ソフィーお嬢様の頬の色
色々あったけれど、私達は楽しくジャムを選び、その後、S・クランに向かい、お互いの仕事を終わらせると、あっという間に帰りの時間になった。
「では、帰りましょう」
「はい、皆様、また」
帰りの馬車に乗る時に、ランハート様の馬車酔いの事を思い出した。私はランハート様の手を取り、馬車に乗り込み私はいつもと違う、向いの席に座った。
──これで良し。
ランハート様は馬車に乗り込むと驚いた表情をされたが、私の目の前に座った。
「ソフィー嬢、そちらで?」
「ええ。こちらが良いのですわ」
これでランハート様の馬車酔いを防げるはず。私はよし、と思いながらにっこりとランハート様を見たのだが。
なんてこと。走り出してすぐに私は気分が悪くなってしまった。
「ソフィー嬢…。窓を少し開けますね」
ランハート様が馬車の窓を少し開けると、風が入り、少し気分がよくなった。
「具合はどうですか?事故があったようでう、もう少し屋敷までかかりそうですが」
「すみません、ランハート様…」
「いえ、私が無理をさせました。今日は一日、連れ回してしまいましたね。疲れも出たのでしょう」
「ランハート様と一緒にいて疲れる事など!」
私はきゅっとランハート様の上着を持って訴えた。
喜びこそあれ、疲れることなどあるわけない。ランハート様となら、どんな修行もおかわり出来る。
「ソフィー嬢…」
優しく私の髪を触ると、ランハート様は、「目を瞑っていてもいいですよ。その方が楽かもしれません」と言ってくれたのだけれど、目を瞑ってはランハート様のご尊顔を拝むことが出来ない。でも、具合を悪くしてこれ以上迷惑をかけるのは間違っている。
「申し訳ありません」
そう言って、私は目を瞑った。
「ソフィー嬢…」
は!今聞こえた、小さな天使の声はランハート様の声…。
目を瞑るってたまには良いのね…。
幸せ。と思っていたのだが、なんと私はそのまま、寝てしまっていた。
※※※※
時は少しだけ過ぎ、ランハートは無事にソフィーを送り屋敷へと送り届けていたのだが、侍女のマリアはランハートがソフィーを抱きかかえて馬車を下りて来た姿に驚いたのだった。
「まあ!!」
(ソフィーお嬢様に何か!?お倒れになられたのかしら!?)
急いで力自慢の者に声をかけ、マリアはエントランスへと急いだのだ。
「チェリット様!!ソフィーお嬢様に何か?」
「すまない。馬車に酔って寝てしまわれた」
「ああ、左様で。では、このすぐ隣の部屋に」
ほっと胸をなでおろしながら、すぐに待合室の部屋を開け、ソファーを指さした。
「チェリット様、こちらにソフィーお嬢様をお願い致します」
「はい、ソファーで宜しいですか?」
「ええ。お疲れ様でございました。チェリット様にご迷惑をおかけ致しました」
「いえ、疲れが出られたのかもしれません」
私にそう言うチェリット様の額には汗がにじんでいた。短い距離とはいえ、女性を抱きかかえ運んだのだ。騎士でもないチェリット様には大変だっただろう。
「チェリット様、タオルと飲み物をすぐにお持ちします」
私はメイドに声をかけ、私の代わりに部屋にいるように指示をすると、すぐにタオルと冷たい飲み物を準備した。
女神の様に美しいソフィーお嬢様がずっと片思いしていた男性。どんな絶世の美男子かと、私は楽しみにしていたのだが、顔合わせの時にみたチェリット様に私は拍子抜けをしてしまった。
(この方が、私のソフィーお嬢様の片思いのお相手?)
