその時話していた言葉だ。「昔を思い出す」というのは、一体誰のことを思い浮かべていたのだろう。随分手馴れている手つきだった。まさか、ルチナの昔の恋の相手なのでは……と邪推してしまう。
……自分がこんな風に女性に興味を持つようになるなんて、少し前まで思ってもいなかった。俺が心を許した女性は、幼い頃に亡くなった母親だけだったから。
ルチナはこの感情を「勘違い」だと散々言ってくれたが、熱を出すほど考え込んで、わかったことがあった。
確かに俺は、ルチナのいうように苦しくてつらい想いはまだしていない。だが、ルチナのおまじない相手のことを考えただけでこんなにも胸がもやもやする。そして、初対面であんな態度をとった俺に対して、こんなにも献身的に看病をしてくれる。それも、今まで俺に近づいてきた女と違って、ルチナには一切下心がないのだ。だから、身体を張って頑丈な俺を本の落下から守ろうとするし、宝石だって強請ろうとしない。本当に、噂とは正反対だ。
美しい女性だと思う。初めて会った時も容姿は優れていると思ったが、それ以上に中身が美しいのだ。本人はそんなことを全く思ってもいないであろうところが、また愛らしくてたまらない。
ルチナは原石だ、と思う。磨けば磨くほど美しくなる、ダイヤモンドの原石。だが、俺の手で彼女を磨きたいと思う一方で、磨かれた姿を誰にも見せたくないとも思う。
小さい頃、熱を出した俺を看病してくれた母を思い出す。「どうして母上は手を握ってくれるのですか」と聞いた俺に対し、母は笑って「あなたのことを愛しているからよ」と答えた。
ルチナは別に、俺のことを愛しているから手を握ってくれたわけではない。それはわかっている。だが、俺のためを思って長い時間看病してくれた彼女のことを想うと、胸が締め付けられるような気持ちになる。
俺はきっと、ルチナのことが愛おしくて堪らないのだ。
もっと近づいて、ルチナのことを知りたい。彼女が俺を好きになってくれなくても構わないから、どうか笑っていてほしい。幸せであってほしい。
出会って数週間しか経っていない女性に対し、こんなことを感じるなんて……自分でもどうかしている。
でも、たった一瞬の出来事でおちて、いつの間にか深いところまで愛してしまっている。
俺はやはりこの感情を、恋と呼ばすになんと呼べばいいのかわからない。
「……やっぱり俺は、君が好きだよ、ルチナ……」
そんなことを呟きながら彼女の手の甲に唇を落としたけれど、ルチナは心地よさそうに寝息を立てるだけだった。




