第四十八話 聴取
翌日ダンジョン管理協会から連絡があった。
本部への呼び出しだ。
具体的な聴取内容は不明。メールには書けないのかな。
予想通りというか当然の流れだろう。誰かが予告無しに、勝手に桜堤ダンジョンを攻略したのだ。ダンジョンの機能停止と縮退のタイミングを考えれば、その時点で深層にいた探索者は限られる。魔石をそれなりの量持ち込んだ俺たちが、当該探索者とされるのは必然だ。
そこで雨宮からメッセージ。
〈呼び出し食らいました〉
〈こっちもだ〉
互いの内容を確認。
〈明後日。時間も同じですね〉
〈チームとして扱われてるな なるほど〉
〈これヤバいですかね〉
〈いや むしろ朗報じゃね ダメなら一緒には呼ばない〉
〈べつべつに呼んで、矛盾を突かれたり〉
〈そうそう〉
〈急ですよね。予定も聞かずに強制ですか〉
〈待たせておいて 急かすのは 社会の常だよ〉
〈損害賠償きますかね〉
〈それは ししシンパイないさ なないさ ななないさ〉
〈こわいから、バグるのヤメテー〉
俺たちは何ら違反行為はしていない。予告無しの攻略も緊急時なら仕方のないことだ。桜堤ダンジョンは消滅推奨ダンジョンであり、表向きは攻略に問題はない。ダンジョンを攻略した場合、十日以内に報告する決まりだが、まだ期限内だ。そして表向きの報告書は既に作成済みだ。
〈はななちゃんは〉
〈呼ばれてない 探索者じゃないし 児童だし〉
〈ジュヌヴィエーヴさんは〉
〈JECAは 猫から話をきいたり しない〉
〈行ったら待ってたりとか〉
〈想像した コワい〉
当日。俺と雨宮は都内のJECA本部ビルにいた。探索者登録で何度か来たきりだ。エントランスロビーと受付があるだけで、探索者ギルドらしさは欠片もなく、ファンタジー臭を排除した大企業然とした雰囲気だ。
名前と用件を告げると、待たされることなく小会議室に案内される。まあそこで待たされるんだけどね。
賓客用なのか妙に美味いお茶を味わっていると、壮年の男と若い女が現れた。立ち上がって会釈を交わす。男はダンジョン管理部の部長を名乗り、女は補佐だそうだ。強面を集めて圧力を掛ける形じゃないようで助かった。
「桜堤ダンジョンの攻略おめでとうございます」
「ありがとうございます。思いがけないことでしたが、無事に戻れたのは幸運でした」
「思いがけないこと、ですか」
「はい。まさか攻略していたとは、自分たちでも驚きです」
俺は雨宮と顔を見合わせ頷く。
そしてプリントした報告書を手渡し、桜堤ダンジョン攻略の一部始終を事実を交えながら話した。あらかじめ考えていた筋書き通りに。
まず、俺たちに攻略の意図は無かったこと。
慎重に深層を進んだものの、第二十層でダンジョン震による階層崩落に巻き込まれ、三十一層まで落ちたこと。それがトラップの一種と思われること。さらに下の階層があり、そこに何故か一匹の白猫がいたこと。猫を連れて何とか地上に戻ったこと。地上で猫とはぐれたが、後には謎のオーブらしきものが残っていたこと。マスコミ報道で初めて桜堤ダンジョンが踏破されたのを知ったこと、などだ。
俺と雨宮が複数の強力なスキルを持っていることも明かした。そうしないと深層まで行けるはずがないからだ。雨宮の〈地図〉は既に知られているので、短期間で効率的な探索ができた裏付けにもなる。
踏破に同行したはななのスキルについては全て秘匿。
俺のスキルは一部を開示。オーブスキルのみとした。コアスキル満載だとダンジョン踏破の常習犯とバレる。
雨宮のスキルについてはそのまま伝える。
いずれにせよ最深部での出来事は、俺たち以外は知りようもないので、反証も存在しない。
ラスボス感のあった三十一層の青銅巨人タロスの存在は割愛。最下層と思われる三十二層にいた謎の猫がダンジョンコアだったらしいというオチ。俺たちが怪しい猫を伴って戻ったことはゲートの映像に残っているはずなのだ。
ジュなんとかさんにダンジョンマスターになってもらおう。
まさか猫の捜索が始まったりはしないと思う。
休憩を挟んで二時間ほどの質疑応答があった。
俺たちの落ち度を探すというより、体裁を整える為の確認作業のようだった。
そしてなんと勧誘を受けた。
所謂特務探索者チームへの参加要請だ。おお、トップ探索者の一員になれるよ。自衛隊チームに協力したりもするんだろう。今回の攻略を実績として認めてくれたようだ。もちろん俺個人としてで、はななは含まれない。児童をダンジョン探索者として働かせる訳にはいかないからな。
これには家族と相談して前向きに検討すると伝えておいた。まあ参加することにはならないはずだ。これからその前提自体をひっくり返す予定だしな。そうすれば桜堤ダンジョンの攻略など些事になる。
最後に、桜堤ダンジョンで得た残りのスキルオーブとドロップアイテムを見てもらい、買取をお願いした。
このJECA本部周辺にはダンジョンはないものの、アイテムを査定してくれる部署はある。小さなリュックに詰め替えたアイテムをすべて提出する。タロス関連のアイテムは含まれないが。
深層の物、初出の物がほとんどだから、処理に時間が掛かるだろう。査定額は明日にでも連絡してもらえる。
本部を出るともういい時間だった。
午後のラッシュ前に地下鉄と私鉄を乗り継ぐ。
「しかし、申し訳ない気もするよ」
「アイテムですか」
隣に座る雨宮も分かってるのか。
「ダンジョンがすべて消滅したらガラクタになるだろう。こっちは不良在庫を一掃できてよかったけどさ」
スキルは原則ダンジョン内でしか使えない。超常の力を揮う場所がなくなってしまうのだ。
「どうでしょうか。二度と手に入らないなら、むしろ価値が出るかもしれませんよ」
「夢の跡か。コレクターズアイテムとしてか」
「そうですよ。それに研究素材としても在庫限りになりますから」
「それどころか全部消滅しそうだけど」
「えー。あ。あり得なくも、ないですかね」
手持ちのアイテムがあるなら今のうち売ったほうがいいぞ。
「まあそれも俺たちが上手くやればの話だが」
「きっと上手くいきますって」
笑顔の雨宮。けれど今度の探索は勝手が違うだろう。
「前向きなところは羨ましいよ」
わが家の最寄り駅から愛車の軽に乗り、はななを拾って食事に行く。
なぜか二人の希望で焼き肉店に。
元気なお腹も羨ましい。




