デートの準備は入念に
ランハート様から手紙のでデートに誘われた。
『親愛なるソフィー嬢
試験が始まる前に街歩きをしませんか?新しくカフェがオープンしたとの事です。ジャムを使ったケーキが美味しいと聞きました。美味しく調査を致しませんか? ランハート』
くう!!!!!
なんて!!!なんて素敵なお誘いなの!!!!
こんな風に誘われたら、断れるわけないじゃない!!!!
いや、ランハート様であれば、どんなお誘いであっても、行くという選択肢しかないのだけれど。
デート!デート!と嬉しくて頬を押さえていると、目の前の試験範囲の紙が目に入った。
流石ランハート様だわ。もうすぐ試験期間に入るその前に、少しだけの休息。試験中にデートをするのはちょっとって私も思ってたもの。
恰好良いだけでは無くて、こう、さりげない優しさや、デートプラン迄…。なんて完璧なのかしら…。
勿論、私は毎日でも会いたいのよ?でも、勉強がおろそかになって、ランハート様の隣に立つのにふさわしくないって思われたくない。ランハート様の隣にいて、恥ずかしくないようにしなければ。
「マリア?」
私が侍女を呼ぶとすぐに私の前にやって来た。
「ソフィー様」
私の前で綺麗に礼をして、私の返事を待つ専属侍女のマリア。小さな時からずっと私の傍にいてくれるかけがえのない人。
「マリア、ランハート様からデートのお誘いなの。新しいカフェにジャムの視察も兼ねているの。会社にも立ち寄るかもしれないわ。お客様に会った時に失礼のないような、それでいて、ランハート様とのデートで綺麗と思われるような装いってどのようにしたらいいのかしら?」
「ソフィー様が召されれば、どのような物でも上品かつ、美しく、気高く装われますが」
「マリア。街歩き、なの。季節も取り入れて、誰が見ても綺麗だと思うような衣装を選んでくれるかしら?ランハート様の隣に立って恥ずかしくないようにしたいわ」
「お任せ下さい。このマリア。ソフィー様の美しさが少しも曇る事の無いように、全身全霊を掛けて、デートのご準備をさせていただきます」
「頼もしいわ。流石マリアね」
「ソフィー様…」
私が微笑むと、マリアは「ほぅ」っと嬉しそうに頷き、部屋を出て行った。きっと、ドレスや靴、アクセサリーを探しに行ったのだろう。
私はランハート様に手紙の返事を書くべく、可愛い便箋と、香水、そして綺麗なインクを用意した。
「やはり、紺色がいいかしら。いえ、私の目の色の紫を…はちょっと恥ずかしいわね。やっぱりランハート様の色の紺色に致しましょう。サファイアの様に美しい色ですもの。便箋は、可愛らしすぎると嫌がらるかしら。でも、花のイラストが描いてある位は良いかしら。色々あるけれど、どの花がいいのかしら…。薔薇?…は愛の花すぎて恥ずかしいかしら。こう…控えめだけど、愛を伝えられる花は…」
私は本棚から花の言葉、愛の言葉、詩集等の本を取り出すと、机に戻り、ペラペラと捲った。
「マーガレットもいいわね…でもこれも愛の告白として使われるかしら…。もし、私がランハート様から貰えるのならば何の花でも嬉しいのだけれど。は!ランハート様って何の花が好きなの?」
男性だって好きな花や色はあるはず。嫌いな花の便箋なんて送りたくない。
『えー。私、この花、好きじゃないのにな。ソフィー嬢、知らなかったんだな。がっかり』
なんて、思われてしまったらどうしましょう。私、ショックで床に埋まってしまうわ。もう、抜け出せないかもしれないわ。
思い出せ、思い出すのよ。ソフィー。ありとあらゆる記憶を掘り起こすのよ。ランハート様は何か好きな花の事を言ってなかった?好きな色は?
「………は!!!!」
私は目を瞑り必死に過去の映像、記憶をえっほ、えっほと掘り起こした。
ドキュン!!!
ランハート様の笑顔を思い出した瞬間、私の頭の中のランハートコレクションの一枚の絵画の中にランハート様とある花が浮かんだ。
「植物園!!!」
初めてのデート(顔合わせではあるが)の時に、植物園で色々な花を一緒に観た。あの時に『あの花は珍しいですね。とても綺麗だと思います』と言っていたわ。
私も頷いて、二人で、綺麗ですね。と言っていた。
「あの花よ!あれはたしか…東洋の…キキョウって花だったわ。花言葉は分からないわね…でも、二人の思い出の花…。あの花を描きましょう。イザベラ?」
私がメイドの一人の名前を呼ぶと、すぐにメイドのイザベラがやって来た。
「ソフィー様、お呼びですか?」
「絵を描きたいの。準備をしてくれる?それと、イザベラ、キキョウという星の形の様な花を描きたいの。珍しい花なんだけれど、知っているかしら?」
「すぐにご準備致します。星の形の花は何種類かございますね。お調べ致しましょう。少々お待ち下さい」
私はが頷くとイザベラはすぐに下がり、絵を描く準備と、花の絵が沢山乗った本を持って来てくれた。
「ソフィー様、キキョウの花はありませんでした。この中から似た花を教えて頂き、私が描いて、それを真似てソフィー様が描かれてはどうでしょうか?」
「そうね。そうするわ。色は紫で、星のような花が咲いていて、大きくはなかったわ。葉はたしか細かったと思うの。こんな感じかしら?」
「成程、では、小さく可愛らしく、便箋の隅に描かれるのが宜しいでしょう。試しに私が描いてみますね」
イザベラはとにかく絵が上手い。
画家の家系で、イザベラの父、兄も画家だ。女性は画家になる事は無いと、イザベラは絵の道に進めなかったけれど、私は彼女の才能は素晴らしいと思っている。
だから、実は私のポスターは全てイザベラに書いて貰った。
イザベラは「私が描けばご迷惑が!」と言っていたけれど、良い絵なのは間違いはないのだし、私がイザベラをクラン子爵とランハート様に推薦すると、二人とも頷いてくれた。
だけれど、イザベラは描き上げてもサインはイザークという男性名を使うようになった。「ご迷惑をおかけするかもしれません、暫くはこの名前で」と。いつか、イザベラという本名で絵を描ければと思う。
イザベラはサラサラと綺麗な星の花を描き上げると、私にみせた。
「ソフィー様、如何ですか?」
「綺麗だわ。私も頑張って描くわね」
「はい、初めは淡い色を少しだけ、そして、線を細く描くと綺麗に見えると思います」
私はイザベラに教えられながら、花を描き上げた。
「ふう、イザベラ。ポスターだけでなく、お茶のラベル、ワインのラベルも貴女にお願いしたいの。やって見ないかしら?」
「ソフィー様…。是非やらせて下さい」
以前は自信なさげだったイザベラ。今では彼女も自信をもっている。
「ええ、ランハート様にも伝えておくわ。宜しくね」
私がそう言うと、イザベラは綺麗に礼をした。
「いつか、イザベラと言う名前で私にサインをして頂戴ね」
私がそう言うと、イザベラはしっかりと頷いてくれた。