普通。普通である。いや、むしろ顔も色も、何もかも地味である。
(まあ…悪い方ではない様ですけれど)
私がそう思っていると、ソフィーお嬢様はチェリット様と目があった瞬間、「ぱぁっ!」と本当に、花が開いたような笑顔で出かけられて行きました。
(ソフィーお嬢様の幸せが私の幸せです)
あのような笑顔を見せられれば、私も応援しない訳には参りません。私は横に立ち、私と同じ表情で、ソフィーお嬢様を見つめている執事と顔を見合わせ、笑ったのでした。
そう思った初めてのデートから、暫く経ちましたが、お二人はとても仲が良く、両家の繋がりもとても良いようです。
今日も嬉しそうに出かけられてましたが…。昨夜、色々とデートの事を考え寝不足になられていたのが悪かったのでしょう。
私は冷たいレモン水とタオルを持って、待合室に入り、控えさていたメイドを下がらせました。
チェリット様はソフィーお嬢様と一定の距離を保ちながらも、手を握っておられました。
「チェリット様、宜しければ、どうぞ」
「ああ、頂こう」
私が差し出したレモン水とタオルを受け取り、飲み干すと、ソフィーお嬢様が目を開けられました。
「ランハート様?天使?英雄?」
「ああ、起きられましたか。具合はどうですか?」
「え?最高ですわ…」
ソフィーお嬢様!心の声が漏れています!
頬を赤らめて、(え?何で目の前にランハート様が?ラッキー!)と思われているであろうソフィーお嬢様に聞こえるように、咳払いをしました。
「おほん、ソフィーお嬢様、お気づきに?」
「あら?マリア?嫌だわ、私、どうしたのかしら?」
「ソフィー嬢は、馬車に酔われ、そのまま眠ってしまったのですよ」
チェリット様が優しく話し掛けられると、お嬢様はまた頬を染めました。
「寝て?嫌だわ、恥ずかしい…」
ソフィーお嬢様は起き上がろうと手を突こうとしましたが、まだ寝ぼけられているのか、ソファーで寝ていると知らない為か、ソフィーお嬢様が手を突こうとした先は何もありませんでした。
「きゃあ!」
「ソフィー嬢!」
「ソフィーお嬢様!!」
思わず私も大きな声を出しましたが、チェリット様がソフィーお嬢様を抱き止め、転げ落ちる事はありませんでした。
「お怪我は?」
「いえ…すみません」
「起き上がれますか?」
「はい。申し訳ありません、ランハート様」
「いいえ、謝る必要はありませんよ。痛い所はないですか?」
「はい」
これは…。
「コホン、ソフィーお嬢様にも飲み物をご用意しますね。ああ、メイドに先程仕事を任せてしまったので、少し私は離れますが…宜しいですか?」
「え?ええ、マリア。そ、そうね」
私がそういうと、ソフィーお嬢様はコクコクと頷いた。
「では、少々、お待ちください」
そう言い、私は部屋を出て、ドアの前にメイドを呼び、飲み物を準備するようにいうと、私はそっとドアの前に立ち、誰も入らないようにしました。部屋の中からは、二人の声が聞こえます。
「ランハート様」
「ソフィー嬢、とてもあなたの瞳は綺麗ですね。瞳も、髪も、全て。でも、一番素敵なのは貴女の笑顔だ。私は今日一日、貴女の笑顔を見れてとても幸せでした」
「ランハート様…」
「では、ソフィー嬢…本当にゆっくりと休まれて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
「ええ、夢でも貴女に会えるように…」
そう言うと少し静かになり、メイドが飲み物を持ってきたので私は受け取った。
わざと少し大きな音を立てて、ノックをしてから、ゆっくりと時間をかけてドアを開けると、お嬢様は頬を押さえて、口元を緩ませていた。
カチコチに緊張しているお嬢様を見て、ふとチェリット様に目を向けると、その方もまたお嬢様の頬を見つめたまま幸せそうに微笑んでおられ、耳まで赤くしているのを私は見逃しませんでした。
「お飲み物です」
「エ、エエ。アリガトウ、マリア」
お嬢様の結婚式のドレスに付ける宝石。一緒に選んでとお願いされていたのですけれど、お嬢様が言うように、チェリット様の色味のサファイアで探す事に致しましょう。
私は恥ずかしそうに微笑み合う二人を見てそう思ったのでした。
(結婚式が楽しみですね、お嬢様)
私は心の中でお嬢様に問いかけ、二人の甘い空気の中に酔いそうになっていたのでした。
読んでくださってありがとうございます。
ソフィーとランハート様を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
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