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第二十五話 復讐者たち


『老けて見えるかもしれませんが、私は十九歳です。まだアラハタなんです』

「無理に十歳区切りで丸めるなよ。若く聞こえないよ。まだトラウマ(おばちゃん呼ばわり)に引っ張られてるのか」


 落ち着いて見えるのは悪いことじゃないのに。中身はそれほど落ち着いてないみたいだが。


「わたしはアラテン?」

「ぎりぎりな」

「えー」

「年齢なんて気にしない。どうせ三十過ぎれば只の人だ」

『ほんとうにタダになったら楽ですよね』

「タダなの?」

「無料って意味じゃないよ、はなな」


 むしろお金が出て行く一方になるんだよ。貯まったと思ったらごっそり持って行かれる。追い付かれないように必死なんだよ。


 俺の〈操重グラヴ〉で動けなくなった魔物が、はななの〈発振オシレーション〉で凍り付き、そして崩れ去る。少ないながら魔物がぽつぽつ復活している。

 雨宮の表情は見えないが、戦いを真剣に見ているのが分かる。こいつの計画にとっては重要ポイントだろうしな。


「で、俺たちに付きまとう本当の理由は何だ。ちゃんと目的があるんだろ」

『チームに入れて欲しいのは本当です。一緒にこのダンジョンに潜りたいと』

「それでどうするんだ」

『私自身の目的は、この桜堤ダンジョンの踏破消滅です。私の、この手での……ダンジョンへの復讐こそが、目的です』


 俺の真後ろの雨宮。平坦だった声に感情が乗る。

 けれど俺のほうは逆に気持ちが凪いでいく。


「……復讐か」

『それは園先そのさきさんも同じじゃないですか? 奥さんを、奥様を亡くされてますよね』

「まあな」


 雨宮という名前には覚えがあったのだ。

 名乗られてすぐに気付いた。

 地上にある慰霊碑に刻まれた名前に、雨宮(なにがし)とあったはず。しかも二つの名前が並んでいた。三年前の桜堤ダンジョン発生時の犠牲者だ。雨宮董子はその遺族なのだ。

 こいつもダンジョンが憎いのだ。家族を奪ったダンジョンが。


 雨宮董子が強い仲間を求めるのは理解できる。この桜堤ダンジョンを消滅させるということは、最下層のダンジョンコアまで到達するということだ。それを成すには生半可な力では到底無理だ。強力な異能スキルを駆使し、揺るがない攻略意思を持つ探索者が必要なのだ。

 確かに雨宮の求めるものは俺たちと同じだろう。


 けれど俺は、目的を同じくする仲間たちと力を合わせての敵討ち、というのは御免だ。

 恨みというのは極めて個人的なものだ。

 理不尽な目に遭っても、その受け取り方は人により差異がある。俺たちが感じた痛みは俺たちだけのものだ。自分の痛みは自分で何とかするつもりだ。

 俺とはななだけで成し遂げてこその敵討ちであり、そこでようやく気持ちに区切りを付けられるのだ。復讐は鋭い針で突き刺すようなもの。共有したり一般化することで鈍らせてはならない。復讐なんて虚しいというのは、鋭さを保てなかった者の戯言(言い訳)なのだ。


「雨宮の目的はよく理解したよ。アプローチも衝撃的だった」

『仲間にしていただく。仲良し親子の関係に割って入る。これくらいしないとスルーされて終わりでしょうから』

「いや、親子に割って入るな。一歩引けよ」


 俺とはななが復讐心を表に出すことはない。

 大切に仕舞っている。無闇に心の蓋を開け、弄び、反芻し、挙句に怒りを逃がしてしまわないように。勝手な思いを付け足して別物にしてしまわないように。あの日の悔しさをそのまま叩き付けるために。

 復讐達成の後に来るのが歓喜でも悲しみでも虚しさでも、それは全て俺とはななのものだ。誰にも分けてやる気はない。分かち合ったりはしない。野次馬は要らないし、他人に評価してもらいたくなんかない。

