みんなと同じじゃない
あの頃、うまく言葉にできなかったことを、今なら少しだけ書ける気がしました。
よかったら、読んでみてください。
僕は、生まれつきアトピーだった。
幼い頃から、かゆいのが当たり前で。
気づけば、掻いていた。
幼少期、保育園から幼稚園へ転入した。
新しい場所で、みんなと同じように過ごせると思っていた。
でも、現実は少し違った。
お昼ご飯の時間。
先生が、ひとりひとりに麦茶を配っていく。
みんなの前には、コップが置かれていくのに。
僕の前には、何も置かれなかった。
「ごめんね、○○くんは飲めないからね」
そう言われて、初めて気づいた。
自分は、みんなと同じじゃないんだって。
年長になった頃、症状は一気に悪化した。
夜も眠れないほどのかゆみで、
朝になると血がにじんでいることもあった。
「このままじゃよくならないね」
そう言われて、入院することになった。
病院の生活は、静かだった。
外で遊ぶ声も聞こえない。
友達と笑うこともない。
ただ、かゆみだけが、ずっとそこにあった。
食事は、毎日同じだった。
白身魚と、白いご飯。
牛乳も、パンも、お菓子も。
みんなが当たり前に食べているものは、
僕には全部「だめ」と言われた。
分かっていた。
それが体のためだってことも。
それでも――
食べたかった。
ただ、それだけのことが、できなかった。
夜になると、かゆみはさらに強くなった。
周りが静かになるほど、
自分の体のことだけが気になった。
掻いちゃいけないって分かっているのに、
気づけば、手が動いていた。
ある日。
「お風呂の時間だよ」
その言葉を聞いた瞬間、
体が震えた。
お風呂は、きれいになる場所じゃなかった。
ただ、痛いだけの時間だった。
水が触れるだけで、
体中に痛みが走る。
我慢しようとしても、
涙が止まらなかった。
でも――
ひとつだけ、分かっていたことがあった。
お風呂を出た先に、母がいる。
脱衣所で、いつも待っていてくれた。
泣いたあとでも、
何も言わずに、抱きしめてくれた。
「大丈夫」
その言葉が、本当に大丈夫なのかは分からなかった。
それでも、
そのときだけは、少し安心できた。
ある日、看護師さんが言った。
「今日は好きなもの食べていいよ」
俺は、お寿司が食べたいと言った。
母はすぐに買ってきてくれた。
やっと、普通に食べられる。
そう思った。
でも――
醤油が、口の傷に触れた瞬間、
激しい痛みが走った。
また、この痛みなのか。
せっかく、食べていいって言われたのに。
母は、何も言わずに俺を抱きしめた。
その腕の中で、
少しだけ、力が抜けた。
痛みは消えなかった。
かゆみも、ずっとあった。
それでも――
あのとき、
ひとりじゃないと思えた。
あの頃の俺は、
うまく言葉にできなかったけど。
この痛みは、
誰にも見えなかったけど。
それでも、
ちゃんと、そばにいてくれる人がいた。




