二十一話 恋に恋して
「勘違いとはどういうことだ?」
「そのままの意味ですわ。もし旦那様が私のことを好きだと思っているとしたら……いくらなんでも急すぎます」
「……恋は、突然落ちるものだとどこかの令嬢が話していたが」
「そういうこともあるかもしれませんが……私と旦那様はまだ出会って一月も経っていないのですよ? 好きになるのが早すぎますわ」
私がそう告げると、旦那様はぐっ、と喉を詰まらせてから、声を絞り出す。
「出会ってからの期間は関係ないだろう。俺は、君の逞しさと内面の美しさに一目惚れしたんだ」
「それなら尚更ですわ。私の内面なんて、ほんの一部しか知らないじゃありませんこと? そもそも旦那様は、今まで恋をしたことがおありですの?」
「……君が初めてだ。ルチナのことを知りたいと思うし、近くに寄ると心拍数が上がる。図書室で庇ってもらった時も、正直緊張でそれどころではなかった」
……素直な方だな、と思った。
そしてそれと同時に、旦那様が眩しく感じる。なんて純粋な方なんだろうか。
けれど、やっぱり違う。それは、私の知っている恋ではない。
「……やっぱり旦那様は、初めての恋自体に恋をしているだけですわ。まるで、初恋に浮かれる幼い少女のように……。相手は私じゃなくてもいいのです」
「っ、そんなことはない! 今までいろんな女性が言い寄ってきたが、こんな気持ちは君に対してだけだ!」
「まだ出会って三週間ですわ。それに……本当の恋は、そんなに楽しいものじゃありませんもの」
「……なら、君は本当の恋をしたことがあるのか?」
旦那様が顔をくしゃりと歪めて問いかける。私はフイ、と顔を逸らしながら、小さな声で返事をした。
「……数年前のことですわ」
「じゃあ、教えてくれ。君の思う本当の恋はどんなものなんだ?」
「…………遠慮のない方ですのね。ですが……そうですね、その方といると本当に幸せで、胸がいっぱいになって……同時に、酷く苦しくて、辛かった。いっそのこと、出会わなければよかったと思うくらいには」
「……それが君の思う恋か」
「はい。ですから、旦那様のその感情は……私のような女が珍しくて、興味を持っているだけですわ」
私がそうハッキリ言い切ると、旦那様はとうとう黙ってしまった。
……酷いことを言ってしまっただろうか。
でも、本当に違うと思ったのだ。それに、私達はビジネスパートナー。この結婚に興味がないと言ったのはあなたじゃない。
第一、私はもう二度と恋なんてしたくないの。あんな思いは、もうたくさんだから。
静寂が流れる。しばらくして、VIPルームの扉がゆっくりと開いた。どうやら品物の用意ができたようだ。
「……君が俺の想いを信じてくれなくても、このネックレスは受け取って欲しい」
「…………わかりました」
旦那様が、私の首をゆっくりとネックレスで飾った。大粒のエメラルドがキラキラと光を反射して、新緑みたいだわと思った。
「……今日はもう、帰りましょうか」
「あぁ、そうだな…………」
私達は静かに店を出て、そのまま馬車の中でも何も話さなかった。
旦那様はきっと、私に言われたことを考えているのだろうけれど……。お願いだから勘違いだと気づいて欲しいと、私はただひたすらに祈っていた。




