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美しい令嬢の心の内側はポーカーフェイスで隠します 【連載版】  作者: サトウアラレ
4章

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16/22

私の女神 ランハート視点 

どうも義姉様が書いた『女神が愛した地味男』の大ヒットの影響だろう。

信じられない事だが、俺は今、街で“最高の『地味男』と呼ばれている。しかも、『地味男』というのはどうやら褒め言葉らしい。


俺が地味男なのは自他共に認める所なのだが、褒め言葉、というのが不思議なものである。


以前は悪口のように使われることが多かったであろう『地味』という言葉。それが、最近は「控えめ」「堅実」「お淑やか」「品がある」「礼儀正しい」と同じように並んで「地味」と使われる。


ちょっと笑ってしまうが、褒められるのならばよいか、と呼ばれてもそのままにしている。


そして今日も俺の会社…というか、養父となったレオナルド叔父上の会社である、S・クランで会議の為、王都の街を歩くと色々な方から挨拶をされた。


「クラン会社の地味の方、良いお天気で。あの、これ、宜しければ、店に飾って下さい」

「綺麗な花だね。有難う、代金は後で持ってくるよ」

「いえ、あの、それは不要で」


「ああ、女神の地味様、今日はお一人ですか?パンが焼き立てですが、あとで届けても良いですか?」

「クルミパン?ソフィー嬢が好きな物だね?有難う、多めに買わせて貰うよ」

「いや、コレはお供えですが」


「御機嫌よう、地味様。良いリンゴが入りました。どうぞ」

「ああ、有難う。店の者に後で回らせよう」

「あの、女神様への貢物…」


にこやかに街行く人がよく挨拶をしてくれる。


平民の方は私達貴族と触れ合う事を嫌がる。もし、何か無礼があれば、貴族からどんな仕打ちがあるか分からないと怖がられるのだ。


それでも、俺が地味なせいか、こうやってどんどん商品を売り込んでくる。


ソフィー嬢は馬車で移動が多いし、街中を一人で歩く事はない。それに女神に話しかける勇気が皆無いのか、遠目に見ているだけの様だが、その分、俺にはどんどん皆話しかけるようになった。


これが、地味の良さなのだろうか?


私がそう思っているとまた話し掛けられた。


「女神の地味様、新しい栞はいつ発売ですか?遠方の親戚が欲しがってまして」

「新しいシリーズだね?雨期前に発売予定だ。購入してくれるとソフィー嬢も喜ぶだろう」


「女神様が…喜ぶ?」

「女神様の笑顔が見れる?」

「女神様の幸せの為に…」


話していると、皆がソフィー嬢の事を想像したのか、頬を赤らめて、嬉しそうににこにこしていた。


老いも若きも女性も男性も皆がソフィー嬢の虜。俺はその様子を見て「皆、ジャムもワインも新商品が出る。ソフィー嬢の新しいポスターも店に出されると思う」というと、皆が一斉に俺に振り向いた。


「新しいポスター!」

「女神様の!」

「どんなポーズを!」


俺は皆が話し出したので、その脇を通り過ぎ、店へと向かった。


流石、ソフィー嬢、大人気だな。


そう思いながら、S・クラン店に入ると、店は相変わらず繁盛していた。大繁盛、という程ではないが、ぽつぽつ、と客はいつも入っている。


そして、ここの店員はレオナルド叔父上の親戚筋と、ミレー伯爵に嫁いだ叔母の親戚筋から選ばれた者が店員となっている。


店員は皆貴族で、客が平民だろうと、皆同じように対応する。丁寧に上品に、それがこの店のモットー。店の名前をソフィー嬢にした以上、彼女のイメージを壊す事の無いように、と言うのが我が一族全員の一致の意見だった。


「御機嫌よう、叔父上は上かな?」

「副社長、お疲れ様です。社長は社長室です」

「有難う」


客が俺の方を見て、「あ」と言っているのが分かったので、小さく会釈をすると、慌てて下手な礼をされた。


こういうのも増えた。平民は貴族に礼をするのも嫌がる人もいる。上手に出来ず、下手だと、かえって不敬だ、と叱られると。しかし、俺には構わず皆、一生懸命礼をしてくれる。これもソフィー嬢のおかげなのだろう。


