魔法語
魔法基礎文法を修めてから、俺が受ける授業は一気に増えた。
魔法語の応用。
魔力制御。
魔術理論。
魔物学。
古代語。
召喚術。
錬金術。
朝から夕方まで学院で授業を受け、その後は図書館へ向かう。
宿へ帰ってからも、その日に習った魔法語を復習する。
狩人として黒霧の森へ通っていた頃とは、まるで違う生活だった。
魔物と戦うより、本を読む方が疲れる日すらある。
「今日は何の授業でしたかな」
宿の机の向かい側で、アークが尋ねた。
前足で分厚い教本を押さえ、器用に頁を捲っている。
教本には、魔法語による術式の組み立て方が書かれていた。
「魔法語の応用。術式を短くする方法だよ」
『短くできるんですか』
「意味を省略するんじゃなくて、複数の命令を一つの語へまとめるみたい」
『便利ですな』
「ただし、間違えると何が起きるか分からない」
『不便ですな』
「どっちなの?」
『便利やけど危ない。それだけです』
アークは頁の端へ鼻先を入れ、次の頁を開いた。
俺が学院へ通うようになってから、アークも一緒に文字を学んでいた。
最初は宿へ持ち帰った教本を、俺が声に出して読んで聞かせていた。
だが、いつの間にかアークはギリヤ語を自分で読めるようになっていた。
今では簡単な魔法語も理解している。
書くことはできない。
犬の前足では、羽根筆を持てないからだ。
だが、本を読み、術式の意味を理解することはできる。
時には、俺が見落とした記述を先に見つけることすらあった。
『主。この術式、昨日教わったものと違いますで』
「どこが?」
『ここです』
アークが前足で頁を押さえる。
そこには、風を生み出すための基礎術式が書かれていた。
俺は椅子を寄せて覗き込む。
「風の方向を指定する語が違うね」
『昨日の授業では、術者から前方へ吹かせる命令でしたな』
「こっちは対象を指定して、その周囲に風を発生させる術式だ」
『離れた場所に風を出せるんですか』
「たぶんね」
『それなら、魔物の首の横に直接風を出せますな』
「最初から物騒な使い方を考えないでよ」
『魔術は魔物を倒すために習っとるんやないんですか』
「ほかにも使い道はあるよ」
『例えば?』
「洗濯物を乾かすとか」
『ずいぶん高い授業料を払って覚えることが、それですか』
「戦闘以外にも使えるって話」
『肉を冷ますこともできますな』
「結局そこなんだ」
俺は教本を自分の方へ引き寄せた。
翌日の応用魔法語の授業では、実技試験が行われる。
決められた術式を完成させ、標的へ魔術を命中させる。
使うのは風の魔術。
標的を壊す必要はない。
木製の円盤へ風を当て、後ろに立てられた棒から落とせば合格だった。
術式自体は難しくない。
問題は、制限時間である。
魔法語を書き始めてから、十秒以内に発動させなければならない。
俺は魔法語を正確に書くことはできる。
だが、速度はまだ遅かった。
一文字ずつ形を確認しながら書く癖が抜けていない。
『主は考えすぎですな』
アークが言った。
「間違えたら発動しないからね」
『合っとるか確認してから次を書くから、遅いんです』
「間違った文字を書いたら、もっと時間がかかるでしょ」
『最初から間違えんかったらええんです』
「簡単に言うね」
『頭の中で全部書いてから、まとめて出したらどうです』
俺は手を止めた。
「まとめて?」
『一文字ずつ考えとるから遅いんです。最初に完成した術式を思い浮かべて、あとはその通りに書く』
「それができれば苦労しないよ」
『わてはできますで』
「アークは書けないでしょ」
『頭の中では書けます』
少し腹が立った。
だが、試してみる価値はある。
俺は机の上へ紙を置き、目を閉じた。
風を集める。
方向を定める。
強さを指定する。
対象へ放つ。
必要な魔法語を一つずつ思い浮かべるのではなく、完成した術式全体を頭の中へ描く。
円。
円の内側へ並ぶ文字。
