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第三十話 仲間じゃない


 俺はJECAで買った地図を雨宮に見せる。


「これを?」

『はい。この第十六層はおよそ五か月前のマッピングですね。細部にはかなり変化が出ています。階層自体も拡大していますから、少し心許ないかもです』

「深層だから測量も進んでいないのか」

『どうもJECAも陸自も、あまり探索に熱心ではないようです。未知の階層へ手を広げるより、既知部分の安全と利得を確実にしたいようです』

「雨宮がいるチームも?」

『陸自とは協力関係ですから、意向は無視できないんですよ。正しくはJECAが陸自に協力するためのチームが〈S級冒険者たち〉なんです』


〈S級冒険者たち〉は雨宮が現在所属している民間の探索者チームだ。


「つまり、雨宮は早くダンジョンコアに至りたいのに、自衛隊もチームも積極的ではない。JECAの姿勢も同じだと」

『そんな感じです』


 現状に満足して余計なリスクは取らないのか。


『私としては当てが外れた形ですけど、まあ仕方ないところもあります。この先、第十七層でそれなりの損害が出てますから』

「殉職者?」

『幸い亡くなった方はいませんが、持ち込んだ大きな台座に載せた機関銃や、携帯式の対戦車ミサイルみたいのでも倒せない魔物がいたんです。攻撃スキルも効果が今一つでした。オーブスキルでは厳しいみたいです』

「それって、もう怪獣だろ」

『ホントにそんな感じでしたよ』

「まさか、ドラゴン?」

『いえ、ぜんぜん違いましたけど』


 雨宮が笑ったようだ。教えてくれないのかよ。


『いろいろ意見はあったみたいですけど、現状ではこれ以上無理しても自衛隊の活動として理解が得られない、見合わないということになったようです』


 民間人の救助でもないのに勝手に頑張って死ねないよな。自衛隊は探索者団体ではないのだ。


『今は異変時緊急時の部隊の運用や階層ごとの展開手順の確認、補給路確保のための調査、効率的な魔物の対処法の確立なんかをやってるみたいです』

「なるほどな。何かあった時のマニュアルを作ってるのか」

『ふふ。ですから部隊行動中に私がすすス(すけすけスネーク)に吞まれた時は、協力者とはいえ民間人に犠牲者がと、大慌てだったそうです』


 捜索してもらえたんだから笑っちゃダメだろ。感謝しないと。


『今回もお二人を追いかけるのは容易でした。テントウムシくんも目印になりましたし』

「ちまちま貼り付けた甲斐があった、のか」

『まあこうして〈隠身ハイド〉スキルを使わないと体力が持ちませんが』


 隠密性だけじゃなく移動速度も上がるらしい。スタミナも多分向上する。


『未知の層を目指さなければ私の出番も少ないですから。マップ系のオーブスキル持ちなら他にもいますしね。チームでの私の役目も一段落なので、まだ静養中でいられるわけです』

「チームとは上手くいってんの?」


 以前見掛けた、チームメンバーと無表情に会話する雨宮の姿が浮かぶ。


『正直微妙ですね。親身にしていただいて感謝はしてるんですが、リーダーさんがとても贔屓してくれて、かえって困るというか』

「それは、まあ、お疲れとしか。逃げ場もなさそうだ」

『はぁ。マジでそんな感じなんですよ。どうしましょう? 契約期間もまだ残ってるんです。このスピアもチームからの貸与ですし』

「知らんわ」


 何となく剣のような形の槍、電気槍エレスピア。ちょっとカッコいいのだ。実体は強力スタンガンだけど、所持使用についてはどういう扱いなんだろうか。


「雨宮は攻撃スキルはないのか? 槍だけじゃキツいだろ」

『〈毒刺ポイズンポイント〉というヘビフヨウのオーブスキルだけですね。相手に毒針を飛ばすんですけど、本物の毒じゃなくその状態を再現するだけです。幻覚性があるみたいで、倒せなかったとしても私のことを見失います。強い魔物だったら刺して混乱しているうちに、さっさと逃げるしかありません』


 強めの魔物だと仕留め切れないのか。


「それでここまで来るとは無茶するな」

『お二人がいらっしゃるからですよ。追跡中もほとんど魔物を見ませんでした。お二人の後ろはウソみたいに安全地帯なんです』


 絶対迷子にならずに俺たちの経路を辿れることが前提だよな。〈地図〉スキル凄いな。


『とにかく、明日からのナビはお任せください。けっして後悔はさせません』

「それは確定なのかよ」

『道に迷って時間を無駄にできませんよ。補給もないんですから。ほら、お試しと思って』

「はあ、分かったよ。寝る前にグダグダ考えたくないしな」


 俺は右手を差し出す。雨宮も見えない右手を伸ばす。


「裏切りを前提に、友達からよろしく」

『ひどい。末永くよろしくです』


 握手する。

 黙って聞いていたはななも握手する。俺ともする。

 止めてくれ。三人で誓いを立てたみたいになってるよ。ここには信頼なんて欠片もないからな。


 渡した水で雨宮が口を濯ぎ、噛むだけで歯磨き効果のあるというポリマースポンジを含む。顔と手が見えないので何をやってるのか分かりにくい。

 支度が済んだのか寝袋に潜り込む。


『じゃ〈隠身ハイド〉切りますので。襲うなら三十分以内でお願いします。イタズラし放題のサービスタイムですよ』

「娘の前で言うんじゃねー。さっさと寝ろ」

「ねろー」

『うわー、明日が楽しみ。わくわくして眠れないよー。すぴー』


 いきなり顔が現れた。

 瞼を閉じた雨宮董子の奇麗な寝顔が。


「ねちゃったね」

「これほど寝付きのいい女は初めてだ。スキル後硬直だから意識はあるのかもだけど」

「ねえ、おとうさんはおねえちゃんがキライ?」

「そんなことないさ。気持ちは分かるしな」


 でも分かるだけだ。知りたくはない。

 そして、俺たちが敢えて秘めている熱を、こいつは漏らしまくる。それがちょっと鬱陶しいのだ。


「もう寝よう。また明日ね」

「うん。おやすみなさい」

「おやすみ、はなな」


 コアスキル〈包殻シェル〉で生成された直径四メートルの球状結界。これが魔物の侵入を防いでくれる。その効果は絶大で、寝ずの番をする必要もないのだ。

 まあ、目覚めたら結界越しに大量の魔物に囲まれてるかも知れないが。

 夢に見そうだから想像するのは止めよう。


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