俺は綺麗に礼を返すと、階段を上り、社長室へと向かった。


「叔父上、ランハートです」


社長室をノックし、声をかけると、すぐに「入ってくれ」と中から声が掛かった。


「相変わらずの人気者だったかな?」


俺は花とリンゴを事務員に声を掛けて渡し、支払いの事を伝えた。もし、断られるようだったら、店の割引券を渡す様に伝えた。


「ええ。街を歩くと、皆、何かしらソフィー嬢に食べて貰おうと色々渡してきます」

「女神のナイトは大変だな」

「光栄な事です。私は、地味様と呼ばれていますよ」

「ランハートの地味様はきっと、皆にとっては褒め言葉なんだろうな」


俺は首を傾げたが、まあ、ソフィー嬢は美しいだけでなく、賢く、気品があり、優しい。女神と呼ばれているが、全くその通りだと思う。私はその隣に立てているだけで奇跡の事なんだろうから、少しでも、ソフィー嬢が居心地よくなるようになればと、皆との関係も良くしたいと思っている。


「では、今月の売り上げと、新しい仕入れの事に付いて話をしよう」

「はい。叔父上」


今度の新作のポスター。ソフィー嬢が甘い物を前に本を読んでいるポスターを見た。

今回のポスターもとてもいい。可愛い。


皆、ソフィー嬢を綺麗、女神と言うが、俺はソフィー嬢を知れば知るほど、凄く可愛い人だと思う。


恥ずかし気に頬を染める姿も、美味しい物を食べて、目が少し大きくなりながら上品に食べながらも、最後の一口をゆっくり食べる姿も。勉強する時に、髪の毛をかきあげる仕草も、目が合った時にちょっとはにかんで笑う姿もとても可愛い。


はあ、俺は何回恋に落ちたらいいのだろうか。


「ランハート」


ポスターを見つめていると叔父上から笑われながら声を掛けられた。


「はい」

「そのポスターは、また持って帰っていい。先に仕事を終わらせよう」


俺は、叔父上からからかわれて少し恥ずかしかったが、叔父上も優しく微笑む姿を見て、素直に頷く事にした。


********


その頃の街では…。ランハートの想いとはちょっと違った形で、ランハートの噂話がなされていた。


「はー、今日も地味様、素敵だったねえ」

「うんうん、流石女神様のお相手だよ」


「初めはどんな相手が女神様の婚約者かと思ったけどねえ」

「うんうん」


「貴族なのに、偉ぶらないし、でも、しっかりと線は引いてくれる。若いのにしっかりしてる。あれはいい男だよ」

「流石、地味の方だよ」


街ではランハートが通った後にご近所さん達が集まりランハートの噂話をしていたのだ。


しかし、ランハートは少し勘違いをしていた。


ソフィーはとても人気がある。絶世の美女として皆に人気があるのだ。

しかし、ランハートは今、女神の婚約者という事ではなく、『最高の地味男』としてソフィー以上に街では人気があるのだ。


──そう、()()()()()()にランハートは人気者になっていたのだ。


その親しみやすい、地味顔。穏やかな声。大きすぎず、小さすぎない、背丈も好感の対象として、人々は見ていたのだ。


「うちの娘にもあんな人が婿に来てくれないかなねえ。誠実で、品があって、商売も出来て、そして成績もよいっていうじゃないか」


「地味の方のファンクラブ作ろうか」

「いいなあ、俺も入りたい」


「顔がちょっといいだけの男よりも百倍も千倍もいい男だよ。流石女神様が選ばれるだけあるね」

「しかも、よく見ると、優し気な顔で、落ち着いた色合いで良い男に見えるんだよ。やっぱり品や、優しさは顔にでるのかねえ」

「そうだよ。詐欺師は悪い顔してるじゃないか。ほら、酒場でよくひっかけてる、ベッツ。アイツなんて、もう、悪い顔だもんねえ。昔はもう少しましな顔してたんだけどねエ」


「地味の方、今日も穏やかに話してくれたなあ」

「いいよな。なんだかほっとするよな」


「そうだねえ。地味な子爵様、今日も優しかったねえ。お代はいらないっていっつもいうのにさ。この間、娘が覚えたての礼をしたら、丁寧に礼を返してくれたんだよ。娘、喜んじまって。地味な子爵様は素敵だねえ」

「まったくだよ。地味の方様みたいな人が良い男っていうんだろうねえ」


「ああ、男の俺でもそう思うぜ」

「分かる。俺もあんな男になりてえなあ。女神に好かれるだけあるぜ。ああいうのが本当の良い男ってもんだ」


「そうだねえ。三国一の地味男って言うのは本当だねえ。隣国でも地味様は大人気らしいからねえ。なんだか私まで誇らしい気持ちになるよ」


噂話は街を駆け抜けていく。


そう、当の本人は自分が人気だとは露ほどにも思っていなかったのだ。


「はー。女神様もまた店によってくれないかねえ。でも、女神様は地味様の横にいる時が一番綺麗なんだよ。いいねえ」


ランハートの知らない所でランハートの想いとは別に、ランハートは知らぬ間に人気の地味男へとなっていたのだ。





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