文字を繋ぐ線。
魔力が流れる順番。
発動したあとに生まれる風。
すべてを一枚の図として思い浮かべる。
目を開ける。
羽根筆を取った。
最初の円を書く。
続けて魔法語。
一文字。
二文字。
三文字。
これまでは、一文字書くたびに形を確認していた。
今回は確認しない。
頭の中にある完成形を、そのまま紙へ写していく。
最後の線を繋ぐ。
「できた」
『遅いですな』
「今までよりは早いよ」
『もう一回です』
「厳しいね」
『明日の試験に落ちたら、授業料が無駄になりますで』
「落ちても授業料は返ってこないよ」
『なお悪いですな』
俺は何度も同じ術式を書いた。
最初は十二秒。
次は十一秒。
十秒。
九秒。
形を崩さず、八秒で書けるようになった頃には、外はすっかり暗くなっていた。
指が痛い。
肩も凝っている。
目の奥まで重かった。
アークは途中から床へ伏せ、眠そうに瞬きをしていた。
「手伝うって言ったのに、寝てるじゃない」
『見とりますで』
「目が閉じてたよ」
『心の目で見とりました』
「便利な目だね」
『主。最後の術式は、三つ目の文字が少し曲がっとります』
紙を見る。
確かに僅かに形が崩れていた。
「本当に見てたんだ」
『当然です』
アークは大きな欠伸をした。
『明日は大丈夫でしょう』
「そうだといいけど」
『落ちたら、また練習すればええだけです』
「さっきは授業料が無駄になるって言ってたよね」
『主が落ち込まんように言っとるんです』
「どっちが本音?」
『肉を買ってくれたら教えます』
翌日。
応用魔法語の実技場には、十数人の生徒が並んでいた。
広い石造りの部屋。
壁際には、木製の円盤がいくつも置かれている。
床には、生徒一人分ずつ区切られた線が引かれていた。
試験を担当する教師は、四十代ほどの女性だった。
濃い茶色の髪を短く切り、片眼鏡をかけている。
魔法語の正確さに厳しいことで知られていた。
「今回の試験では、風を発生させる基礎術式を使用します」
教師が杖で標的を示す。
「標的を棒から落とせば合格です。破壊する必要はありません」
生徒たちが頷く。
「制限時間は十秒。時間内に術式を完成できなかった場合は失格。術式に誤りがあった場合も失格です」
前にいた男子生徒が、緊張した様子で手を握りしめた。
この学院には、年齢も身分も異なる人間が集まっている。
貴族の子供。
商人。
兵士。
俺のような狩人。
魔法語を学ぶためなら、身分は関係ない。
それでも貴族の生徒は、幼い頃から家庭教師に魔法語を習っていることが多い。
俺より遥かに速く術式を書ける者もいる。
試験が始まった。
最初の生徒が前へ出る。
教師が砂時計を反転させる。
生徒は空中へ魔力を集め、魔法語を書き始めた。
六秒ほどで術式が完成する。
風が発生し、木製の円盤を後ろへ吹き飛ばした。
「合格」
次の生徒は、文字を一つ間違えた。
術式が赤く点滅し、途中で崩れる。
「失格。第五文字の方向指定が逆です」
三人目。
四人目。
順番が進んでいく。
俺は自分の指を開き、ゆっくり握った。
緊張している。
魔物を前にしたときとは違う緊張だった。
オーガと戦ったときは、失敗すれば死ぬ。
だが、考えている暇はない。
身体が勝手に動く。
今は、全員に見られながら魔法語を書かなければならない。
一文字でも間違えれば失格。
十秒を超えても失格。
『主』
足元から、アークの念話が届いた。
授業中、アークは実技場の端に伏せている。
学院では、俺の連れている賢い犬として扱われていた。
念話が使えることは、誰にも話していない。
『昨日やった通りです』
俺はアークを見ないまま答える。
「分かってる」
小さな声だった。
隣にいた生徒が振り向く。
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」
危ない。
