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第十七話 あとよろ


 休憩を取りつつ女性を見守る。

 完全に快復しているはずだがまだ目覚めない。精神的なショックのせいかな。

 第十一層より深く潜れるなら、この人はガチの探索者であり、何らかのスキル持ちの可能性が高い。下層の何処かであの魔物に遭遇し一呑みにされたのだろう。それほど時間も経っていないはずだから、チームメンバーが捜索しているかもしれない。

 俺たちが地上まで連れ帰るより、チームの人たちに託すべきだけど、付近にはそれらしき探索者の気配はない。


「この人の仲間が下層にいるかもだけど、こっちまで探しに来てくれるかどうか」

「すけすけスネークに食べられてないかな」

「なにその脱力する名前」

「すけてたし、ヘビみたいだったよ」


 確かにずんぐりした大蛇の姿だったけどな。でも鉱物化した鱗がごつごつしてて、そんな弱そうな名前が似合う感じじゃなかったよ。

 あれが何と呼ばれる魔物なのか俺も知らない。ダンジョンデータは定期的にチェックしているけれど、該当する魔物はなかったと思う。発見者の命名が採用されたりするのかな。もしそんなふざけた名前になったら舐めプしてやられる探索者が続出しそうだ。たぶん第一発見者はこの女性のチームだろう。チームが全滅していないことを祈る。


「あの魔物の魔石は大きかったから、もっと深いところから上って来たんだと思う。ここで止めなかったら他にも食べられちゃう人が出たかもね」

「〈明視さいと〉でも見えなかった。おとうさんの〈遅滞でぃれい〉でおそくなっても見えなかった」


 ドロップアイテムのスキルオーブをはななに渡す。


「何のスキルか見てくれる」


 目を閉じたはななが両腕を伸ばす。緑色に輝くオーブを高く掲げる。そんなポーズは必要ないと何度言えば。


「すけすけスネークスキル〈隠身はいど〉。すごくすけすけになる」

「なるほど。やっぱりスキルオーブはそれを落とす魔物の性質を受け継ぐのか」


 魔物の能力に準じたスキルオーブがドロップされるという。すけすけスネークのオーブは、速度ではなく不可視が反映されたのか。


「デメリットは」

「服はすけない。れんぞく使用できない。スキル併用へーよー不可」

「……そっか」


 外れスキルだね。

 イタズラし放題の夢の透明人間スキルだけど、ダンジョン内で裸になって出来ることは、とくに思い浮かばない。服が透けないということは武器もダメだろう。スキル併用不可が痛い。不可視強襲インビジブルサプライズアタックができないじゃないか。

 けれどロマン溢れるスキルだから意外な高値が付くかもしれない。使う使わないにかかわらず注目は集めそう。


 ふと、どこかで声がした。

 洞窟の奥から木霊すような声。〈御動コントロール〉で耳を澄ます。


「なーに?」

「誰か、来るみたいだ。これは人の声だね」


 この女性の仲間かも知れない。確かめよう。


「はなな、ここで少し待ってて。〈探知サーチ〉は切らないでね」


〈探知〉スキルの範囲外だろう。俺は聴覚強化した状態で通路に戻りさらに耳を澄ませる。


「こっちか」


気配遮断クローク〉を発動してウサギ広間を全速で横切り、第十一層へ続く吹き抜け、通称〈奈落〉を見下ろす。ライトは消したまま、〈明視サイト〉で闇の大穴を覗く。


 探索者らしい一団が壁面の螺旋階段を上っている。総勢十五人ほどか。足元の階段だけでなく壁全体を調べるようにライトを当てている。何かを確かめながら進んでいるようだ。俺のいる最上部にもビームが向いたので、慌てて顔を引っ込める。

 先頭の五人はチーム探索者らしく揃いのユニフォーム姿だ。そして続く連中は自衛隊なのか、装備がOD色で統一されている。武装が制式銃か電気槍かは不明。

 俺はもう一度だけ覗き見る。探索者の中に女性メンバーもいるようだ。助けた女性と同じチームかは分からないが。

 はななのところに急いで戻る。


「こっちに来る人たちがいる。きっと見つけてもらえるよ」


 女性の体に掛けたシャツのポケットを探り、身元のバレるものがないことを確認する。さらに女性のお腹の上、スキルオーブを両手で包むように持たせる。


「オーブおいてっちゃうの?」

「この人にあげよう。酷い目に遭ったんだし」


 俺たちは使わないスキルだしな。魔石はもらうけど。尻の近くに落ちていたオーブなので何となく彼女が産んだ卵のように思ったのは内緒だ。シャツは結構な値段でお気に入りだけど今さら剥がせない。俺の上半身は黒Tシャツ+バックパックに。まあこんな格好の探索者もエンジョイ勢にはいるしな。

 しかしこのお節介を後悔することになるとは、この時は思いもしなかったのだが。


「よし。脱出」


 岩室を出たところではななが俺を引っ張る。


「どした」

「うんち石ちょうだい」

「トイレ?」

「ううん」


 袋ごと受け取ったはななが、岩室の入り口、通路の地面に蛍光色のうんち石を並べて矢印を作る。この奥に何かありますというサインだ。


「ほら、これでオッケー」

「まあいっか。ある意味ドロップアイテムだもんな」


 失礼な父娘だが、どうせ本気で調べれば俺たちの仕業とバレるだろう。これくらいのおふざけは許して欲しい。


 俺たちは曲がり角に身を潜め、件の一団が通路を進み、うんち石を辿って岩室に入るのを見届ける。

 中から驚きの叫びと、名前を呼び掛ける声が聞こえる。彼女の名前らしい。本当にチームメンバーだったようだ。女性探索者が中に入ると、先行した男たちが飛び出してくる。追い出されたか。まあ仕方ないよな。

 はななと頷き合い、静かにその場を離れた。

 後は知らないっと。


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