二十話 エメラルドの瞳
「ルチナ、このエメラルドのネックレスはどうだろうか?」
「どうだ、とは?」
「貴族令嬢はジュエリーが好きなものだろう」
店に入って早々、旦那様が如何にも高そうなジュエリーを指差す。……ここまで素敵なネックレス、子爵令嬢時代に身につけたことなんてないわ。
「申し訳ありませんが……私は貧乏貴族でしたので、このようなジュエリーには縁がないのです。それに、全ての女性がジュエリーに興味があるわけではないと思いますわよ」
「……そうなのか?」
「はい。……そもそも私の手持ちでは、こんな素晴らしいジュエリーはとても手に届きませんもの……」
「ということは、ルチナ自身がジュエリーに興味がないわけではないんだな」
旦那様はそう言うと、店員に向かって「こちらを」と声をかけた。
私は焦って旦那様に話しかける。
「だ、旦那様!? でさから、私にはこんな品は買えないと……」
「俺が君にプレゼントするんだ。それならいいだろう?」
「それは……」
私だって、ジュエリーに憧れがないわけではない。ただ、貧乏貴族だったから、節約のために自分からねだることは絶対にしなかっただけ。
まぁ、父は勝手に私へのプレゼントとか言って、様々なものを贈ってくれたけど……。どれもここまでの品ではなかったし、私の好みとはズレたものばかりだったのよね。
だから、正直このジュエリーにはとても惹かれていた。私好みだし、なにより上品で美しい。旦那様の目利きが優れているのがよくわかる。
「……どうして旦那様は、私にこちらを贈ろうと思ったのですか」
「…………このエメラルドの輝きが、君の美しい瞳によく似ていたから……似合うと、思ったんだ。何より、俺がつけて欲しいと、思って……」
そう言うと旦那様は、少し恥ずかしそうに目線をフイ、と横に逸らした。私はその様子に違和感を覚えて、旦那様に問いかける。
「旦那様。お言葉ですが、もしかして旦那様は__」
「お客様、よろしければ……お渡しの準備ができるまで、奥のVIPルームでごゆっくりなさってください。ご案内いたします」
「あぁ、ありがとう」
……私の問いかけは、支配人によって遮られてしまった。私の声が小さかったから、恐らく聞こえていなかったのだろう。
私と旦那様はVIPルームのソファに腰掛ける。支配人が「失礼します」と退出して、二人きりになった。
「ルチナ、さっき何か言いかけていなかったか?」
旦那様が、私に微笑みかけた。このところ、旦那様は笑顔が増えた……と思う。
私は少し躊躇いながらも、旦那様の目を真っ直ぐ見て口を開いた。
「はい。もしかしてですが、旦那様は私に……好意を抱いてくださっていますか?」
「はっ!?!?」
旦那様の顔が、一瞬にして真っ赤に染まる。……わかりやすい人。いえ、ここまでわかりやすいのに、今の今まで気付かなかった私がおかしいのかしら……。
「な、なぜそんなことを……」
「……過去、私に同じことを言ってきた方がいましたの。『君の瞳はエメラルドのようだ』と……。それで、もしかしたら旦那様も私を……と」
「……その、男は……君の婚約者だった男か?」
「いいえ、そんな綺麗なものではございませんでしたわ。ですが、やはり私の勘は当たっていたのですね……」
ふぅ、と息を吐く。どうしたものかと思っていると、旦那様が小さな声で恐る恐る私に話しかけてきた。
「俺が、君を好きだと言ったら……君は俺を嫌いになるか?」
「……嫌いには、なりません。ですが……その気持ちは、ハッキリ言って勘違いだと思いますわ」
「……なに?」
私の言葉を聞いた旦那様が、眉間に皺を寄せた。