学院では、アークと会話しているように見せない方がいい。
長く一緒にいれば表情で分かる。
そう説明しているが、頻繁に話しかければ怪しまれる。
「次。モーリ」
名前を呼ばれた。
俺は線の内側へ入った。
正面に円盤がある。
距離は十歩ほど。
風を当てるだけなら難しくない。
術式さえ完成すればいい。
教師が砂時計へ手を置く。
「始め」
砂時計が反転する。
俺は完成した術式を頭へ描いた。
一文字ずつではない。
円と魔法語。
魔力の流れ。
生まれる風。
すべてを一つの形として思い浮かべる。
右手を上げた。
指先から魔力が伸びる。
空中へ円を書く。
続けて魔法語。
確認しない。
止まらない。
頭の中の形を、そのまま空中へ写していく。
最初の文字。
風の発生。
次の文字。
方向。
強さ。
対象。
最後の線を繋ぐ。
術式が淡い青色に光った。
発動。
風が一直線に走る。
円盤の中央へ当たり、棒から落とした。
実技場の床へ、木の円盤が乾いた音を立てて転がった。
「八秒」
エレナ教師が砂時計を見る。
「術式にも問題はありません。合格です」
息を吐いた。
後ろへ戻る。
アークの横を通る。
『簡単でしたな』
「昨日、何十回練習したと思ってるの」
『わいの助言のおかげです』
「はいはい」
『肉一皿分ですな』
「どうして報酬が発生するの?」
『指導料です』
「払わないよ」
アークは不満そうに鼻を鳴らした。
試験が終わったあと、教師が俺を呼び止めた。
「モーリ」
「はい」
「あなたは術式の完成が遅いと思っていました」
「自覚はあります」
「ですが、今日は随分と改善されていました」
「昨日、練習しました」
「練習だけですか?」
教師の視線が鋭くなる。
念動力のことを疑われたわけではない。
俺は学院で念動力を一度も使っていない。
魔力を動かすときも、普通の魔術師と同じように自分の体内から魔力を出している。
それでも、何かを隠していると疑われたのかと思い、背中に冷たいものが走った。
「完成した術式を頭の中で思い浮かべてから書くようにしました」
俺は正直に答えた。
「一文字ずつ確認するのをやめました」
エレナ教師は少し考えた。
「視覚化ですか」
「たぶん」
「誰かに教わったのですか?」
「アークを見ていて思いつきました」
足元のアークが顔を上げる。
「犬を見て?」
「こいつは文字を書くことができません。でも、本を読むとき、文字を一つずつ覚えるというより、頁全体を図のように覚えているみたいで」
『余計なことを言わんでください』
アークから念話が飛んできた。
俺は無視した。
「それを真似しました」
エレナ教師はアークを見る。
アークは何も知らない犬のような顔で、舌を出している。
「変わった発想ですね」
「駄目ですか?」
「いいえ。魔法語の習得方法は一つではありません」
教師は俺が書いた術式の残光を見る。
「ただし、速度を優先して形を崩さないこと。魔法語は一画の違いで意味が変わります」
「気をつけます」
「次回からは、二つの術式を連結します」
「二つ?」
「風を生み、その風へ刃の性質を与える」
風の刃。
俺が今後、実戦で使いたいと考えていた魔術だった。
「今回のように、標的を落とすだけではありません」
教師は床へ落ちた木製の円盤を拾う。
「次の標的は切断してもらいます」
アークの耳が立った。
『わい向きの授業ですな』
俺は口元が緩みそうになるのを堪えた。
「楽しみにしています」
「魔術を楽しむのは結構です。ただし、自分の指を切らないように」
「そんなことがあるんですか?」
「毎年一人はいます」
笑えなかった。
その日の夕方。
俺とアークは領都の外へ出た。
学院から黒霧の森までは、歩けば数日かかる。
長期休暇ではないため、森まで行くことはできない。
代わりに、街から少し離れた人気のない丘へ向かった。
草原の中に、岩と枯れ木が点在している。
