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第十九話 マチソワ


 日曜日の早朝。再び桜堤ダンジョンに挑戦する。

 準備万端で玄関を出ると、目の前にぽっかりと暗い穴が開いていた。ここは軒下に設置したダンジョン監視カメラの死角になる。


「あぶなっ! 落とし穴かよ」

「どうせ入るなら、おちちゃってよくない?」


 はななが冷静だ。その通りだな。


「ではこれより、えーと、第二十五回庭先ダンジョン緊急探索を……以下略」

「さんかメンバーは……いかりゃく」

「突入!」

「おー!」


 そして十分で攻略完了。今回は魔物なし。ダンジョンコアの制圧のみだった。新しいスキルもしっかり手に入れた。


「朝めしまえだね」

「もう食べたけどな。さて想定外とも言えないささやかなトラブルがありましたが、めげずに出発します。戸締り確認しましょう」


 愛車の軽に乗り込み、まだ塞がり切らないダンジョンの入り口をチラ見しつつ、わが家を出発。

 安全運転で小一時間。自然公園内桜堤ダンジョン横の駐車場に入る。


「ダンジョンデラックスは?」

「今日は普通の弁当で、その代わりデザートを付けよう」

「おほほーい」


 しかし結局、はななの熱い視線に負けて洒落たランチボックスセットを買ってしまった。ぐぬぬ。次こそは庶民弁当を。

 先週のダンジョンクェイクはそれほど深刻に受け止められていないようで、ダンジョン入り口周辺は相変わらずの賑わいだ。


 ゲートを通り、エンジョイ層はまるっとスルー、脇目も振らずに下へ下へと〈奈落〉を目指す。魔物のドロップアイテムも小さな魔石などは放置。宝珠オーブやマジックアイテムはしっかり拾う。

 そして前回ダンジョン震が起き、すけすけスネーク(仮)に遭遇した第十一層に到達した。

 見たところ特に変った様子はない。


「さすがに同じことは起きないか」

「おとうさん、つかれたよー」

「ごめん。急ぎ過ぎたね」


 小部屋を見つけて休憩する。喉を潤してからランチにしよう。


「オマケ入ってる。ほら」

「フィギュアか。てか、ゴブリン?」


 紙のランチボックスを開けたはなな。ガチャサイズの透明カプセルにストラップ付きフィギュアが入っている。派手に着色されたモンスターが。

 俺のを開けると濡れウサギだった。心底いらない。全然欲しくない。できれば食えるモノを入れて欲しい。ダンジョン装備のスペースは貴重なのだから。

 このランチボックスは観光客向けなのだろう。ガチ弁じゃないのね。売店がピンクとエメラルドグリーンのストライプ柄のキッチンカーな時点で気付けよってことか。

 なぜかノリノリのはななが、ウサギを自分のウクレレケースに、ゴブリンを俺のバールに結んでぶら下げる。ゴブリンが俺かい。


「ほらー、おそろだよー」


 何一つ揃ってねえよ。それに俺のバールに付けたら無事では済まない。あっという間に消し飛ぶだろう。まさかこれを無くさずに戦えという縛りプレイ?

 トレンド系ハーブまみれな味のベーグルサンドを堪能し、まあアボカドソースも一度は食べておくべきかもなと無理矢理納得しつつ、いよいよ第十二層、俺とはななにとっては初めての階層へ足を踏み入れた。


「へえ。これは……」

「ひろいねー」


 目の前に広がる第十二層。

 一繋がりの広大な岩窟に見える。荒々しい造形で、ちょうどマ〇ンクラフト的な四角い岩で組み上げたようだった。巨大な石切り場みたいな感じがする。普通の視力では照明が必要だが、〈明視サイト〉のある俺たちには遠目の利く場所だ。


「にしても、遠くまで見え過ぎないか?」

「目がよくなったの?」

「ここが広いから違いに気付けたのかも知れないね。スキルの効果が高まってるみたいだ」


 浅い階層に比べれば、所謂魔素が濃いのだろう。スキルが強化されるのは朗報だけど魔物も強くなっていそうだ。スキル無しの探索者はますます不利になる。

 頻繁に地図を確認しながら慎重に進む。


「狭い通路はあんまりないけど、同じような地形だから迷いそうだね。えーと、こっちみたいだ」


 この層でも目立つ場所や要所の壁面に、階層と区画の番号がペイントされている。住所表示のように。これは実に助かる。俺たちにマッピング能力はないのだ。最短距離で下層を目指したいところだが、迷うと怖いので判別しやすい確実な経路を進む。


「おとうさん……」

「うん。なんだろ。初めての魔物かな。力が強そうだ」


 姿はまだ見えないが岩塊の向こうに二体の魔物がいる。待ち伏せしているのか、休んでいるのか、そこを動かない。


「この層だと、たぶんオーク(ピッグノーズ)だね。むしろドワーフが出そうな場所なのに」


 ドワーフの存在は確認されていない。もちろんエルフも。ダンジョンの魔物じゃないしな。


「わたしやる?」

「いや、父さんが。新しいスキルも試さないと」


 新スキルを試すことを口実に俺が前に出る。

 何故ならオークだからだ。

 オークは娘に戦わせたくない魔物ナンバーワンなのだ。娘の姿を見せるのもお断りだ。ダンジョンのオークがファンタジーあるあるの生態なのかは知られていないが、それを試す気もない。ゴブリンの時はそんなことを考える前に、はななが殲滅してしまったが。


「〈操重グラヴ〉」


 顔だけ出して素早く魔物の姿を確認。スキルを発動する。

 魔物と思ったら超マッチョな探索者だったでは笑えない。魔物と人間の気配を間違えるとは思えないけれど。

 ぶぎぃという悲鳴、メキメキとした鈍い音。見なくても耳で状況が分かる。情けなど無用だ。


 今朝庭先ダンジョンで得たコアスキル〈操重グラヴ〉は重さを操作するスキルだった。オークの体重を三十倍超にしてみたところ自重で潰れたようだ。実に凶悪なスキル。射程距離はまだ不明。あまり離れてると無理かも。発動までの時間は意外と短かった。これなら戦闘に使える。


「オークだったの?」

「うん。もう安心だよ」

「見たかった」

「見なくてよろしい」

「おとうさんがイジワルだよ」

「いつか父親になれば分かる」

「ならないよー」


 魔石二つを発見。デカい石の棍棒も落ちている。魔石はゴブリンの二倍ほどの大きさ。魔石のみ手早く回収。


「はなな、触っちゃダメ!」


 棍棒を拾おうとするはななを止める。オーク憎けりゃ棍棒も憎い。オークの棍棒、ほら、なんだかエ〇アイテムじゃん。魔石ナッツはセーフ? ふんす。


「お、おとうさんがこわい」


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