表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力ゼロって言われたけど、無限にあったので無自覚にダンジョンから国を作ります  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/78

第67話 通界式って、何?

お待たせしました。あの街のその後を、もう少しだけ書きます。

リクスは相変わらず、自分のやったことの大きさを分かっていません。

 朝の川港はいい。


 荷が動く音と、水の匂いと、誰かの怒鳴り声。

 全部が同じ方向へ流れていて、詰まっているところが無い。


 俺は特に用事も無く、突堤の手前まで来ていた。

 用事が無いのに歩けるようになったのは、進歩だと思う。前は、用事が無いと三分で落ち着かなくなった。


(……今日は、いけそうだな)


 そう思った矢先だった。


列が、できている


 管理所の前に、人が並んでいた。


 十人ほど。

 船長らしき男が三人、荷主が二人、あとは荷運びの若いのが順番を待っている。


 列そのものは、珍しくない。

 朝は、荷が集中する。


 ただ――


 全員が、紙を持っていた。


 しかも書いている。

 膝に乗せたり、樽の上に広げたり、隣の男の背中を借りたりして、真面目な顔で書いている。


(……何を?)


 俺は、列の横を通って管理所を覗いた。


 受付の青年が、机の向こうで判を握っていた。

 この港ができた頃からいる男だ。名前は憶えていないが、顔は憶えている。


「おはよう」


「あ、どうも」


 青年は顔を上げて、すぐまた判に戻った。


「今、混んでまして」


「みたいだな」


 俺は、机の上の紙束を見た。


 入港申請。

 積荷申告。

 危険物区分。


 三枚あった。


前は、こうじゃなかった


「これ、書かせてるの?」


「書いてもらってます」


「前は」


 俺は、記憶を掘り出した。


「沈まなきゃ、OKって言ってなかった?」


 青年の手が止まった。


「……言ってました」


「言ってたよな」


「言ってましたね」


 彼は、少し困った顔で笑った。


「あれ、評判良かったんですよ」


「だろうな」


「よそから来た船が、必ず驚くので」


 それから、彼は判を置いた。


「でも、様式が来たので」


(様式)


 聞き慣れない単語が、聞き慣れた場所から出てきた。


「様式って?」


「これです」


 青年は、束の一枚を抜いて差し出した。


 紙は上等だった。

 罫線が真っ直ぐで、欄の並びに迷いが無い。

 誰が書いても、同じ形になるように作られている。


(……よくできてる)


 感心してしまったのが、たぶん最初の間違いだった。


名前を、教えられる


「どこの様式?」


 俺が聞くと、青年は、不思議そうな顔をした。


「え」


 一拍。


「通界式ですけど」


 港の音が、少しだけ遠くなった。


「……通界式」


「はい」


「それ、誰が決めたの」


 青年は、いよいよ困った顔になった。


「決めた、っていうか」


 言葉を探している。


「そう呼ばれてるので」


「呼ばれてる」


「みんな、そう呼びます」


 みんな。

 主語が大きい時は、大抵、誰も見ていない。


「うちの街のやり方、って意味です」


 彼は、そこで少し誇らしそうにした。


「よその港でも使われてるんですよ、これ」


(……そうか)


 俺は、紙をもう一度見た。


 欄が二十ある。

 どれも、埋めれば必ず何かが分かるようにできている。


 賢い。

 丁寧だ。

 悪意は一つも無い。


 ただ――


(俺、これ作ってないんだよな)


背中から、火が来る


「感心してる場合か」


 声がした。


 振り向くまでもない。フレイだ。

 朝の見回りの帰りらしく、外套に埃がついている。


「見てたのか」


「見てた」


「趣味が悪い」


「暇じゃない」


 彼女は、俺の手から紙を取って、一瞥した。


 それだけで、大体を理解した顔になる。戦場の人間は、書類を読むのが速い。


「あんたの名前で」


 紙を返しながら、フレイは短く言った。


「あんたの知らない決まりが、動いてる」


 その言い方が正しすぎた。


「……名前じゃない。街の名前だ」


「同じだよ」


 彼女は、港の向こうを顎で示した。


「外から見たら、区別なんかつかない」


刷り文字


 俺は、紙をもう一度めくった。


 裏の隅。

 本当に小さく、印刷されている一行があった。


  手引き 第三版 準拠


(……手引き)


 三版。

 ということは、一版と二版がある。


 誰かが書いて、誰かが直して、誰かが刷った。

 三回ぶんの手間が、この一行の裏側にある。


「フレイ」


「なんだ」


「手引きって、何」


 彼女は、一瞬だけ真顔になって、それから息を吐いた。


「私に聞くな」


「じゃあ誰に」


「ノクスだろ」


 港の列は、まだ動いている。

 誰も困っていない。むしろ、いつもより静かに回っている。


 困っているのは、この街で俺だけらしかった。

第二部です。あの街は順調に大きくなりました。

順調に大きくなると、順調でないものが混ざります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