魔術の練習をするにはちょうどいい場所だった。
周囲に人がいないことを確認する。
念動力を広げる。
遠くの草。
岩。
土の中を動く小さな虫。
空気中に漂う魔力。
人間の気配はない。
「ここなら大丈夫そうだね」
『何を試すんです』
「今日の術式」
俺は少し離れた枯れ木の前へ立った。
学院で使った風の術式を思い浮かべる。
風の発生。
方向。
強さ。
対象。
右手を上げ、空中へ魔法語を書く。
青い術式が完成する。
風が枯れ木へ向かって吹いた。
乾いた枝が揺れる。
それだけだった。
『弱いですな』
「授業では円盤を落とすだけだからね」
『魔物は倒せませんで』
「分かってるよ」
次は、風へ刃の性質を与える。
まだ授業では習っていない。
だが、教本には基礎的な術式が載っていた。
風を一点へ集める。
薄く圧縮する。
形を維持する。
前方へ飛ばす。
俺は魔法語を書いた。
先ほどより長い術式。
最後の文字を繋ぐ。
風が集まる。
目に見えない刃となり、枯れ木へ飛んだ。
乾いた音。
枝が一本、地面へ落ちた。
切断面は荒い。
途中で折れたようにも見える。
『微妙ですな』
「初めてなんだから仕方ないでしょ」
『わいもやってみてええですか』
「いいけど、魔力は少なくしてね」
『分かっとります』
アークが枯れ木へ向き直る。
その前方へ青い光が集まった。
アークは文字を書くことができない。
だが、自分の魔力を使い、頭の中で魔法語を組み上げることはできる。
学院の教本によれば、これは無詠唱術式と呼ばれる高度な技術に近いらしい。
普通の魔術師は、長い訓練を積まなければ使えない。
アークは文字を学び始めて間もない頃から、なぜか自然にできていた。
アークの前に、簡略化された魔法語が浮かぶ。
風が集まる。
『このくらいですかな』
「少なく。もっと少なく」
『これ以上減らすんですか』
「最初から強くすると、木ごと消えるから」
『主は心配性ですな』
「前に岩を粉々にしたのを忘れたの?」
『あれは岩が脆かったんです』
「普通の岩だったよ」
アークは不満そうだったが、さらに魔力を絞った。
術式が発動する。
風の刃が飛ぶ。
枯れ木へ当たった。
次の瞬間。
幹の上半分が、音を立てて後方へ吹き飛んだ。
地面へ落ちた幹が何度も転がる。
切断面は抉れ、木片が周囲へ飛び散っていた。
俺は黙ってアークを見る。
アークも黙って切断された木を見ていた。
『少し強かったですな』
「少し?」
『ほんの少しです』
「オークの首に使ったらどうなると思う?」
『よく切れます』
「首だけじゃ済まないよ」
『倒せるなら問題ありませんで』
「素材が傷む」
アークが耳を動かした。
『それは困りますな』
「魔石まで砕けたら報酬が減るよ」
『大問題です』
「だから、もっと弱くする練習をしないと」
アークは真剣な顔で枯れ木を見つめた。
魔物を殺しすぎることより、素材の価値が下がることの方が効くらしい。
『次は枝一本だけを切ります』
「できる?」
『やります』
アークは残った枝へ意識を向けた。
再び風が集まる。
先ほどより小さい。
細い。
だが、それでも俺が使った術式より遥かに濃い魔力を感じた。
風の刃が放たれる。
狙った枝が切れた。
同時に、その後ろにあった枝も三本落ちた。
『惜しいですな』
「目標の四倍切れてるけどね」
『最初よりは上達しました』
「前向きだね」
『主もやりますか』
「もちろん」
俺は枯れ木の反対側へ立った。
先ほどの術式を思い浮かべる。
魔法語を短くする。
不要な指定を減らす。
風を広げない。
刃を厚くしすぎない。
術式を書き始めた。
だが、途中で手を止める。
周囲に漂う魔力を感じた。
学院の中より濃くはない。
黒霧の森とは比べものにならない。
それでも、空気中には確かに魔力がある。
俺は念動力を使った。
見えない力を広げる。
