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魔力ゼロって言われたけど、無限にあったので無自覚にダンジョンから国を作ります  作者: 夜凪レン


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第70話 教えるのが、いちばん下手

 翌日、俺は、同じ空き地に立っていた。


 自分から行くと言った。

 言ってから後悔したが、後悔の速度より足の方が速かった。


「本当に、やるんですか」


 ルーカスが、心配そうに聞いてくる。


「やる」


「紙は」


「要らない」


 彼は、何か言いたそうな顔をして、それでも下がった。


 十四人が、俺の前に並んでいる。

 昨日より二人多い。噂が回るのが早い街だ。


一回目


「じゃあ」


 俺は、両手を軽く上げた。


「押さないで」


 沈黙。


「……えっと」


 いちばん前の若い女が、おそるおそる手を挙げた。


「どうやって、ですか」


「押さないだけ」


「はい」


「押さないだけです」


「はい……」


 全員が、真面目な顔で押さないでいる。


 当然、何も起きない。


(あれ?)


二回目


「たとえば」


 俺は、言い方を変えた。


「蛇口ってあるだろ」


「あります」


「あれ、ひねるよな」


「ひねります」


「ひねるだけで、水が出る」


「はい」


「押してないよな」


「押してません」


「それ」


 沈黙。


 長かった。


「……蛇口が、どこにあるんですか」


 港の中年が、真剣に聞いてきた。


(俺の中)


 と言いかけて、やめた。それはたぶん、何の説明にもならない。


三回目


「セレナ」


 俺は、見物に来ていた風術士を呼んだ。


「はいはい」


 セレナはいかにも、面白がっている顔で出てきた。


「通訳をしてくれ」


「私、リクスさん語の専門家じゃないですよ」


「いちばん長い」


「それはそう」


 彼女は咳払いをして、十四人の方を向いた。


「えー、皆さん。今のは、つまり」


 一拍。


「ええと」


 もう一拍。


「……力を、抜いて?」


「抜いてます」


「もっと」


「これ以上抜くと、立ってられません」


「あー」


 セレナが、こちらを振り返った。


 珍しく、本気で困った顔をしていた。


「リクスさん」


「うん」


「これ、無理じゃないですか?」


「無理か」


「無理です」


 彼女ははっきり言った。


「だって私も、なんであなたにできるのか分からないもの」


 風の理論家に言われると、さすがに効いた。


火が、来る


「見苦しいな」


 空き地の端から、声がした。


 フレイが、腕を組んで立っていた。いつからいたのかは聞かないでおく。この人はいつもいる。


「口を出すなら手伝ってくれ」


「手伝ってる」


「どこが」


「見てやってる」


(それは手伝いじゃない)


 彼女は、つかつかと歩いてきて、俺の前で足を止めた。


「あんた」


「なんだ」


「教えるのが下手だ」


 十四人が、一斉に頷いた。


(全員か)


「自覚はある」


「無いね」


 フレイは短く笑った。


「下手なやつは、下手な自覚があるだけで教えられると思ってる」


 返す言葉が無かった。


 この人は、たまに刺さることを言う。戦場で人を動かしてきた人間の言葉は、短くて重い。


正しさが、立つ


「リクスさん」


 ルーカスが、静かに口を開いた。


 彼は、ずっと後ろで見ていた。

 止めもしなかったし、笑いもしなかった。


「だから、手順にしたんです」


 その声には、勝ち誇ったところが一つも無かった。


「あなたは、教えられません」


「……だな」


「でも、教わりたい人は、います」


 彼は、十四人の方を見た。


「あの人たちは、あなたを待てません」


 港の男が、居心地悪そうに目を逸らした。


「待っている間、火が出せないままです」


 俺は、何も言えなかった。


 言えないまま、思った。


(正しい)


 こいつは正しい。

 正しいのに、なんで俺は、あの十二個の同じ大きさの火を見て、嫌な気分になったんだろう。


 その日、空き地は、普通に解散した。

 誰も怒っていないし、誰も泣いていない。


 俺だけが、うまく飲み込めないものを持ったまま帰った。

主人公が完全に負けている回です。

無自覚に強い人は、無自覚な部分を人に渡せません。

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