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二十二話 知恵熱

※アーノルド視点


 *****


 屋敷に戻ってからというものの、何も手につかないまま無駄に時間だけが流れていた。

 執務室でペンを握ってはいるが、書類の内容が何も頭に入ってこない。

 代わりに頭の中を巡っているのは、先程ジュエリーショップでルチナに言われた言葉の数々だった。


『旦那様は、初めての恋自体に恋をしているだけですわ。まるで、初恋に浮かれる幼い少女のように……。相手は私じゃなくてもいいのです』

『旦那様のその感情は……私のような女が珍しくて、興味を持っているだけですわ』


 ……果たして本当に、そうなのだろうか。俺のこの感情は、恋ではなかったのか?

 わからない。なんせ、女性に対してこんな気持ちを抱いたのは初めてだ。少し前まで、結婚すら億劫だと感じていたくらいなのに……。ルチナといると、自分が知らなかった世界を知ることが出来る。出来ることなら、結婚初日からやり直したい。

 そう思うくらいには、ルチナのことを好いている。それは本当だ。


 でもこれが恋じゃないのでは、と言われても、上手く反論できない自分がいる。

 恋なんて、今まで遠い世界の話だと思っていたのだから。


「……ルチナは、恋をしたことがあるんだな……」


 ルチナが打ち明けてくれた『本当の恋』を思い出す。とても苦しそうに、けれど幸せだった日々を噛み締めているような……そんな複雑な表情をしていた。


『その方といると本当に幸せで、胸がいっぱいになって……同時に、酷く苦しくて、辛かった。いっそのこと、出会わなければよかったと思うくらいには』


 ……一体、どんな男なのだろう。あのルチナに、そんな感情を抱かせる男は……。

 それに、もしかしたらルチナは……その時の傷が、まだ癒えていないのではないかと思った。まぁ、これはただの勘にすぎないが。


「俺とルチナは、どうすれば本当の夫婦になれるんだ……? どうすれば、この感情を『恋』だと証明できる……?」


 そんなことを、ぐるぐると考え続けている。頭が痛くなってきた。

 なんだか、心做しか身体も怠い。


 仕事には全く身が入らないし、今日はもう早めに休むかと思って席を立った。その瞬間。

 ぐらり、と世界が……いや、視界が歪む。頭にズキン、と激しい痛みが襲ってきて、少し吐き気も込み上げてきた。


 これはダメだ、と瞬間的に悟る。

 ____ルチナが部屋を掃除してくれていて、良かったな……。


 そして俺は、そのまま意識を失ったのだった。

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