空中の魔力を引き寄せる。
自分の周囲へ集める。
学院では決して行わない。
念動力を知られれば、何が起きるか分からない。
珍しい能力として研究されるだけならまだいい。
軍や貴族に目をつけられる可能性もある。
だから、念動力を知っているのはアークだけだ。
集めた魔力を、自分の魔力へ少しだけ混ぜる。
魔法語へ流す。
術式が光った。
風の刃が飛ぶ。
枯れ木の細い枝だけが切れた。
枝は真っ直ぐ地面へ落ちる。
後ろの枝には傷一つない。
『お見事ですな』
「外の魔力を少し使った」
『ずるですな』
「アークに言われたくないよ」
『わいは自分の魔力です』
「量がおかしいでしょ」
『持って生まれた才能ですな』
「犬なのに?」
『犬やからです』
「関係ある?」
『分かりません』
俺は切れた枝を拾った。
切断面は滑らかだった。
まだ実戦で使えるほどではない。
動く魔物の首を狙うなら、さらに速度と精度が必要になる。
術式を書く時間も短くしなければならない。
それでも、今日の授業で覚えた方法は使える。
完成した術式を、最初から頭の中へ描く。
一文字ずつ考えない。
魔法語を、絵のように扱う。
それなら戦闘中でも書けるかもしれない。
「次の長期休暇は、黒霧の森で試そう」
『オークで試しますか』
「最初はゴブリン」
『小さすぎませんか』
「小さい方が狙う練習になるでしょ」
『食べられませんで』
「訓練だからね」
『オークにしましょう』
「駄目」
『コボルト』
「駄目」
『オーガ』
「もっと駄目」
『では、主がゴブリンを相手して、わいがオーガを倒します』
「話を聞いてた?」
『役割分担ですな』
アークは尻尾を振った。
既に黒霧の森へ行く気になっている。
俺も同じだった。
学院で魔術を学ぶ。
黒霧の森で使う。
失敗した部分を学院へ持ち帰り、また学ぶ。
これまで俺は、念動力だけを頼りに魔物と戦ってきた。
念動力は強い。
便利で、魔力も消費しない。
だが、それだけでは地球へ帰れない。
異界へ渡るには、召喚術が必要になる。
召喚術を理解するには魔法語が必要だ。
古代の記録を読むには、さらに古代語も学ばなければならない。
戦うためだけに魔術を学んでいるのではない。
それでも、学んだ魔術が生き残る力になるなら、使わない理由はなかった。
俺はもう一度、枯れ木へ向き直った。
次の枝を決める。
細い枝。
風で揺れている。
止まった標的ではない。
「今度は、あれを切る」
『揺れとりますで』
「魔物も止まってくれないからね」
『外したら、わいの勝ちですな』
「いつ勝負になったの?」
『今です』
俺は右手を上げた。
完成した術式を頭へ描く。
風を集める。
薄い刃へ変える。
揺れる枝の進行方向を読む。
魔法語を書く。
最後の文字が繋がる。
風の刃が飛んだ。
枝が揺れる。
刃がその横を通過した。
『外れですな』
「もう一回」
『わいの勝ちです』
「まだ終わってないよ」
『勝負は一回です』
「そんなルール聞いてない」
『今、決めました』
「卑怯じゃない?」
『勝った者が正義ですな』
アークは得意そうに胸を張った。
俺はため息をつき、再び術式を頭へ描いた。
学院で学ぶことは、まだ山ほどある。
魔法語。
魔力制御。
召喚術。
古代語。
そのすべてが地球へ帰るための手掛かりになる。
そして、いつか古代遺跡へ向かうとき。
そこにどのような魔物や罠が待っていても、生きて戻らなければならない。
そのためには、もっと強くなる必要がある。
俺だけではない。
アークも。
「次は当てるよ」
『当たったら肉を買いますか』
「どうしてそうなるの?」
『成功祝いです』
「試験に合格したら買う約束だったでしょ」
『あれは試験の分です。これは枝の分』
「枝一本ごとに肉を買ってたら破産するよ」
『では、十本で一皿』
「交渉しないで」
俺は笑いながら、揺れる枝へ狙いを定めた。