 つまり雨宮は、協力者ではなく競合者ということになる。


「済まないが、それについてはここでキッパリと断らせてもらう。雨宮に協力はできないし、俺たちの邪魔も許さない」

『……そんな』

「雨宮がまた魔物の腹から出てきたら、助けるくらいはしよう」

『もう吞まれない……といいですが』


 休憩を挟みつつ浅層に上がる。もう夕方のはずだが、これから下層に向かう探索者もいる。ダンジョンは年中無休だ。

 すれ違う探索者に軽く手を挙げて挨拶。顔が透明人間の雨宮だがナイトグラスとマスクのお陰でバレずに済んでいる。


「ゲートを出るぞ。雨宮の身柄はJECAの医務室に預けるから」

『助かります。ありがとうございます。……ふっ』


 ダンジョン領域を出たとたん、背負った雨宮の体から力が抜ける。透明化が解け、柔らかな感触が背中で潰れる。雨宮渾身の色仕掛けか。スキル使用後の硬直といっても、コチコチの石像のようになるのではなく、筋弛緩に近い感じだ。

 同時に手に下げたバックパックの重さも戻る。うぐっ、魔石重っ。


「おとうさん、がんばる」


 うん。お父さん頑張る。


 スキルによる硬直であることを医務室のスタッフに告げ、雨宮と俺のライセンスを提示する。簡易ベッドに寝かせ、装備類をベッドの下に置く。三十分もすれば動けるようになるそうだ。ここは探索者だけでなく観光客も利用する施設になっている。

 立ち去る俺たちを意外そうな顔で見る女性スタッフ。仲間チームじゃないんですよ。通りすがりの探索者親子なだけです。雨宮の荷物に魔石を幾つか入れておいた。同行者のよしみで。けっして重いから押し付けたのではない。


「これが〈危険察知えんかうんた〉。あぶない魔物もんすたーにきづける。硬直こーちょくなし。こっちが〈注目うぉっち〉。自分にすべての目を向けさせる。硬直あり、やく五秒ごびょー

「どっちも十層のゴブリンが落としたのか。〈危険察知〉は〈探知サーチ〉で代用できるんじゃないか。魔物のだいたいの強さは分かるし」

「よわくてもあぶない魔物もいるって」

「自分にとって危険かどうかか。そんな判断までできるなら役に立つね」


 魔石を全て売り、今はJECAの買取フロアの片隅でドロップアイテムの仕分け中。俺たちが持つコアスキルとの兼ね合いもあって、雨宮が一緒だとできなかったのだ。


「こっちが〈爆弾でとねーた〉。なげると爆発どっかんする。つかいきり」

「まんまだね。これはオーブじゃなくマジックアイテムか」


 見た目はやや細長い水色の結晶だ。とても危険物には見えない。飾りたくなるヤツもいるんじゃないかな。


「たららー。これが本日のめだま。その名も〈目玉あいぼーる〉」

「なにそれ」


 本当に眼球サイズの球体だ。赤紫色のガラス玉みたい。これはマンバット(人間コウモリ)がドロップしたマジックアイテムらしい。


「投げたばしょの景色が見える。こわれなければくりかえし使える」

「直接行けないところが映像で見れるのか。通れない隙間の先とか。遠隔で視覚を飛ばすみたいな。でも目玉が回収できないんじゃないか」

「ふふん。ひもをつければだいじょうぶっ」

「おお、はなな頭いい」


 シンプルプランでドヤる娘が可愛い。

 他にゴブリンが落とした感覚共有のスキルオーブ〈共感コール〉、ヘルハウンドの臭覚強化〈臭跡スニフ〉、赤蔦魔物の放射刺突〈刺撃ニードル〉がある。流砂を作り出す蟻地獄の〈流砂ストリーム〉も珍しいスキルのはず。


 改めてドロップアイテムの買取カウンターへ。

 スキルオーブ〈刺撃〉と〈流砂〉はその場で値が付かなかった。初出だったらしい。後で金額を報せてくれるそうだけど、示された暫定価格もかなりの額だった。

 スキルオーブ〈危険察知エンカウンタ〉とマジックアイテム〈目玉アイボール〉は手元に残す。それ以外のアイテムはよく知られているようで問題なく買い取ってもらえた。


「今日はおしまいだよ。帰りにどこかで夕ご飯食べよう」

「やったー」


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