二十二話 知恵熱
※アーノルド視点
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屋敷に戻ってからというものの、何も手につかないまま無駄に時間だけが流れていた。
執務室でペンを握ってはいるが、書類の内容が何も頭に入ってこない。
代わりに頭の中を巡っているのは、先程ジュエリーショップでルチナに言われた言葉の数々だった。
『旦那様は、初めての恋自体に恋をしているだけですわ。まるで、初恋に浮かれる幼い少女のように……。相手は私じゃなくてもいいのです』
『旦那様のその感情は……私のような女が珍しくて、興味を持っているだけですわ』
……果たして本当に、そうなのだろうか。俺のこの感情は、恋ではなかったのか?
わからない。なんせ、女性に対してこんな気持ちを抱いたのは初めてだ。少し前まで、結婚すら億劫だと感じていたくらいなのに……。ルチナといると、自分が知らなかった世界を知ることが出来る。出来ることなら、結婚初日からやり直したい。
そう思うくらいには、ルチナのことを好いている。それは本当だ。
でもこれが恋じゃないのでは、と言われても、上手く反論できない自分がいる。
恋なんて、今まで遠い世界の話だと思っていたのだから。
「……ルチナは、恋をしたことがあるんだな……」
ルチナが打ち明けてくれた『本当の恋』を思い出す。とても苦しそうに、けれど幸せだった日々を噛み締めているような……そんな複雑な表情をしていた。
『その方といると本当に幸せで、胸がいっぱいになって……同時に、酷く苦しくて、辛かった。いっそのこと、出会わなければよかったと思うくらいには』
……一体、どんな男なのだろう。あのルチナに、そんな感情を抱かせる男は……。
それに、もしかしたらルチナは……その時の傷が、まだ癒えていないのではないかと思った。まぁ、これはただの勘にすぎないが。
「俺とルチナは、どうすれば本当の夫婦になれるんだ……? どうすれば、この感情を『恋』だと証明できる……?」
そんなことを、ぐるぐると考え続けている。頭が痛くなってきた。
なんだか、心做しか身体も怠い。
仕事には全く身が入らないし、今日はもう早めに休むかと思って席を立った。その瞬間。
ぐらり、と世界が……いや、視界が歪む。頭にズキン、と激しい痛みが襲ってきて、少し吐き気も込み上げてきた。
これはダメだ、と瞬間的に悟る。
____ルチナが部屋を掃除してくれていて、良かったな……。
そして俺は、そのまま意識を失ったのだった。




