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魔力ゼロって言われたけど、無限にあったので無自覚にダンジョンから国を作ります  作者: 夜凪レン


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第77話 線を引くかどうかの、相談

 次の日、話し合いになった。


 誰も「会議」とは言わなかった。

 この街には会議室が無い。作らなかった。作ると、そこでしか決められなくなるからだ。


 だから、川港の突堤に集まった。

 休養日でもないのに、突堤に人が集まるのは久しぶりだった。


アクアが、先に言った


「基準を、作りましょう」


 彼女は、帳簿を開いていた。


「受け入れる条件を決めます。人数の上限、滞在の期限、費用の出どころ」


「線を引くのか」


 フレイがすぐに返した。


「引きます」


「引いたら、この街じゃなくなる」


 アクアは顔を上げた。


「引かないと、この街が保ちません」


 二人の間に、間があった。


 この二人は仲が、悪いわけではない。

 むしろ、いちばん噛み合う。守る側と、数える側だ。


「今、宿を一つ空けています」


 アクアは続けた。


「一人ならできます。十人でもできます。百人が来たら、宿では足りません。二百人なら、街の食が動きます」


「来るのか、そんなに」


「来ます」


 彼女ははっきり言った。


「役所は、受け入れた前例のある場所へ全部回します。安いからです」


 フレイが黙った。


 彼女は、無責任な反論をしない人だ。数字を出されたら、一度飲み込む。


フレイが、次に言った


「じゃあ、聞くが」


 しばらくして、フレイが言った。


「線を引いたとして、線の外に立った子は、どこへ行く」


 アクアは答えなかった。


「帰る場所があるなら、そもそも来ない」


「……はい」


「その子を、私たちが“基準に合わない”と言って返すのか」


 アクアは、帳簿を閉じた。


「それは」


 彼女は、そこで初めて言葉に詰まった。


「――私が、いちばん嫌なやり方です」


「だろうな」


 フレイは、それ以上責めなかった。


 この人は、勝ったところで追撃をしない。戦場から持ち帰った癖の中で、いちばん良いところだと思う。


ノクスは、事実を置いた


「一つ、情報を」


 ノクスが割り込んだ。


「私は、どちらの味方でもありません」


「知ってる」


「昨日、南の港で、判定書が売られていました」


 突堤の空気が変わった。


「判定書?」


「“通界式・認定”の判子つきです」


 彼は、懐から一枚出した。


 紙は粗い。

 判子は、それらしく彫ってある。


「一枚で、銀貨五枚だそうです」


「誰が売ってる」


「それは調べます」


 ノクスは、紙を卓代わりの木箱に置いた。


「ただ、言えることが一つ」


 彼は、指でその判子を叩いた。


「線が無いところには、偽の線が立ちます」


 誰も、言い返さなかった。


三つが、揃わない


 線を引けば、外に出る子がいる。

 線を引かなければ、街が保たない。

 線が無ければ、偽の線が売られる。


 三つとも正しい。


 三つとも正しいときは、大抵、問いの立て方が悪い。


(……いや)


 俺は、そこまで考えて、止まった。


 問いの立て方が悪い、というのは、逃げるときにいちばん便利な言葉だ。

 俺は、それを言って何度か逃げたことがある。


「リクスさん」


 セレナが、隣に来て言った。


 彼女は、今日はずっと黙っていた。理論家が黙るときは、考えている時だ。


「一個だけ、いいですか」


「どうぞ」


「この話、全部“通界がどうするか”になってません?」


 俺は彼女を見た。


「そうだな」


「あの子の話、一回も出てないです」


 誰も、返さなかった。


 波が、木の柱に当たる音だけをさせている。


「石、まだ並べてますよ」


 セレナは、宿の方を見た。


「宿の壁を回って、路地の入口まで届いてました」


 俺は、そこで初めて、自分たちが何をしているのかを外から見た。


 子ども一人の扱いを決めるために、街の全員が突堤に座っている。


 その絵は、王都の会議とよく似ていた。

正しい意見が三つ揃うと、話は前に進みません。

そして、当人がいない席で決まる話は、大体ろくなことになりません。

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