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魔力ゼロって言われたけど、無限にあったので無自覚にダンジョンから国を作ります  作者: 夜凪レン


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第68話 手引きが、あるらしい

 ノクスは日陰にいた。


 この男を探すときは、日の当たらない場所から見ていけば、大体三回目で当たる。

 今日は、二回目だった。


「早いね」


 彼は、壁にもたれたまま言った。


「用件、当てようか」


「当てないでくれ」


「手引き」


(当てられた)


「なんで分かるんだ」


「港に立ってたでしょ」


 情報官は、笑いを堪えるのが下手だ。


「あそこで紙を渡された人が、その日のうちに私を探しに来る。三人目です」


出所


「先に結論を言うと」


 ノクスは、指を一本立てた。


「外から入ってきたものじゃない」


「じゃあ、どこから」


「ここ」


 彼は、足元を指した。


「通界で書かれて、外へ出て、写されて、様式になって、戻ってきた」


 俺は少し考えた。


「……一周してる」


「一周してます」


 ノクスは、壁から背を離した。


「川の水と同じですよ。出て行ったものは、大抵、形を変えて帰ってくる」


 その喩えは、上手いのか下手なのか分からなかった。


「書いたのは?」


「名前、聞きます?」


「聞く」


 彼は、少しだけ間を置いた。


 この男が間を置くときは、こちらの反応を測っている。


「学園から来た子です」


 俺の頭の中で、一枚の絵が浮かんだ。


 廊下の真ん中に立って、こちらを見ていた男。

 痩せて、顔つきが変わっていて、それでもすぐに分かった。


(……あいつか)


呼びに行く必要は、なかった


 その日の昼過ぎ。

 俺が探しに行く前に、向こうが来た。


 執務区画の入口に、若い男が立っていた。

 背筋が伸びていて、手に厚めの紙束を抱えている。


 貴族の子だった頃の名残は、立ち方にだけ残っていた。


「……久しぶりです」


 ルーカスは、そう言って頭を下げた。


 あの日の廊下より、丁寧な角度だった。


「呼んでない」


「呼ばれる前に来ました」


「なんで」


「怒られるなら、早い方がいいので」


(……そういうところは、変わってないな)


 俺は、椅子を一つ蹴って向きを変えた。座れ、の意味だ。

 彼は、律儀に「失礼します」と言ってから座った。


聞くべきことを、先に


「怒ってない」


 俺はそう言った。


 これは本当だ。腹は、立っていない。

 立っていたら、もっと楽だった。


「港の紙」


「はい」


「あれ、お前が書いたのか」


「元は、そうです」


 ルーカスは、抱えていた束を机に置いた。


 厚い。

 指三本ぶんはある。


「今のものは、私の手を離れています」


「離れた?」


「写されて、直されて、また写されました」


 彼は、束の一番上をめくった。


 文字が、詰まっていた。

 几帳面な字だ。行間まで揃っている。


「第三版は、私が書いたものではありません」


「読んだのか」


「読みました」


 一拍。


「……よく、できていました」


 その言い方に、少しだけ引っかかった。


なぜ書いたのか


「一つ聞く」


「はい」


「なんで、書いた」


 ルーカスはすぐには、答えなかった。


 窓の外で、荷車が通る音がした。車輪は軽い。この街の車輪は、大体軽い。


「教えてほしい、と言われたからです」


 彼はそう言った。


「誰に」


「最初は、三人でした」


 指を折る。


「港で働いている人と、その弟と、隣に住んでいた人です」


「魔法を?」


「押さない魔法を、です」


(……その呼び方)


 志望理由の欄に一行だけ書いてあった、という話を思い出した。

 あのとき俺は、それを進路希望だと思った。


「私は、一度も見せられませんでした」


 ルーカスは、机の上の束を見たまま続けた。


「あなたのを、見たことがあるだけです。的が消し飛ぶところを」


「あれは通しすぎた」


「知ってます」


 彼は少し笑った。


 笑ってから、まっすぐこちらを見た。


「でも、三人には、そう言えませんでした」


「なんで」


「“通しすぎた”が、どういう意味か分からないからです」


 俺は、返事に詰まった。


 詰まった、ということが自分でも意外だった。


「だから、順番にしました」


 ルーカスは、束の背を軽く叩いた。


「私にできるのは、それだけだったので」


 紙の厚みが、そのまま彼の時間に見えた。


 悪意は一枚も無い。

 それが、いちばん厄介だった。

悪意のある相手は、倒せば終わります。

善意はそうもいきません。

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