音色とヤキモチと秘密と
素敵な音色に私は思わず、言葉が漏れた。
「まあ、素敵ですわ…。ジュリアさんは音楽もお出来になるのね…」
可愛くて、経営も明るくて、接客も出来る。ジュリアさんはランハート様からの信頼もあって、素敵でそして音楽の教養もある。
チクっ。
私はランハート様に「あーん」としている自分の手を見た。ちょっと小さく、指が短いのがコンプレックスな私の手。ランハート様は褒めてくれたけれど、私は楽器を弾くのは得意ではない。
あっという間に目の前のお皿が空になる頃、ジュリアさんも曲を弾き終えた。バイオリンの音が静かに小さくなると、私はフォークを置いて、ジュリアさんに拍手をした。
「ジュリアさん。とても素晴らしいわ、素敵な音色ですわ。私ではそんなに綺麗に音を操れないわ」
「ありがとうございます。宜しければ、ソフィー様も弾いてみますか?」
「いいのかしら?ジュリアさん、指導して下さる?私、音色の伸ばし方と、指が忙しく動かせなくて…」
「私が?良いですよ。そうですね…指の使い方ですね?私で良ければ教えますけど…」
「宜しいのですか?」
「はい、では弾いてみて頂けますか?」
「はい」
私はジュリアさんから渡されたバイオリンで、簡単な練習曲を優しく弾いてみた。
「いや…女神降臨。教会にこんな絵が飾ってありそう。光り輝いて見える」
「……」
「あ!いけない」私は途中で失敗をしてしまい、そこでジュリアさんを見た。
「ジュリアさん、ここを綺麗に音を繋ぐにはどうしたら宜しいかしら?ゆっくりだと、問題はないのですけれど、それでは美しくないでしょう?美しい旋律に出来たらって…」
「ああ、それはこうして…」
そうしてジュリアさんが私の手を取って教えてくれた。私よりも随分と大きな手に長い指。
羨ましいわ。やっぱり私はまだまだね。羨むことをするくらいなら、自分磨きに努力をすればよいのよ。そうすれば…
『ランハート様、お疲れですか?』『ああ、少し…』『私が音楽を奏でますわ』『ああ、なんて素敵な音色だ…疲れが溶けていくようだよ』…なんてこともあるかもしれませんわ。
その指で私にバイオリンを教えてくれていると突然、ランハート様がガタン!!と立ち上がった。
「ジャン!!!駄目だ!!!」
「え?」
私とジュリアさんの間にランハート様が突然入り込み、ジュリアさんの手を私から話し、自分の手で私の手を包み込んでしまった。
「ランハート様?どうなさったのですか?」
私が驚いてランハート様を見上げると、ランハート様は「す、すみません、でも、いとことはいえ、やはり、ソフィー嬢が男性に手を触られるのは、どうも…」と言って、しょんぼりとしてしまった。
「ええ、それは勿論。私もランハート様意外と手を繋いだり致しませんわ。私が男性と手を繋いだのもランハート様が初めてですもの」
あら、ランハート様はジュリさんと手を繋いだと思ったのかしら?
心配症なのかしら?いえ、ランハート様を心配させた私が悪いのよね。それにランハート様がそうやって心配されるのは優しさだわ。
うんうん、と私が頷いてランハート様を見ると、ランハート様は耳を赤くした。
「す、すみません。ちょっとヤキモチを焼いてしまったようです…」
「ヤキモチ?」
ヤキモチ?ヤキモチ?ランハート様が?私が焼いていたのではなくって?どういうこと??でも、顔が赤いわ。
か、可愛い!!!!
どぎゅーーーーん!!
なんて可愛いの!照れてるランハート様も最高に恰好良いのに、その上可愛いだなんて。
でも、私を心配する要素なんて一つもないのに。
私はランハート様の手を握りしめた。
「ランハート様。私の全てはランハート様のものですわ。私はランハート様しか見ていませんわ」
私がそう言うと、後ろから、またバン!と音がして「やばい。やばい。もう、ランハート兄様死んでない?いや、コレ、直撃食らったらマジやばい。凄い、ソフィー様、マジ、女神。推し変しかない。いや、カプ推しだけど。ああ、最高」と聞こえた。
ランハート様の胸に手を置くと、ドックンドックンとランハート様の孤高なる音が聞こえて、私はもうその音に合わせて踊り出したくなったのだけれど、ぐっと我慢してランハート様の至高の瞳を見つめた。
「ソフィー嬢…。あの…、すみません、説明を…」
「ええ、何ですか?」
目を覆い、椅子にゆっくりとランハート様が座るとジュリアさんがお茶を淹れ直してくれた。
「まずは。ジュリアは、あの、ソフィー嬢は覚えていないかもしれませんが、S・クラン社に配達に来ています。そして、その時はこの格好ではありません。ジュリア。頼む、いつもの恰好出来るか?」
「えー。でも、ソフィー様の為なら。急ぐからちょっと待ってって」
そういうと、ジュリアさんは部屋を出て行くと私達はお茶を飲み終わる頃に一人の男性が入ってきた。
あら?お会いした事ある方だわ。そう、確か…「ジャン様?」
「そう。ソフィー嬢。ジャンはジュリアなんだ」
「?」
ランハート様は何をおっしゃているのかしら?
私が首をかしげると、ランハート様は頷いた。
「ジャンは配達や家では普段のこの格好。でも、店の中ではジュリアとして接客をしているんだ」
「え?」
ジュリアさんですって?
私がジャン様を見ると、確かに目の色は薄いオレンジ色で髪の毛の色も明るい青。ジュリアさんと同じだわ。ああ、ランハート様とは髪の色が少し似ている所があるわ。ランハート様の色の方が深く、サファイアの様な、夜に沈む綺麗な空の色だけれど、ジャン様の髪の色も良い色だわ。
私が見ているとジャン様は淑女の礼をしながら高い声を出した。
「ソフィー様」
「あら。その声は、ジュリア様。あら、ではジャン様はジュリア様で。ジュリア様はジャン様なのですね。まあ、凄い。とても綺麗な礼だわ。男性ではその礼はとても難しいのではなくって?素晴らしいわ」
私は高い声も綺麗なドレス捌きも、とても努力がいったのだろうと感心した。
「まあ、ではジャン様はジュリア様で、本当に何でもお出来になるのね。素晴らしいわ…」
流石ランハート様の従弟。よくよく考えればランハート様が褒める自分の血筋の方。私が叶うはずがないのよ。
「私もジャン様に色々教えて頂きたいわ」
私がそう言うと、ジャン様は目を丸くして、ランハート様は慌てて止めてきた。
「ソフィー嬢は今のままで十分ですので、ジャンからは何も習わなくて結構です!」
「あら、そうかしら。でも、確かに、お忙しいジャン様の手を煩わせるのはいけないですわね」
私はふむふむ、でも、何かこれぞ!という特技を身に着けたいわ、と考えたのだったのけれど、ジャン様が男性で本当にほっとしたのだった。




