第7話:十四年目の成就と、解けない熱
セドリックの重ねられる唇から伝わるのは、14年間溜め込まれてきた、狂おしいほどの情念と愛おしさだった。
「……汐里……っ」
低い掠れ声で何度も名を呼ばれるたび、汐里の背中に回された腕にぎゅうっと力が込められる。
逃げ場を無くすように引き寄せられ、大人の男の分厚く硬い胸板に抱きすくめられると、彼の衣服越しからもダイレクトに伝わる灼熱のような体温が、汐里の全身を駆け巡った。
チュ、と密やかな音を立てて唇が離されると、二人の吐息が白く重なり合う。
黄金色の瞳には、夜の静寂の中で怪しく揺らめく、深く濃密な独占欲と情熱が宿っていた。
「……夢ではないのだな……本当に、君が俺の腕の中にいる……」
「セドリック……夢なんかじゃないわ……」
汐里は自ら小さな手を伸ばすと、セドリックの精悍な頬をそっと包み込んだ。
14年前、怪我の手当てをしながら「大丈夫よ」と彼に微笑みかけたあの夜のように。
けれど今度は、ひとりの男として彼をまっすぐに見つめ返す。
「私……あなたの元へ来てよかった。あなたを一人にしてしまった14年分の時間を……これから、全部埋めていきたいの」
「汐里……っ!」
汐里のその言葉が、セドリックの中で張り詰めていた理性の糸を完全に断ち切った。
彼は耐えかねたように汐里の腰を抱き上げると、押し倒すようにベッドの上へ倒し込んだ。
重厚な黒い騎士服が擦れる重厚な音と共に、セドリックの大きな体躯が上からすっぽりと汐里を覆い尽くす。視界一面に広がるのは、胸が苦しくなるほど甘い香木の香りと、一歩も引かない大人の男の色香。
「もう……逃がさない。二度と、誰にも手渡すものか……」
「ん……っ……!」
重なる唇は、先ほどまでの遠慮を拭い去り、深く、濃密に汐里の口腔を奪い去っていく。
熱い舌が絡み合い、甘い音を立てて深められるキスに、汐里の頭の中は真っ白に溶けていった。セドリックの分厚い手が汐里の華奢な腰から背中へとすべり、服越しにそのしなやかなボディラインを愛おしむように撫で上げていく。
分厚い掌のタコ、男らしい腕の筋肉、指先から伝わる激しい熱。
触れられる全ての場所からゾクゾクとした甘い電流が走り、汐里は自分でも驚くほど甘い吐息を漏らしてセドリックの首元へとしがみついた。
「あっ……セドリック……っ」
「汐里……俺の……俺だけの汐里……」
切なく請うような、掠れた求愛の声。
14年間、誰一人として女性を近づけず、ただ自分ひとりの面影だけを抱いて「氷の冷血漢」と恐れられるまでに上り詰めた男。
その男が今、自分の胸の中で、壊れ物を扱うような繊細さと、力強い強引さで全身全霊の愛を注ぎ込んである。
衣服がゆっくりと解かれ、肌と肌が直接触れ合うと、息が止まるほどの熱気が二人の間ではじけた。
セドリックの熱く濡れた唇が、汐里の甘い唇から、赤く染まる頬、繊細な首筋、そして鎖骨へと深く深く痕を残すように降ろされていく。
「んっ……あ……っ」
「痛くはないか……? 苦しければ言え……だが、止めてと言われても……もう止まれる自信がない……」
「止めないで……っ。セドリック……私を……あなたで満たして……」
恥ずかしさを捨てて紡いだ汐里の愛の言葉に、セドリックの黄金色の瞳が狂おしく歓喜に濡れた。
重なり合う二つの体温。
トクトクと波打つ互いの心臓の鼓動が一つに溶け合い、指と指が強く深く絡み合う。
14年という果てしない歳月が生み出した寂しさと飢えを埋め尽くすように、セドリックは幾度も幾度も愛を囁きながら、汐里の全てを甘く、深く、慈しむように奪い去っていった。
夜がどれほど深まろうと、二人の熱い抱擁が途切れることはなかった。
◇
ふんわりとした朝の光が、重厚なカーテンの隙間から部屋へと差し込んでいた。
「ん……」
ゆっくりと瞼を開けた汐里は、身体の奥に残る心地よい痺れと重みに気づき、カッと顔を赤くした。
目の前に広がっていたのは、見事なまでに鍛え上げられたセドリックの胸元。
彼の太く逞しい腕が、汐里の腰をしっかりと抱き寄せ、まるで世界で一番大切な宝物を抱え込むように自分の胸の中へとぴったりと密着させていたのだ。
シーツの中から覗く自らの肌と、彼との密着感。
昨夜、彼と何度も深く結ばれ、甘い声をあげて彼の愛を受け入れた記憶が走馬灯のように蘇り、汐里は照れくささでセドリックの胸元に顔を埋めた。
(私……本当にセドリックと……)
「……目覚めたのか? 可愛らしい毛玉のように丸まって……」
耳元で響いたのは、まだ眠気の残る低く甘いハスキーボイスだった。
セドリックの黄金色の瞳がゆっくりと開かれ、朝光の中で愛おしさに満ちた眼差しで汐里を見つめている。
「セ、セドリック……っ! 起きていたの……!?」
「ああ。君の寝顔があまりに愛おしくて、ずっと見つめていた」
セドリックは目元を極上に緩めると、引き寄せた汐里の額、目尻、そして熟した果実のように赤く腫れた唇へと、深いモーニングキスを降らせた。
「ん…は……っ」
「……愛している、汐里。目覚めた時に君が俺の腕の中にいる……この幸福を、俺は14年間ずっと夢見ていたんだ」
「セドリック……」
「君の肌も、髪も、その甘い声も……全てが俺のものだ。もう二度と、誰にも手渡さない」
セドリックはシーツの中で汐里の体をさらに深く抱き寄せ、自らの熱い体温を染み込ませるように強く抱きしめた。
昨夜の余韻と、朝の密やかな包容。二人の間には、もはや何者も割り込めない絶対的な愛の絆が完成していたのだった。




