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魔力ゼロって言われたけど、無限にあったので無自覚にダンジョンから国を作ります  作者: 夜凪レン


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第75話 世界は、返事を待っている

 その日、三つの国で、同じ会議が開かれていた。


 打ち合わせたわけではない。

 議題が、同じだっただけだ。


北の内陸


 書記官が、書類の束を机に置いた。


 厚い。


 彼はそれを、朝のうちに三度読み直している。決裁の要るものを右、要らないものを左に分け、どちらにも置けないものだけを、こうして紐で縛って持ってくる。役所の仕事は、机の上で紙が減っていくことで進む。減らない紙は、そのまま机の上で年を取る。


「保留分です」


「何件だ」


「四十一件」


 大臣が眉を寄せた。


「多いな。何の保留だ」


「測定不能の子どもの、扱いです」


 一瞬、誰も、言葉を出さなかった。


「不能? 故障だろう」


「二度測っています。器具を替えて、三度目も」


 書記官は、淡々と読み上げた。


「規定では、測定結果に応じて就学と職域が決まります。結果が無い場合の条項が、ありません」


「作ればいい」


「作ろうとしました」


 彼は、束の一枚を抜いた。


「ですが、この欄がありますので」


 示されたのは、下から二つ目。


  通界の判断を仰ぐ。


 大臣は、その一行を長く見た。


「……仰いだのか」


「送っていません」


「なぜだ」


「送った例が、まだ一件もありません」


 沈黙。


「では、我々が最初になるのか」


「はい」


 書記官は、静かに言った。


「そして、最初の返事が、以後の基準になります」


 大臣は、束を押し戻した。


「保留だ」


南の港


 港湾長は、もっと単純だった。


「動かせ」


「動かせません」


「なぜだ。船は出ている」


「子どもの名簿が閉じられません」


 補佐官は指を折った。


「名簿に載らないと、乗船できません。乗船できないと、親元へ返せません」


「親は」


「引き取れないそうです」


 港湾長は、椅子にもたれた。


「……あの街に、送ってしまえ」


「送っています」


「もう送ったのか」


「一件だけ」


 補佐官は、少し声を落とした。


「船賃は、送り主の自腹でした」


「役所ではなく?」


「役所は、決めていませんので」


 港湾長は天井を見た。


「決めていない、というのは」


 誰にともなく、彼は言った。


「決めた者が悪者になる、という意味だな」


西の三国


 三つの国の使者が、同じ卓についていた。


 珍しいことではない。この三国は様式を共有している。写しの手間が省けるからだ。


「では、確認する」


 議長役が言った。


「我々は、通界に照会を出すか」


「出すべきだ」


「反対だ」


 即座に割れた。


「なぜ反対する」


「照会を出せば、返事を待つことになる」


 反対した男は、卓を軽く叩いた。


「待っている間、我々は何も決められない。今も決めていないが、その時は“待っている”という理由がつく」


「理由がついた方が楽だろう」


「楽だ」


 彼は、そこで声を落とした。


「楽だから、危ない」


 誰も、すぐには返さなかった。


「一度でも“あそこに聞く”と決めたら、次からは全部聞くことになる」


「今でも、実質そうだ」


「実質と、明文は違う」


 議長役が、書類を閉じた。


「保留とする」


 三国とも、同じ結論だった。


会議のあと


 北の内陸で、書記官は保留の束を棚に戻した。棚は、もう一段では足りなくなっていた。


 彼は、その厚みを見ながら、ひとりごとを言った。


「……返事が来ないのは」


 一拍。


「困っているのが、向こうも同じだからかもしれん」


 その考えは、どの国の議事録にも残らなかった。


 残らなかったが、たぶん、いちばん正確だった。


 通界は、返事をしていない。

 世界は待っている。


 待っている間、四十一人と、名簿に載らない何人かが、どこにも所属していなかった。

この街には出てこない話です。

出てこないところで、世界は勝手に止まっています。

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