第二十一話 砂の魔物
次の第十三層は、またも様変わりした場所だった。
「さばく?」
「砂地だね。岩場もあるし。砂が積もってるだけなのかな」
第十三層は砂に埋もれた階層か。それほど深そうに見えないけれど、こうした場所では砂中から襲われるのがお約束だ。岩のドームの天井が残念。星空とか似合いそうなのに。
「下にも注意だよ」
「かべも光ってるよ」
差し渡し数キロメートルの大空洞らしい。とにかく広い。
そびえる岩塊で先が見通せない場所もあるけれど、壁面や天井が弱い光を放ち、完全な闇はなくなっている。
俺たち以外の探索者の気配はなく、それらしい明かりも見えない。けれど〈気配遮断〉などの気配を消すスキルがある以上、誰かいてもおかしくはない。十四層への階段はちょうど反対側。でもきっと真ん中を突っ切ったら何か出るよな。
時計で現在時刻を確認。もうちょっと進む余裕はありそうだ。
「右の壁に沿って進むよ。遠回りになるけど頑張ろう」
「はーい」
今日は次の第十四層を覗いて終了だな。いいペースで進んで来たけれどこれが日帰りの限界だろう。
普通の探索者ならとても半日ではここまで来れない。戦闘時間の短さと各種スキルによるスタミナ強化の結果だ。
「おとうさん、何かいる」
突然気配が膨れ上がる。砂の下だ。魔物が複数。
ざしゅっざしゅっと砂が噴き上がり、先端に鉤爪のある多節の柱が立ち上がる。七本もだ。俺の背丈より高い。七匹もいるようだ。鉤爪から粘液が滴っている。ヤバイ感じ。
壁際で半円に包囲されてしまった。やっぱり待ち伏せされていたんだな。
「これは尻尾だね。確か砂サソリだったかな。あの爪は毒があるよ。でもそれに気を取られると、砂中からハサミでバッサリくるかも」
「こわいー」
「そっか、〈気配遮断〉使うの忘れてたね。うっかりしてた」
「だいピーンチ」
緊迫感のない声ではなな。なぜか上機嫌だ。
「〈遅延〉っと」
「〈隔絶〉って」
流れるような父娘連携でスキルを発動。
動きを止めた七本のデカい尻尾が全て切断される。
「〈光芒〉な」
濁った体液を吹き出す切り口に、強烈なレーザービームが真上から突き刺さる。
途端に気配が消失。転がっていた尻尾も光の粒子になる。
「……あれ?」
「魔石でないよ」
「そっか。誘い出して倒さないとダメだったか」
「そんなぁ」
おそらく魔石は砂の中だ。俺が止めを刺したからドロップアイテムはないだろうけど。次から気を付けよう。
岩陰を辿ってどんどん進む。砂地は慣れないと膝に来るな。
地面ばかりを警戒していては駄目らしく、今度は空中から蜂の群れに襲われる。
「〈浄焔〉」
翅を焼かれた肉食蜂が墜落。消えない炎で体の芯まで炭化していく。
酸欠が怖い〈浄焔〉スキルだが、ここは広い空間なので心配ないだろう。炎系のスキルは見た目は派手だけど、狭い通路や小さな岩室では使うのを躊躇ってしまう。
蜂の魔石は細かくて拾うのが面倒。でも頑張って元は取らないと。
「こんどはなに?」
「分からない。デカいのが潜んでるのは確かだね」
前方の砂地、その下に大きな気配がある。たぶんこれも初めての魔物だ。
「見て、おとうさん。砂が……」
「流れてるね。そいつの仕業か」
大きく渦を巻いて流れていた砂が、一気に沈んでいく。すり鉢状に陥没する。俺たちの足元も沈み始める。
「蟻地獄とか、定番なのかもな。〈遅延〉」
陥没の中心に向けてスキルを使う。
砂の流れは止まらないが、潜んでいる魔物が硬直した気配がある。効果が砂に遮られることもないようだ。
「このままちょっと見ていよう」
「引っぱりださないとね」
蟻地獄がもぞもぞと顔を出す。〈遅延〉のせいで動きが鈍い。大顎と鋭い口吻だけで目はない。半身しか見えないが体形は巨大なパイナップルな感じ。小型乗用車くらいの大きさがある。砂を動かす以外の攻撃はなさそうだ。
「とびちれ、〈絶界〉!」
足場の悪いすり鉢の底へと、はななが猛ダッシュ。蟻地獄の大顎を避け、硬そうな頭にグーパンチ。
ぱかんと乾いた音が響き、蟻地獄の頭がバラバラに吹き飛ぶ。明らかに致命傷で、そのまま消滅する。
「手は平気かい」
「へっちゃらー」
元気に振った手でそのまま地面を指差す。
「ちゃんとオーブでたよー」
「よかったね」
このドロップアイテム出現率は異常だが、俺たちの強化に役立つのだから文句はない。換金しても美味しいしな。
小高い岩場で休憩。
「見た目と違って忙しいな、この階層」
「でも砂の中からってわかってるからラクかも」
「普通なら気が休まらないだろうけどな」
〈探知〉スキル様様だ。目と耳だけで警戒してたら滅茶苦茶消耗するだろう。地雷原みたいだもんな。
はななは水を飲みながらドロップアイテムをチェックしている。
「使えそう?」
「ゴブリンさんのオーブが〈共感〉、ヘルハウンドさんのが〈臭跡〉、赤ツタさんのが〈刺撃〉だよ」
何だかどれも微妙な感じ。
「〈共感〉はなかまに気持ちをつたえる、つたわる。〈臭跡〉がワンちゃんみたいに鼻がよくなる、〈刺撃〉はカラダからトゲが生えるって」
「〈共感〉は感覚共有かな。〈臭跡〉は臭覚強化で。でも〈刺撃〉は怖いな。人間辞めてないか」
「服がやぶれるみたい」
「棘が短いと抱き着き攻撃するしかないな」
欲しがる人がいるだろうか。
感覚強化系は全般に需要があるから売り易いけれど。
「アリジゴクさんのは〈流砂〉だって。砂でうずまきができるよ」
「この階層限定になるかもだけど役立ちそうだね」
砂だらけの階層で砂の操作ができるのはいいかも知れない。攻防共に使えるだろう。精度を上げれば枯山水とか作って遊べそう。
「使いたいのがある?」
「なやむー」
「どれだい」
「〈共感〉。おとうさんとテレパシーできるよ。でも秘密もバレちゃうかな」
ゴブリンみたいな集団性のある魔物らしいスキルだ。チームの意思、意識を揃えるのかな。上手く使えないと混乱するかも。
「はななは秘密があるのかい」
「ないよー」
「なら平気じゃないか」
「えー。これからできるかも。そしたら恥ずかしいもん」
「ははは。まあよく考えてね」
普通の子は父親と以心伝心になりたいなんて思わないだろう。悩むだけ可愛いものだ。
〈共感〉のスキルオーブに触れてみる。行動意志の相互確認のためのスキルらしい。隠し事まで伝わることはなさそうだ。思考を全て共有したら個が保てないだろう。
はななは俺に伝えたいことがあるのかな。口では言えないことが。ならスキルを使わなくても気づいてあげないと。正直自信はないが。
コミュニケーションツールは有用だけど、使い方が難しいのはスキルでも同じかもね。




